ステレオ・ラボラトリー/スペシャル・エディション |
曲目/演奏
1.子供の行進 1:59
英国近衛兵軍楽隊
2.ある愛の詩 3:39
ヘラルド・ウィンクラーとノーマン・キャンドラー・オーケストラ
3.ラ・ゴンドリーナ 2:38
カテリーナ・ヴァレンテとウェルナー・ミューラー・オーケストラ
4.愛の夜明け 3:09
ノーマン・キャンドラー・オーケストラ
5.マック・ザ・ナイフ 2:35
テッド・ヒース・オーケストラ
6.思い出の夏 3:21
ロニー・アルドリッチとロンドン・フェスティバル管弦楽団
7.シチリアーノ 3:30
ジャック・ルーシェ・トリオ
8.アメリカ 2:21
エリック・ロジャース合唱団と吹奏楽団
LONDON GP4006

「ステレオ・ラボラトリー」シリーズの中の一枚ですがスペシャル・エディションです。どういう選曲の基準か分かりませんが、ここでもノーマン・キャンドラーの演奏が2曲含まれています。そして、一曲はギターのヘラルド・ウィンクラーと組んだものです。先に紹介した時に、ノーマン・キャンドラーはギタリストとしても上がっています。元々クラシックを目指していたのですが、青年期にロックの感化を受けそのときロック・バンドにギタリストとして参加していたんですね。それが縁でヘラルド・ウィンクラーのバックを担当したりもしていました。そういうこともあり、ロックとクラシックの二つの土壌を持ったキャンドラーはミュンヘンフィルを母体としたオーケストラを率いてレコーディングします。元々ドイツ国内でのマイナーな発売だったのですが、それが英BBCの目に留まり最優秀輸入盤として、スリー・スター賞を受賞します。これで一気に知名度が上がりワールド・デビューをします。ただ、もっぱらスタジオ録音だけしかしませんでしたから、日本での人気は今ひとつでした。さて、一方のヘラルド・ウィンクラーは最初ヴァイオリニストとしてデビューします。12歳です。ところが22歳の時全ドイツ音楽コンテストでギター部門で優勝してしまいます。そんなことで、ノーマン・キャンドラーと出会い彼のオーケストラをバックに華やかにレコードデビューをします。しかし、こちらも今では忘れ去られたアーティストといっていいでしょう。全く検索には引っかかりません。そんな彼らが残した演奏の一つが、この「ある愛の詩」です。ここでは、ウィンクラーのギターが中央に定位してオンマイクで生々しく捉えられています。そんなこともあり、オーケストラはやや控えめなアンサンブルに終始しています。しかし、アレンジは凝ったもので彼が並のオーケストラ・リーダーでは無かったことを物語っています。
もう一曲はバッハの作品をベースにアレンジした「愛の夜明け」でストリングスが豊かに響きます。マントヴァーニのカスケイティングスタイルを取り入れたり、ルフェーブルばりのドラムスをフューチャーしたりで中々ゴージャスなアレンジです。アクセントにチェンバロが取り入れられていますが、中間部ではブランデンブルク協奏曲の第3番のメロディが聴こえてきて思わずにんまりしてしまいます。これがドイツ的イージーリスニングとでもいうべき主張が感じられます。
前後しますが、A面のトップは英国近衛兵軍楽隊の「子供の行進」です。英国近衛兵軍楽隊の演奏はこのシリーズの一枚前に「ブラス」のタイトルがあります。その流れを汲む演奏で、オリジナルはフェイズ4の録音ですから元々がハイファイ録音です。ばりばりのブラスが圧倒的な迫力で迫ってきます。ドラムのリズム隊が中央に定位し、テューバがやや右に定位しそれ以外の金管楽器が左右に広がります。適度な残響でシャープな管の響きが生きています。ノーマン・キャンドラーの最初期の録音ですが、ホールトーンを生かしたサウンドが左右いっぱいに広がります。
ヴォーカルでは唯一のナンバー、「ラ・ゴンドリーナ(つばめ)」が収録されています。メキシコ民謡ですな。カテリーナ・バレンテなんて知らない人が多いでしょうが、バックを務めるウェルナー・ミューラーとは切っても切れない関係にありました。そんな彼女の1950年代の歌声です。ステレオ初期ですな。そんな音源ですが、これが再生するとなると厳しい。ボーカルは何とか再生できましたが、オーケストラは歪んでしまいました。次のきゅんドラーの曲はちゃんと再生できるのになぜこの曲だけが・・・と訝ってしまいますがカッティングレベルが高いんでしょうね。なを、このレコードの前ユーザーはこのレコードをかなり聴き込んでいるようで、シリーズ中一番パチパチノイズが目立ちます。まあ、このレコードだけにこういうアーティストのソースが含まれているので珍しかったのかもしれません。
B面も珍しいソースに耳を奪われます。最初はテッド・ヒースの「マック・ザ・ナイフ」です。これも、1950年代の録音ということもあり、中抜けの音です。左にドラムスとテナー・サックス、右にトランペット、トロンボーンの金管にベース、ギター、ピアノなどのメロディ楽器が配置されています。見事なまでに中央に定位する楽器がありません。それでも貧相に聴こえないのは残響成分が中央を埋めているからです。左右の音のバトルは今聴くと懐かしさもあります。それにしても、いい音です。当時のデッカの録音のすばらしさが分かります。クラシックだけが名録音ではなかったんですなぁ。
2曲目はロニー・アルドリッチです。彼はステレオ時代の申し子みたいなところがあり、一人二役で左右にピアノを弾き分けています。フェランテとタイシャーのイギリス版ですが、録音のテクニックで収録しているところがみそです。当時は左右から交互に聴こえてくるピアノに酔いしれたもので、ステレオを満喫できると喜んだものです。それでも、どうしても音がビビって聴こえてしまい再生には苦労した思い出があります。ここで収録されている「思い出の夏」は見つかりませんでしたが、丁度「ある愛の詩」がありましたので聴き比べてみましょう。左右に分かれて聴こえるピアノがわざとらしいですが、意外とスタンダードな演奏です。
3曲目は、このアルバムでしか聴くことが出来ない「ジャック・ルーシェ・トリオ」のジャズ・バッハから「シチリアーノ」です。非常にオーソドックスな収録で、中央にジャック・ルーシェのピアノが定位し、左にベース、右にドラムスという設定です。ジャズの場合は殆どマイクセッティングだけで音が決まるのでこのスタンダードな設定でいかに本物の音が再生できるかがポイントです。原曲はフルート・ソナタですが、ジャック・ルーシェの手に掛かるとまるでこれがピアノのための曲のように聴こえてくるから不思議です。
最後はエリック・ロジャースの「アメリカ」です。元の表記はオーケストラになっていますが、日本語では吹奏楽団になっています。まさに、吹奏楽団とコーラスの共演です。左に男声合唱、右に女声合唱が配され、オケは左に木管と打楽器、右が金管とはっきり分かれています。非常にダイナミックレンジの広い録音で、小生の装置ではフルコーラスの部分で玉砕してしまいました(^▽^
