ワルターのブルックナー交響曲第9番 | geezenstacの森

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ワルターのブルックナー交響曲第9番

曲目/ブルックナー
交響曲第9番ニ短調
1. Feierlich, misterioso 23:51
2. Scherzo. Bewegt, lebhaft - Trio. Schnell 11:30(4:20+7:10)
3. Adagio. Langsam, feierlich 23:17

指揮/ブルーノ・ワルター
演奏/コロンビア交響楽団(ロス・アンジェルスフィルハーモニー管弦楽団?)

録音/1959/11/16,18 アメリカン・リージョン・ホール ロス・アンジェルス 
   
P:ジョン・マックルーア

CBS SONY FCCA-91

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 これまで、ブルーノ・ワルター(Bruno Walter/1876~1962)を取り上げたのはベートーヴェンの交響曲第6番と、ドヴォルザークの交響曲第8番、シューベルトの交響曲第9番、そして、最後の録音のモーツァルトの4回あります。でも、どうも古物指揮者の中では印象が低い印象があります。これは多分にソニーの販売戦略が影響していたともいえます。クラシックに興味を持ち始めた時は、世の中廉価盤ブームが始まっていました。キングなんかは積極的にカラヤン/ウィーンフィルの1960年前後の録音を投入してくれましたので殆ど購入しましたが、ソニーはバーンスタインにしろ、ワルターにしろ全く廉価盤に投入しませんでしたから当方も蚊帳の外です。ただ、オーマンディやセルは惜しげも無く投入してくれましたのでもっぱらそちらを聴き込んだものです。ですから、CBS時代のバーンスタインなんか全くといっていいほどレコードでは聴いた記憶がありません。まあ、ワルターはそんな中でも、ブルックナーの交響曲第4番なんかはどういうわけか聴いていました。多分中学か、高校の音楽室にレコードが揃っていたのかもしれません。そんなことで、ブルックナーとの出会いはワルターの交響曲第4番が最初でした。今思えば、非常にロマンティックな演奏でいい出会いをしたなぁと感謝しています。しかし、ワルターのブルックナーはこれ止まりで、つい最近まで、ワルターにブルックナーの交響曲第9番があるなどとは知りませんでした。

 今回取り上げるのは、そのワルターのブルックナー交響曲だ9番ですが、多分あまり見かけたことが無いジャケット写真だと思います。それもそのはず、市販されているレコードではないからです。ソニーの通販会社だったソニー・ファミリークラブから出ていた全集の中の一枚だからです。先日友人宅に行ったときに偶然発見しました。ということで、本来は小生のライブラリーには無いものですが、興味深い録音なので借りてきて取り上げることにしました。この交響曲は未完で第3楽章までしか収録されていません。で、レコードは第2楽章の途中で見事に切られています。そういうハンデはありますが、レコードならではの良さが随所に感じられる演奏です。

 この録音は、データにもある通り1959年11月、16、18日の収録ということになっています。この日付が問題です。本来、ワルターとコロンビア交響楽団との録音は毎年1月から3月にかけておこなわれるのが通例でした。ところがこの録音だけは11月になされています。なぜでしょう?当時、ワルターは引退生活を送っていましたが、時々ロスフィルの演奏会を振っていました。そして、この年、11月12、13の両日このロスフィルを指揮してこのブルックナーの交響曲第9番を演奏しているのです。そんなことで、この録音はわざわざ録音のためにこの時期だけコロンビア交響楽団を招集して録音したとは思われないのです。手っ取り早い方法は、コンサートの余韻覚めやらないロスフィルと録音した方がスケジュール的にも最適です。そもそも、コロンビア交響楽団のメンバーにはロスフィルのメンバーも多数参加していましたから問題ないはずです。ということで、演奏のところは()でロスフィルを表示しています。最も、これは小生の独断ではなく、ワルターのディスコグラフィのホームページでもその疑問を投げかけています。

 この演奏、ワルターのステレオでのブルックナーの録音の中では一番最初におこなわれています。彼はブルックナー指揮者としてそれほど評価が高い指揮者とは言えないでしょう。事実、彼が遺したブルックナーの交響曲は他に第4番(1960年)と第7番(1961年)があるだけです。ワルターのこれらのブルックナーの演奏は地味な上に音楽の造型が弱いなどと評されることがあるようですが、小生はブルックナーのロマンティックな時代性を背景にした、滋味深いワルターの人間性がにじみ出た演奏のような気がします。確かにコロンビア響の響きはドイツのオーケストラのような重厚さとは無縁なところがありますが、よくワルターの棒に応えて第1楽章ので出しなんかは幽玄なブルックナー開始を表出しています。シューリヒトの演奏のような一筆書きのような味わいとはまたひと味違う芸風を感じます。

 このブルックナーにおけるCBSの録音は、CDで聴くベートーヴェンの交響曲のような弦のざらざらした耳障りの悪い音でなく、幾分しっとりとした滑らかなベルベット(絹とはちょっといえません)の肌触りを感じさせてくれます。たぶん、レコードで聴いたことがいい印象なんでしょうかね?全体のイメージは非常に明るく、幸福感にあふれた響きです。ブルックナーの録音をこの曲から始めようとしたのは何か意味があるのでしょうか、時々魅せるフレージングはワルターがこのブルックナー最後の交響曲に見いだした彼岸の境地を表出しているような気がしてなりません。
 
 第2楽章は弾むようなテンポの音楽が繰り広げられますが、そこにリズムを取りながらワルターの足を踏みならす音が聴こえます。ワルターが渾身の演奏を繰り広げている様がくっきりと聴き取れるわけです。ただ、単純なスケルツォではなく、アクセントが後ろに重心をおいていますからやや引きずるようなテンポになるわけです。これが、ブルックナーの音楽とマッチングしています。こういうところは、さすがドイツ人だなぁと思わせます。

 この演奏、決してこの曲のベスト盤には入ってきませんが、ワルターの晩年のステレオ録音の中でもコンサートと直結していた録音ということでは彼のライブの息吹を感じることの出来る貴重な記録ということが出来るのではないでしょうか。