シノーポリ/フィルハーモニアの「イタリア、未完成」 | geezenstacの森

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シノーポリ/フィルハーモニア
「イタリア、未完成」

曲目
メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調op.90「イタリア」
1.第1楽章 Allegro vivace 10:24
2.第2楽章 Andante con moto 7:30
3.第3楽章 Con moto moderato 8:23
4.第4楽章 Saltarello; Presto 6:17
シューベルト
交響曲第7番ロ短調D.759「未完成」
5.第1楽章 Allegro con brio 16:32
2.第2楽章 Andante con moto 12:31

 

指揮/ジョゼッペ・シノーポリ
演奏/フィルハーモニア管弦楽団

 

録音/1983/06 キングスウェイ・ホール、ロンドン

 

P:ギュンター・プレースト
E:クラウス・ヒーマン
D:ヴォルフガング・シュテンゲル

 

DG DCI81948

 

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 「未完成」「イタリア」というとどちらもそれぞれの作曲家の代名詞のような名曲です。しかし、データベースで調べてみても、意外とこの2曲の組み合わせの録音は多くありません。知っている限りでは、トスカニーニ、カンテルリ、フルトヴェングラー、マルケヴィッチぐらいしか思い当たりません。でも、調べてみるとなかなかの組み合わせで、「未完成」が初演された時、その演奏会でトリを飾ったのがこのメンデルスゾーンの「イタリア」でした。シノーポリ、フィルハーモニアのデビュー盤となるこのアルバムはそういうところも意識して録音されたのでしょうかね。何しろ、シノーポリのデビュー当初は、まともなレパートリーではなく、ちょいと一捻りしたものばかりでしたからね。

 

 ところで、このCDジャケットからして一般のものとはちょっと違うことにお気づきでしょうか。こんな番号のCDはついぞ検索してもでてきません。一般には410862-2という原盤の番号で発売されていました。国内の番号はF35G-50109、POCG1191、POCG-7033などと番号を替えて再発されています。で、このCDですが左上にG0LDの文字があるように一般には金蒸着CD、つまりゴールドCDとして発売されたものです。今ではまったく見向きもされないものですが、日本では主に88年~89年くらいに通常のCDとは別にGOLD CDを発売していた時期があり、これはそのとき発売されたものです。まあ、マニア向けのCDといったところでしょうか。昨今のSHM-CDのようなもんでしょうかね。通常のCDの反射膜に使われているアルミニウムと比べて、金は粒子が小さい為、その分、レーザーが反射した際に於けるデジタル波形歪が少なくなる為、反射膜にアルミニウムを使用した通常のCDに比べて音質が良いと言われ、又、酸化による腐食に対する耐性に於いて金はアルミニウムよりも断然優れている為に、保存性にも優れているという特長がありました。ここで、過去形にしたのは現在は見向きもされていないからです。そして、既にSHM-CDもクラシックではほとんど新譜が発売されなくなっています。手を出さなくて良かった・・・・

 

 さて、そういう遺産のCDです。で、このCDの面白いのは通常のオリジナルは未完成から収録されているのですが、なぜかこのCDは「イタリア」から収録されているのです。何でこんなことになっているのか理由は分かりません。ゴールドCDのステイタスのためでしょうかね。ですからディスクとしては存在するのにCDDBには登録もされていないという代物です。

 

 シノーポリの「イタリア」の方は,非常に明快・率直に始まります。84年のシーズンからシノーポリはこのフィルハーモニア管弦楽団の常任指揮者になっていますからそういう意気込みの現れの選択なんでしょう。彼がイタリア人だということを印象づけるのに相応しい選曲です。それにしても、ここで聴かれるフィルハーモニアの「イタリア」は非常に明るくきらきらとした響きです。おそらく、シノーポリの頭には先人のクレンペラーの影があったのでしょうか。クレンペラーのイタリアに匹敵するような明るさの中にも重厚さがある素晴らしい第1楽章です。クレンペラーの影といえば、この演奏弦が対向配置です。そういう意味ではフィルハーモニアの伝統となっているようです。その性かもしれませんが、クレンペラーの演奏を彷彿とさせる響きになっているのでしょう。

 

 

