ヤルヴィのアルヴェーン管弦楽曲集 | geezenstacの森

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アルヴェーン
交響曲全集、スウェーデン狂詩曲集

曲目/アルヴェーン
CD1
1.スウェーデン狂詩曲第2番『ウプサラ狂詩曲』 Op.24
2.交響曲第1番ヘ短調 Op.7
3.ドラパ『オスカル2世王の追憶に』 Op.27
4.黙示録カンタータ Op.31~アンダンテ・レリジョーソ
CD2
5.スウェーデン狂詩曲第1番『夏至の徹夜祭』 Op.19
6.交響曲第2番ニ長調 Op.11
CD3
7.スウェーデン狂詩曲第3番『ダラー狂詩曲』 Op.47
8.交響曲第3番ホ長調 Op.23
9.バレエ組曲『放蕩息子』
CD4
10.岩礁の伝説 Op.20
11.交響曲第4番『海辺の岩礁から』 Op.39
CD5
12.組曲『山の王』 Op.37
13.交響曲第5番イ短調 Op.54
14.組曲『グスタフ2世』 Op.49~エレジー
指揮/ネーメ・ヤルヴィ
演奏/ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団

 

録音:1987/12 5.6
1988/02 1-4
1989/05 7-9
   1990/10/04,06 10.11   
   1992/12/12-18 12-14 ストックホルム・コンサートホール、スウェーデン
P:ロバート・フォン・バール 1-9
 ロバートメサフ 10-14
E:ロバート・フォン・バール 1-4
 シーグベルト・エルンスト 5-11
 インゴ・ペトリィ 12-14

 

 

Brilliant Classics BRL8974 (原盤スウェーデン BIS)

 

 

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 これは、かつてBISから出ていた録音を廉価盤レーベルのブリリアントがライセンスを取って再発したもので、録音も演奏も悪いはずもありません。 摩訶不思議なことは、ちゃんとBISのカタログにもこの録音のセットが残っている(BIS1478)という不思議さです。こちらがBIS盤です。

 

 

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 北欧音楽のファンでないとあまりアルヴェーンなんて聴いたこともないでしょうね。ちなみに音楽之友社の名曲解説全集には彼の名前はありません。アルヴェーン (1872-1960) はスウェーデンの作曲家で、メランコリックな情緒纏綿たるいかにも後期ロマン派といった作風です。一聴したところではR・シュトラウスの音楽に近いところが感じられます。ただ、水彩画家でもあったせいか、濃厚であっても透明感があるところがアルヴェーンの個性でしょうね。 彼の作品の中で一番知られているのはNHKの「きょうの料理」のテーマとそっくりの旋律を持つの「スウェーデン狂詩曲第1番の「夏至の徹夜祭」くらいでしょうが、3曲ある「スウェーデン狂詩曲」はどれも聴いていて素晴らしい作品です。交響詩と狂詩曲の違いはよく解りませんが、wikiによると下記のような違いがあるようですが境界線は曖昧ですね。(違いは字数制限のためコメント欄に)

 

 

 そのスウェーデン狂詩曲の一番は 夏至の徹夜祭」のタイトルが付いている通り夏の音楽です。短い北欧の夏を楽しむ楽しい音楽で、夏は日の沈まない光に満たされた季節の到来を踊り戯れる若者たちを描いているような光景が目に浮かびます。好きな曲なのでいろいろな演奏で親しんでいますが、このヤルヴィの演奏は一言でいうと、非常に生真面目な演奏であるといえます。最初のポルカは速めのテンポで軽い入りますが、あまり緩急をつけず、即興的な感覚も押さえられています。そのため、アルヴェーンらしいユーモアよりは、ヤルヴィらしいストレートな表情付けが前面に出ています。中間部はテンポは遅くあっさりした表現で、白夜の幻想感はあまり漂ってきません。後半部は比較的緩いテンポで、一歩一歩踏みしめるようなリズム感はやや重たい感じがします。コーダは非常に遅く、重厚感すら漂うのですが、曲のイメージとはいささかかけ離れています。もう少し明るい表現の方がいいのかも。さて、ネットで検索してもこの曲は、ポップスとして広く知られていることが分かります。クラシックとしての演奏よりはイージーリスニングとして取り上げられることが多いようです。そんな中からフランク・チャックスフィールドの演奏で聴いてみましょう。

 

 

 

 

 スウェーデン狂詩曲第2番「ウプサラ」はホルンの荘厳な合奏で開始され、静かな木管、弦が絡んでじわじわと夜明けのように静謐だが、やがて牧歌的なリズムが刻まれ盛り上がってきます。このタイトルのウプサラとは彼の勤めていた大学のことであり、1907年5月にウプサラ大学で行われた、有名な植物学者カール・フォン・リンネの生誕200年記念行事のために作曲されたものです。ここでアルヴェーンはブラームスの「大学祝典序曲」のスタイルで、学生歌をベースにしてこの曲を書いたのです。ですからこの曲には多くのスウェーデンの曲が引用されています。前奏曲風にホルン、弦の順で演奏されるのがA.リンドブラードの「森を越え、海を越え」。主部の最初がスウェーデンで大変親しまれているグスタフ王子の行進曲「学生の幸せな日を歌え」、続いて4分半あたりからの静かな部分でC.M.ベルマンの3曲が引用される。その後の金管によるフーガはG.ヴェンネベリの歌をベースにしている。ここはワーグナーの「ニュルンベルグのマイスター人がー」序曲風の堂々としたものですが、実は当時有名だった酒席のパロディーソングらしい。フーガの終わりはホルンの豪快な下降音とクラリネットの合いの手が二度。ホルンの音型は酒を一気に飲み干す情景を表したという。少し気位が高くて、陽気な学生の街によく似合った楽しい音楽です。ヤルヴィという指揮者はタイプとしてはマリナーに似ているのでしょうか、何でも無難に演奏して纏めてしまうということでここでもそつのない演奏をしています。曲を知るにはいい演奏なのでしょうが、やや面白みに欠けるところがあるのも事実です。この曲はオリジナルの形で聴いてみましょう。1番の陰に隠れてはいますが、なかなかの佳曲です。ブラームスが好きな人ならこの曲の良さが分かるのではないでしょうか。

