コバケンのサン・サーンス |
曲目/サン=サーンス:
交響曲第3番ハ短調 作品78「オルガン付」
1.第1楽章(第1部) アダージョ-アレグロ・モデラート 10:24(10:49)
2.第1楽章(第2部) ポコ・アダージョ 10:46(11:10)
3.第2楽章(第1部) アレグロ・モデラート-プレスト 7:49(8:11)
4.第2楽章(第2部) マエストーソ-アレグロ 8:36(8:28)
スメタナ:連作交響詩『わが祖国』より
5.第1曲/ヴィシェフラド(高い城) 15:45
6.第2曲/ヴルタヴァ(モルダウ) 12:20
7.第3曲/シャールカ 10:33
指揮/小林研一郎
演奏/名古屋フィルハーモニー交響楽団
オルガン/ 小林英之
録音/1998年7月20日、サントリーホール
演奏/名古屋フィルハーモニー交響楽団
オルガン/ 小林英之
録音/1998年7月20日、サントリーホール
オクタヴィアレコード EXTON OVCL00079

友人から音楽のお歳暮ということでこのCDをいただきました。何か12月からサン=サーンスづいているような気がして、早速今年の最初のCDはこれを取り上げることにしました。ネットなどで検索すると、名フィルの東京公演の中ではもっとも成功したコンサートのようで、ファンからの要望もあって録音が市販化されたということのようです。何しろ公演は1998年で、CD発売は2002年ですからね。まあ、そういうこともあってか最初は市販化が目的の録音ではなかったというのがその録音からも聴いてとれます。なにしろコバケンの唸り声が随所に聴き取れますし、足踏みの音まで明瞭に収録されています。また、拍手も盛大に収録されています。そういう意味では本当の未加工のライブ録音ということができると思います。大手にはセッションだかライブだか分からん録音が多いですからね。
小林研一郎はチャイコフスキーの5番とともにこの曲も十八番のようで、既にチェコフィルとも録音しています。昔、その演奏を聴いたことがありますが、どうも安全運転を心がけているのか今ひとつ熱気というものが感じられませんでした。この名フィルとの録音はそのチェコフィルから2年後の演奏ということになります。で、コバケンの成長の跡と言うか修正が行なわれていて、テンポは以前より幾分速めになっています。安全運転からの脱却なのでしょうか。上記データの演奏時間の()付きはチェコフィルとの演奏時間です。まあ、第2楽章の第2部だけは名フィの方がちょっと遅いですけど拍手の時間もカウントされていますから、実際には8分05秒ほどです。
それでも、コバケンのテンポは充分まだ遅い部類で第1楽章は開始されます。しかし、さすがプロのオーケストラですね。学生のオーケストラとはレベルが違います。冒頭の導入部の弱音もきっちりと揃っていますし、実に美しいアダージョです。個人的にはオーマンディのテンポが一番好きなのでどうしてもそれと比較しながらということになってしまいますが、この曲はあまり遅いテンポだとサン=サーンスらしい軽快さが消えてしまうのです。コバケンの指揮はそのギリギリのところで軽快さも維持しています。記録的録音を主眼にした録音のためか、やや楽器のバランスが気になるところはあり、トランペットがやたら突出しているとか、オーケストラノイズを拾いすぎるといったところが少々耳障りではありますが、全体的には素晴らしいバランスで音楽が鳴り響きます。名古屋フィルハーモニー交響楽団も上手くなったものです。創設当時から地元ですから聞いていますが、最初は聴けたもんではありませんでした。特に管が酷くて、毎回ホルンは音が落ちていましたし、オーボエとかクラリネットも音がひっくり返っていました。創設当時の指揮者は清田健一氏、それでも、地元で初めてのプロのオーケストラですから、なんだかんだといいながらも聴きにいきました。やがて、音楽総監督に故岩城宏之氏、森正を迎えてからはめきめき上達しました。福村芳一氏が常任の時は若い女性がわんさかいましたね。外山雄三氏の時は毎週テレビ番組があって楽しませてもらいました。その後仕事が忙しくしばらく空白期間がありましたがこのコバケンの常任時代にまたぞろ出かけるようになって現在に至っています。
さて、第1楽章の第2部のオルガンの登場の場面はややクールな感じがします。バランス的にはもうちょっとオルガンが鳴ってほしいなという感じです。調べたらこのサントリーホールのオルガンはストップ数74、パイプ総数5,898本、手鍵盤4段ペダル付というものです。愛知県芸術劇場コンサートホールよりはちょいと小型というものでしょうか。まだ、このホールの音色が耳に残っていますからどうしてもその生の音と比べてしまいますからいけませんな。CDなんかの録音では結構ド派手になっているものも存在しますからね。オルガンの響きに乗って弦が全体で歌うのですが、本当に美しいですね。中間部の練習番号Sの4章節目は圧巻で、1stVnと2nd Vnだけの掛け合いがあり、ある指揮者曰く、「この曲はこの部分が最高なんだ」そうです。確かに、シーンと静まり返った中での、この部分はなんとも言えなく美しく響きます。天使の降臨のようですな。
