奇才マゼールのラヴェル | geezenstacの森

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奇才マゼール
フランス国立管弦楽団のラヴェル

曲目/ラヴェル
1.ボレロ 13:57
2.ラ・ヴァルス 13:01
3.スペイン狂詩曲 15:54
4.道化師の朝の歌 8:42

 

指揮/ロリン・マゼール
演奏/フランス国立管弦楽団 

 

録音/1982/09/12,14 フランス国立放送局スタジオ、パリ
P:ロイ・エマーソン
E:フランス・モーレ

 

Sony Bmg Esprit  82876887712

 

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 これがオリジナルのLPに収録されていた形のマゼール/フランス国立管弦楽団のディスクです。昨年再発された日本盤はこれにサン・サーンスだとかデュカスの作品をカップリングして纏まりのないCDになってしまっています。その点このヨーロッパ盤は、原点に返っての再発で好感が持てます。デジタル初期の録音ですが、マゼールがこの新しい録音方式に果敢にチャレンジしています。マゼールは指揮歴が長いので、ラヴゥルのボレロは既に何度も録音しています。

 

 最初が1971年にEMIに録音したニュー・フィルハーモニアとのもの、そして、ソニーに録音したこの録音、さらには1996年にRCAにウィーンフィルとも録音しています。後年になるほど、テンポはだんだん遅くなってきています。最初は13:00、これが13:57で、ウィーンフィルとは14:41と約1分単位で遅くなっています。小生のホームページでも書いたように、この曲は楽譜に記載されたているのは四分音符72というメトロノーム速度の指定で、全曲がインテンポで演奏され3/4拍子342小節で終わっているからその指示通りにやれば13分50秒がスタンダードな演奏ということになります。ということは、このマゼール/フランス国立管弦楽団との演奏はラヴェルの指定テンポに忠実な演奏ということが出来ます。ただし実際、ラヴェルがラムルー管弦楽団と残している録音は15:27であまり当てにはなりませんけどね。

 

 

 それにしても心地よいテンポです。最初のニュー・フィルハーモニアやウィーンフィルとの録音はいかにも奇才ロリン・マゼールという感じで、コーダの手前でものすごくテンポを落として大見得を切っていたのですが、この演奏はしごくまっとうにインテンポで最後まで突っ走っています。そういう意味では、アクの強さはありません。反ってこちらの方が異色に思えてしまいます。何でこの録音だけいつもの奇才ぶりを発揮しなかったか不思議ですが、やはり本場のオーケストラに敬意を表してでしょうかね。スネアドラムの単調なリズムに二つの主題が交互に登場する単純な構成ですが、マゼールはここでは恣意的にクールな響きの中にラヴェルの色彩を閉じ込めているかのような表現を取っています。でも、聴き込むとアクセントの処理やフレーズの端々にマゼールの影を見ることが出来ます。そして、最後の素っ気なさも当然ながらの帰結でしょう。そんなことで、ある意味一番スタンダードな「ボレロ」ということが出来ます。ちなみにニューフィルハーモニアとは以下の演奏です。

 

 

 それに反して、「ラ・ヴァルス」はポルタメントをたっぷりとかけたメリハリの強い演奏で、この落差は何なんだという感じになってしまいます。でも、この演奏を聴くとなぜかほっとします。やっぱり、これでなくちゃマゼールではないわな。厭世的な時代を反映した、どことなく退廃的な雰囲気を持った曲の特徴を十二分に捉えた演奏です。

 

 

 『スペイン狂詩曲』は秀演です。恐らくは,明晰ですっきりとした中に,慎みのある耽美さを表現するのがマゼールの意図なのでしょう。4つの部分の性格を見事に描き分けています。フランスのオケは管が昔から素晴らしいので、そういう面では管のソロが頻繁に登場するこの曲では個人のテクニックの見せ所なんでしょう。マゼールはそういう、オケの特質を上手く利用して曲を作り上げています。

 

 

 「道化師の朝の歌」は原曲がピアノ曲で、ラヴェルが30歳の時に書いた組曲『鏡』の中の一曲です。それを、作曲者自身が13年後に管弦楽に編曲しています。これで、一挙にメジャーな曲になりました。オーケストレーションの魔術師の面目躍如たる作品に仕上がっています。エネルギッシュに展開する音楽、といえばマゼールのお得意分野。ピエロの踊りというより、もはや熱狂するサーカス団のように感じられて、ある意味コケティッシュですらあります。元気だけど気まぐれなリズムに、不協和音が織りなす異国風メロディと、ラヴェルの中に流れるスペインの血が躍動するこの音楽。いいですなぁ。アルボラーダ(alborada)とは古いスペイン宮廷の朝に行われた行事で音楽を指しますが、他に「暁」「起床ラッパ」の意もあります。まさにコーダの部分でそれを感じさせますね。相性という意味ではこのフランス国立管弦楽団とのラヴェルが一番マゼールに合っているような気がします。