 

 

 
 スウェーデン狂詩曲第3番「ダラー狂詩曲」は、アルヴェーンがスウェーデン中部のオルサ湖の美しい風景に触発されて書いたものです。美しい自然はアルヴェーンにメランコリックな音楽を呼び起こし、この湖のあるダレカリア(ダラー)地方の民謡を素材にしたラプソディーを書かせた。ダレカリア地方は晩年のアルヴェーンが過ごした地で、「スウェーデンのふるさと」とも呼ばれる民謡の宝庫だったのです。ソプラノ・サックスに始まり、同じ旋律で終わるこの曲は、緩急の繰り返しで構成され、しかも民謡素材をほとんどそのまま用いています。狂詩曲の所以ですね。ヤルヴィの解釈は淡々としたもので、ちょっとドラマ性の部分は弱いのが残念ですが曲の持つほの暗さとかメロディアスな部分は美しい表現です。

 

 

 

 さて、アルヴェーンは交響曲も全部で5曲書いています。このセットにはすべての交響曲が収められていますが、交響曲第5番は、初演の後で出来映えに不満を感じたアルヴェーン自身によって後半の2楽章の演奏が禁じられ、補筆途中に亡くなった為に長い間第1楽章のみが演奏されてきましたが、今回のこの録音に際してレコード会社のBIS Recordsが遺族からの許可を得て、初めて全楽章が録音されたものが収録されています。そういう意味では、史上初の管弦楽全集としての価値はあるのでしょう。ただ、ここ一週間これらの曲を聴き込んできましたが、正直面白みに欠ける曲です。どうも交響曲を聴いているというよりは、標題音楽を聴いているといった感じが全体にしてしまいます。基本的にアルヴェーンは狂詩曲作曲家なのかもしれません。

 

 さて、その交響曲。1番も2番もしっとりと始まるロマンティックな傾向の作品です。華々しく始まり少々異なる雰囲気の第3番は、交響組曲といった風情です。そして、音の重ね方なんか所々でR,シュトラウスが顔を出します。ロマンティックなんですが管弦楽法は濃厚なんですね。第4番「遠き岩礁から」は、同ディスク収録の交響詩「岩礁の伝説」と関連があり、ヴォカリーズも含む濃厚なロマンティシズムあふれる単一楽章作品でやはりR.シュトラウスの交響詩の雰囲気を持っています。ただ、どの作品も、同時代のシベリウスやニールセンと比較すると作風的には少々時代遅れな感じがしないでもないですね。

 

 

 若干25歳で書き上げた交響曲第1番ヘ短調は4楽章35分に及ぶ立派なものであって、チェロの暗鬱なるソロで開始されます。悲劇的かつ浪漫の味わいの旋律が続きます。第2楽章「アンダンテ」も悲劇的で甘美、第3楽章「アレグロ」は一転軽快で明るいスケルツォであり、終楽章はシンプルで親しげなる旋律が堂々たるフィナーレとなります。

 

 

 アルヴェーンの第4交響曲はそういう特性が一番出た曲で、男女の愛をテーマに描いた作品でソプラノとテノールのヴォカリーズを使ってで悩ましくも美しい音楽を作り上げています。曲が切れ目無く演奏されるということでは巨大な交響詩の世界です。R.シュトラウスが好きならこの曲が気に入るのではないでしようか。海と愛のドラマを描き出したこの曲は艶かしいエロティシズムさえ感じます。

 

 

 アルヴェーンは、交響曲第4番の作曲後20年以上たって第5番に着手しましたが、その完成への道は険しいものでした。第1楽章は難なく完成することができたものの、全曲の完成までは10年の期間を要し、その後も改訂を行い、最終2楽章については、ついに満足の行かないままで遺されてしまったのです。確かに劇的な緊張に富む第1楽章に比して、後続の楽章は若干印象に乏しいような感もありますが、アルヴェーンらしさも出ており、後世の我々は、あからさまな未完とならなかったことを吉とすべきかもしれません。アンダンテ・レリジオーソは、自作の「黙示録カンタータ」からの抜粋編曲で、弦、ハープ、チェレスタが夢のように美しい響きを紡ぎ出します。

 

 

 とまあ、ブリリアント盤には「アルヴェーンの交響曲」と題された英文の解説書を要約するとこんなことが書かれていますが、他の管弦楽曲に付いては書かれていません。そんな訳で無知を知りつつ聴き通しました。廉価でアルヴェーンの管弦楽作品世界を楽しむには過不足の無いヤルヴィ/ロイヤル・ストックホルムの演奏ですが、やや面白みに欠けるかもしれません。でも、これを契機に北欧にも素晴らしい作品があることを知るにはいいきっかけになるでしょう。アルヴェーンは守備範囲は狭い人でしたが、親しみ易いメロディで後期ロマン派の流れを組みつつ、自国の風物や自然をしっかりと感じて、それを標題音楽に取り込んだ民族主義的な側面もしっかり持った人といえるでしょう。下は交響曲第4番の第1楽章です。

 

 

 

アルヴェーンの人となりは下記に詳しいので覗いてみて下さい。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~y-koba/alfven05.htm