アウフタクトで始まる2楽章前半は、まず、聴くだけの 人にとっては、拍子の取り方が、楽譜を見ると違うのが分かるでしょう。 これ、ホント違うんですよ。是非、スコアを見てください。第2楽章は前半は、アレグロ・モデラートでテンポもあがり情熱的な主部では、弦楽器群と管楽器群が激しいバトルを繰り広げます。音楽に流れがあり素晴らしい演奏です。ところで聴いているとこの録音は流し録りのようで、インデックスこそありますがインターバルもそのまま収録されています。ということは上記のタイミングは実際にはもうちょっと早いということですね。録音はクリアですが、中間部のプレストの木管とピアノがめまぐるしく活躍するのですが、ややピアノの音が聴きとりにくいバランスになっています。オケにこれだけピアノが目立つ曲はロマン派では珍しいですですから、ここはしっかり録ってほしかったところです
第2部に入ってからのオルガンと4手連弾のピアノの部分でもそのことがいえます。まあ、この曲ではオルガンはソリストの名前がクレジットされますがピアノは残念ながらオケの一員としての位置づけです。その差が出ている録音です。しかし、この第2部はこの曲の一番の醍醐味の部分です。コラール風のメロディにカノン風の技法が重なってまさにサン=サーンスの華麗な音楽が花開きます。コバケンのテンポはじっくりとした進捗で盛大にオケを鳴らしています。ティンパニのアタックも強く一瞬スピーカーが壊れるのではないかというような音量が響きます。さすがエクストンの録音です。ここでのコバケンは唸り、足を踏み鳴らしての大熱演の様が伝わってきます。最後はオルガンとオーケストラが一体となり、壮麗な音の大伽藍の中で全曲が締めくくられます。最後のクライマックスもすばらしいものです。生で聴いていると、 「ブラヴォー」と叫びたくなる部分で、この録音でもブラヴオーのかけ声がしっかりと収録されています。確かにこれは熱演の記録です。
スメタナの「我が祖国」からは前半の3曲が演奏されています。こちらもコバケンの十八番ですから第1曲の「高い城」から熱の入った演奏です。名フィルは本場の「プラハの春」音楽祭にも2004年に招かれて参加しているほどの実力ですから息のあったところを見せています。冒頭のハープの音がやや大きめに響くのは録音のせいなのでしょうか。それでも全体は重厚なサウンドで切れ味のあるアンサンブルと相まってライブの熱気がひしひしと伝わってきます。「モルダウ」も速めのテンポながら、聴かせどころの壷はじっくりメロディを歌わせて聴いていて気持ちのいい演奏です。弦楽のアンサンブルがしっかりとしていて、弾むようなリズムで歌われる中間部が活きています。この曲を知り尽くしたコバケンの演奏には説得力があります。このCDでは「高い城」から間を空けずに「モルダウ」が演奏されていますが、実際の演奏会もこの通りだった様です。「モルダウ」の最後の部分に「高い城」のテーマが演奏されますから、理解出来る演奏です。そして、3曲目は「シャールカ」です。ここでは休止がとられています。激しい音楽ですから態勢を整えないと奏者も参ってしまうでしょうね。もちろん指揮者もですが。そして、渾身の力で指揮棒が振り下ろされる情景が目に浮かぶ生々しい音で開始されます。
恋人に裏切られた女傑シャールカがその復讐のため、敵の男どもを騙して、酒に酔わせ、その隙に自分の女戦士軍団によって皆殺しにするというなんとも凄まじいお話を題材にしています。ちなみにその後、シャールカは敵の大将ツチラトの火葬の火の中に飛び込んで死んでしまうという件があります。いきなり復讐の主題がもの凄まじい。女は怒ると恐いです。前奏が終わると低弦の刻むリズムで、トルコ軍隊風の打楽器を伴う行進がツチラトの部下の登場ですが、シャールカの怒りのテーマから派生しているので、なんとも、クラリネットの悲壮的なテーマと合わせ、その後の不幸を暗示しているようで……。しかし、このリズムなかなか聴かせてくれます。コバケンはアフタービートを利かせてメロディに変化をつけてこの劇的物語を表現しています。非常にドラマチックな音楽作りで、この日のコンサートはこの曲でおしまいなのですが、何とも全曲聴いてみたい演奏になっています。もともとは、この3曲がプログラムの前半に演奏されていましたが、ここでもブラヴォーの声がかかっています。
それにしても、日本のオーケストラの実力は大したものです。良い録音の演奏を聴くことが出来ました。