 第2楽章は慎重なテンポ感で終始します。低弦の上に出てくるヴァイオリンの響きは抑制が効いており,悲しみを抑えているような魅力があります。決めるべきところで、きっちりアクセントをつけることで、音楽をより生き生きとさせています。また、強弱を使い分けて出る部分と引っ込める部分との差をつけることで、奥行きを感じさせ、立体感をだしています。

 

 

 第3楽章は評価の別れるところです。ここはやたら遅目のテンポです。他の演奏は、多少の差あっても大かた6分から6分30秒程度なのですが、シノーポリは8分23秒もかけています。似たようなアプローチはショルティとかプロムシュテットなんかもしていますがやはり断トツに遅い演奏です。これを受け入れるか否かがこのシノーポリの評価の分かれ目でしょうか。しかし、全般にしっとりと柔らかい雰囲気に包まれていて、このテンポに慣れ中間部のホルンの信号なんかを聴くと、これはこれでありかなという気分にさせてくれます。

 

 

 この対比の中で第4楽章では、エネルギーがあふれ出るような激しい演奏を聴かせてくれます。6分台の演奏はこれも遅い部類には入るのですが、第3楽章からの流れで聴くとこれでスピード感があるんです。しかし、彫りの深い演奏で表情付けはメリハリがあってカッチリと締まっていて緊張感があります。同じイタリア系でも、多分に精神医学的観点があり、ムーティやアバドとはやや毛色が違います。まぁ、そこにシノーポリの魅力があるといってもいいのですがね。

 

 

 シノーポリの「未完成」も普通よりやや遅目のテンポです。当然,提示部の繰り返しもしているので第1楽章だけで16:32かかっています。この曲は後年ドレスデン・シュターツカペレとも録音が有りますが、断然このフィルハーモニア管弦楽団との録音の方が聴き映えがします。個人的にはシューベルトはこの「未完成」よりも「ザ・グレート」の方が好きなのですが、このシノーポリの演奏でこの曲の良さを再認識したほどです。遅めのテンポでもだれる事無く、ことさら弱音部が美しく、シューベルトの歌謡的旋律を際立たせながらも、不思議な緊張感を感じさせる演奏です。チェロの第2主題も甘すぎず抑制されたストイックな響きが聴けます。これに対して、展開部はかなり劇的で、クレッシェンドとともに微妙にアッチェレランドをかけていくようなところがあります。いたるところで微妙なニュアンスの変化をつけており,これこそ精神医学的観点からの深層心理をえぐり出す雰囲気を持つシノーポリならではの解釈です。その割にカラヤン/ベルリンフィルのようにロマンティックな表現にどっぷり浸かる音楽になっていな意図頃がいいですね。シノーポリはフィルハーモニアからこういう音を引き出せるのかとびっくりしました。音といえば、この録音、クラウス・ヒーマンというエンジニアが担当しています。どちらかというと、従来のグラモフォンのトーンとは違う響きなのも新鮮に感じたところです。音に奥行き感があり、それでいて低音はあまりブーストされていないのでナチュラルな響きがします。こういう音ならグラモフォンもいいですね。

 

 

 第1楽章に輪をかけて第2楽章も遅い演奏です。後のドレスデン・シュターツカペレとの再録したものよりも5分近く長い 29分を超える「未完成」になっています。いゃあびっくりです。決して古風な解釈ではなく、そこら辺はフルトヴェングラーとは違います。中間部のクラリネット~オーボエのメロディを聴くと「明るいけど悲しい」という妙な気分になります。深刻ぶった響きではないんですね。その辺の明るさと暗さの交錯がシノーポリは実にうまく表現しています。こういう表現は、やはりオペラ指揮者だなあと納得するところです。おのおののフレーズがドラマティックで音楽の後ろにあるストーリーが見えて来る演奏です。

 

 

 こういう名演奏が今ではオリジナルな形と違う形で販売されています。いわゆる名曲セットみたいな形ですね。ここはぜひ、シノーポリの意図を組んだオリジナルの形での演奏家、もしくは昨日のプログで取り上げたような「未完成」セットの形での再発を期待したいものです。

 

 さて、最後に彼のオペラものを一つ聴いてみましょうか。ベルディの「アイーダ」から勝利の行進曲です。