能登・キリコの唄 | geezenstacの森

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能登・キリコの唄

著者/西村京太郎
出版/光文社 カッパ・ノベルス

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 白昼の東京で銀行強盗が発生した。しかし、現場にいた青年の活躍により、強盗団は現行犯で逮捕される。勇敢な行動により英雄としてマスコミに取り上げられたその人物は、栗原太郎という無職の若者だった。しかし、取り調べが始まると、強盗たちは口を揃えて「彼も共犯だった」と証言し始め、栗原自身も姿を消してしまう。事件を担当する十津川警部が、栗原の素性を探っていくと、親に捨てられ福祉施設で育てられた過去が判明する。彼が拾われたときに入れられていた段ボール箱には、ある文字が記されていたという。その文字を手掛かりに能登に向かった十津川は、予期せぬ事態に巻き込まれ、捜査は難航を極めていく…。キリコ祭りの能登を舞台にした、傑作長編トラベル・ミステリ。---データベース---

 この作品は、2007年4月から10月にかけて、「野生時代」に発表された作品です。先に取り上げた「夜行快速(ムーンライト)えちご殺人事件」が中越地震を題材に取り上げた事件であったのに対して、こちらは2007年(平成19年)3月25日9時41分58秒(JST)に石川県輪島市西南西沖40kmの日本海で発生した「能登半島地震」を題材に取り上げています。まさにこの小説は、その地震をリアルタイムで描いているところが特徴となっています。

 何しろ、十津川警部と亀さんが新幹線で米原経由で輪島へ向かっている途中で、この地震が発生するからです。その部分の描写はリアリティがあります。刻々と情報が入る中で、北陸本線は点検作業で不通となっており、米原では足止めをくらってしまうからです。そして、なんとか金沢まではたどり着きますが、その先は道路も寸断されていて進むことが出来ません。

 ただ、ストーリー自体は全くもって不自然きわまりない展開です。データベースにあるように、冒頭の銀行強盗は栗原という青年の活躍で未遂に終わるのですが、この人物の扱いが全く持って不可解です。最初はヒーローのような扱いであるのに、徐々に疑惑の目が向けられていきます。最初、警察は何の疑いも無くこの青年を表彰までするのです。そして、犯人グループもこの栗原については共犯者だという供述もしていないのです。こんなバカな設定があるでしょうか。最終的にはこの事件は狂言強盗で主犯はこの栗原なる人物なのに、警察は何の捜査もしていないのです。

 まして、殺人事件でもないのに捜査一課がこの男の出自の調査をやるという何とも奇妙な展開です。まあ、舞台が能登半島は宇出津町な訳ですがタイトルのキリコ祭りの中でも、この宇出津の祭りが暴れ祭りということでその祭りがクライマックスで登場します。なんか無理矢理この祭りに結びつけるかのような強引なストーリー展開です。

 最初の銀行強盗では殺人事件が発生しません。この能登で、地震の後に殺人死体が発見されます。しかし、事件は完全に石川県警の管轄です。まあ。殺された男が東京の人間ということだけで、わざわざ警視庁の刑事が関わるような事件ではないのです。殺された男が私立探偵というのも安易な設定です。そして、この私立探偵と栗原との関係も本来的には殺人に発展する関係とはいい難い設定です。

 事件の展開には栗原の出自と関連して施設の園長が重要な鍵を握っているのですが、この登場の仕方が出し惜しみし過ぎです。栗原のことは全部話したといいながら、ストーリー上は最後まで肝心な部分は隠しているという展開です。推理小説としてはアンフェアな展開です。そして、いつものように同じような証言が何度も登場して、クドイと感じることが再三です。せめて単行本にするなら、こういう無駄な部分は校正してから出版してほしいものです。矛盾といえば小説の中で宇出津はN町にあると最初は表記されますが、途中で能登町の宇出津と表記されている箇所もあります。実在の地名なので何もぼかすことは無いのに、そうしているから辻褄が合わない記述が出てきます。

 ちゃんと編集者が校正して、読むに絶える内容であれば文句はいいませんが新刊で買ってまで読む本では無いでしょう。まあ、こんなことで書き捨ての小説ですから、暇つぶしに読むのにはいいかもしれません。

 ただ、登場する宇出津の「暴れ祭り」は訪れる価値はありそうです。こんな祭りです。