ジェイコブ・ラテイナーのチャイコフスキー | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

ジェイコブ・ラテイナー
チャイコフスキー

曲目/チャイコフスキー
ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23*
1.Allegro non tropp  19:25
2.Andantino  6:47
3.Allegro con fuoco  6:32
4.Romeo & Juliet Fantasy - Overture**  23:06
5.1812 Overture, Op. 49**  15:22

 

ピアノ/ジェイコブ・ラテイナー(JACOB LATEINER)*
指揮/アルマンド・アリベルティ(ARMANDO ALBERTI)*
  ヘルマン・シェルヘン**
演奏/ウィーン国立歌劇場管弦楽団
録音/1957/05**
   1958 コンツェルトハウス・モーツァルトザール、ウィーン
P:クルト・リスト
E:カール・ヴォーライトナー

 

MCA-WESTMINSTER  MCAD2-98298

 

イメージ 1
 
 今はMCAはユニヴァーサルに吸収されてしまったので、このCDは存在しません。「ウェストミンスター」というレーベルも過去にあちこちのレコード会社から発売されましたが、このMCAのダブルデッカーシリーズはついに日本では発売されなかったものです。で、このCDのメインであるジェイコブ・ラテイナーのチャイコフスキーのピアノ協奏曲もCDでは日の目を見ていません。ていうか、記憶が正しいなら過去日本では発売されたことが無いのではないでしょうか。小生も、このピアニストの演奏はこのCDで初めて知りました。今ではジェイコブ・ラテイナーと表記されていますが、手元にある昭和31年出版の「現代演奏家事典(渡辺譲)」では、ジャコブ・ラタイナーと表記されています。しかも、僅か7行の簡単な紹介です。
キューバのピアニスト。両親はポーランド人。1939-47年カーティス音楽院に学ぶ。直ちにボストン交響楽団とベートーヴェンの「皇帝協奏曲」を共演した。コロムビアにベートーヴェンの「奏鳴曲32番」と「アンダンテ・フェーヴォリ」がある。
 僅かこれだけの記述です。これだけでは何のこっちゃ分かりません。もうちょっと調べてみますと、
彼のデビューは9歳の時、エルネスト・レクォーナ指揮ハバナ交響楽団との共演でした。要するに天才児だったわけです。そして、11歳でカーティス音楽院に入学します。で、在学中でも、フィラブルフィア管弦楽団やカンザス市交響楽団などと共演しています。そして、卒業と供に上記のボストン交響楽団と共演となったのであります。指揮はクーセヴィッキーでした。この時はタングルウッドでの演奏で何と2万人がスタンディング・オーベーションをしたというから驚きではありませんか。

 

 こういう天才児でしたから、その後は世界各地を演奏旅行です。その後1951ー54年は軍役に復し除隊後はニューヨークフィルと復帰コンサートを開いています。ということでは時代の寵児であったわけです。しかし、その後の名前をあまり聞かないところを見ると、成長すれば只の人になってしまったの例に入ったのでしょう。それでも、後にはジュリアード音楽院のピアノ課の教授として門下生を多数輩出しています。

 

 彼は協奏曲の録音はこのチャイコフスキーとベートーヴェンの「皇帝」を残しています。

 

 

 なかなかのテクニックの持ち主だということが分かっていただけるでしょうか。しかし、この頃にウェストミンスターはオケはウィーン国立歌劇場管弦楽団(どうも実態はフォルクスオパーのようです)
を使っているのに指揮者はいまいちでした。ここで伴奏をしているアルマンド・アリベルティ(ARMANDO ALBERTI)は上記の書籍にも登場しない潜りです。こちらもちょいと調べてみましたがあまり資料はありません。どうもオペラ畑の指揮者のようで、ミトロプーロスの元で、シカゴ・リリック・オペラのアシスタントをしていたようです。でもって、指揮はフェリックス・ワインガルトナーに就いて学んだようです。

 

 大指揮者と著名ピアニストの共演という録音が大手レコード会社から次々と発売されていた時代ですから、こういうアンバランスのちょっと怪しい組み合わせのレコードはあまり注目されなかったのでしょうかね。下記はオリジナルのLPで発売されたジャケットです。これ1曲のみでの発売です。御覧のようにピアニストのみの名前で、指揮者やオーケストラの表記は表にはいっさいありません。

 

イメージ 2
           WESTMINSTER WST14018

 

 ラテイナーの演奏は実に堂々としています。知らないピアニストですから、先入観無く聴くことが出来ます。第1楽章からスケールの大きいピアノを聴かせます。ただ、全体が19分台というのは今の時流からいうとややせせこましい演奏ということが出来るでしょう。これがピアニストのテンポなのか指揮者のテンポなのかは分かりませんが、早いパッセージも難なく弾き果せていますから多分ラテイナーのテンポなんでしょうね。そのためか、逆にオーケストラが振り回されているという印象がしないでもありません。それにしても、このウェストミンスターの録音、今聴いても素晴らしい音がします。キレもあるし、ホールトーンを見事に生かした録音です。強いピアノのタッチも音が潰れていませんし、オーケストラの音もみずみずしい響きで捉えられています。一番の特徴はティンパニの音でしょうか。ややクローズアップで捉えられたその響きは独特の響きで思わず聴き耳を立ててしまいます。こういうところは、皇帝でも確認することが出来ると思います。

 

 ピアノの音色は全体として明るめですが、テクニックでぐいぐい聴かせていきます。不思議な魅力です。ここしばらくずっと車の中で聴きっぱなしです。 

 

 しかし、この指揮者なかなかの曲者です。ネットを検索したらこんな録音もしていました。ケテルビーの「コクニー組曲」の中の「Bank Holiday」という楽しい曲です。

 

 

 さて、2曲目と3曲目は演奏はおなじみ、ヘルマン・シェルヘン指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団です。CDのデータでは1959年のステレオ録音とありますが、レコ芸のデータですと1957年5月になっています。レコ芸イヤーブックの方がデータがしっかりしていますので、曲目リストの方はそちらを採用しています。
 この音質も当時の録音としては驚くほど鮮明です。余程・マスターの管理がしっかりしていたのでしょう。AADの表示でこの音質は驚異的です。マーキュリーより優秀だったのではと思わせます。で、調べてみたら、当時ウェストミンスターはハーフトラックテープで録音していたことが分かりました。なかなかやりますなぁ。さすがのシェルヘン氏であって、演奏は粘ります。全編23分あまり。手持ちの音源を調べると、ドラティが18:26、アバドが20:04ですから、このシェルヘンがいかに粘るかというのがわかろうかというものです。 その割には聴かせどころはぐいぐいオーケストラをドライブしていますから、そんなに遅いというイメージはありません。

 

 

 大序曲「1812年」の方は名演が多いので、やや分が悪いのです。こちらの方は音が玉砕している部分があります。シェルヘンの才気が録音スタッフの予想を超えてしまったのでしょう。表面上は標準的な演奏時間ですが、中身は揺れる揺れる。遅くなったり早くなったりでオケが付いていくのが必死な様が分かります。金管の出が不揃いのところがあってもそのまま突き進んでいます。まるでライブを聴いているような感覚です。ストコフスキーの演奏を受け入れる人ならこの演奏が気に入るのではないでしょうか。