指揮/クルト・マズア
演奏/NHK交響楽団
ソプラノ/安藤赴美子
アルト/手嶋眞佐子
テノール/福井 敬
バリトン/福島明也
合唱/国立音楽大学、東京少年少女合唱隊
演奏/NHK交響楽団
ソプラノ/安藤赴美子
アルト/手嶋眞佐子
テノール/福井 敬
バリトン/福島明也
合唱/国立音楽大学、東京少年少女合唱隊
2009年12月22日NHKホール

最近のNHK交響楽団の指揮台には長老指揮者の登場が目立ちます。今年のNHK交響楽団の第9演奏会は82歳のクルト・マズアがその指揮台に立ちました。N響初登場です。そして、NHKで収録されたのはその最初の日の演奏会でした。ところが、この演奏会、ちょっとしたハプニングがあったようです。まあ、それについては後で書くとして、ドイツ重鎮の指揮者の登場は久しぶりです。
そして、久々に映像を目にするクルト・マズアはさすがに年をとったなぁという印象でした。それでも、颯爽とした登場姿は82歳とは思えない元気な立ち姿で、指揮台の背もたれからかなり離れたところに立っての指揮ぶりです。なによりも、指揮棒を使わず10本の指から導き出される音楽は大仰なところは一切なく、派手さもありませんし、そのスタイルもゲヴァントハウス時代からほとんど変わらない印象です。合唱は最初からひな壇に陣取っています。独唱のソリストだけが第二楽章終了時に登場のスタイルです。第二楽章ではティンパニをディミヌエンドで叩かせる(叩いてすぐに手で音を消す)のも健在ですし、合唱に通常の編成に加えて少年少女合唱団を参加させて響きの純度を上げていているのもマズアの演奏の特徴といえば特徴です。しかし、すべてが変わっていないかというとそんなことはありません。音楽とは生き物です。会場のホールの特性、そのオーケストラが元固有の響き、その日の体調などで変わるものです。
そういうもろもろの事象の中で「事件」がおきたのは、第三楽章が始まってすぐのことでした。いろいろなブログでの書き込みを見ると、木管のイントロが終わり、弦が主題を提示し始めたところで、どうやらファゴットが出を間違えたのでしょうか、演奏が止まったようです。正確に言うと、マズアがオーケストラにその場でストップをかけたのです。このシーンは映像からはカットされていて見ることはできませんが、やり直しの第3楽章は幾分速いテンポで終始したということです。この第3楽章のマズアの指揮するテンポとオーケストラのテンポのずれがこのやり直しの部分でも垣間見ることができます。
それにしても、マズアは第三楽章を再び最初から演奏し直したのですが、これは俺の意図したテンポではないと言うことだったのでしょうか。べつの書き込みではこんな記述も見られました。
第二楽章の後で、ホールには遅刻者が入場して来た。だが、その遅刻者の入場が終わらないうちに第3楽章の演奏が始まった。通常なら、ここは、コンサートマスター(篠崎史紀)が会場に目配りをして、適切なタイミングを指揮者に知らせるべきところである。だが、そうしたコミュニケーションは、この時点で、指揮者とコンサートマスターとの間には見られなかった。 第3楽章が始まり、木管セクションの次に第1ヴァイオリンの主題提示へと進む。ヴァイオリンが2小節ほど弾いたところで、マズアは両手を拍とは無関係に横に振り、「止める」仕種を見せたが、オーケストラは演奏を続けた。数秒後、再度マズアが止めようとして、今度は木管が演奏をやめ、そして弦も音を出すのをやめた。
マズアはゲヴァントハウスの幾度かの録音でもこの第三楽章はいずれも14分台で演奏しています。これがマズアのテンポといってもいいでしょう。ですからNHK交響楽団の通常演奏するテンポとは明らかに違っていたようです。そういう意味では指揮者が自分の意志を断固と示すために、敢えて演奏を止めたと解釈出来ます。カラヤンでも15分台、大体16、7分台が標準(?)で、フルトヴェングラーなんか19分台ですから、いかにマズアのテンポが早いかが分かろうかというものです。で、やり直しでもこのテンポのずれはなかなか修正出来ないで引きずっています。まあ、それは実際の放送をご覧になったらお分かりになると思います。しかし、マズアはなんとか指揮を工夫してオーケストラを引っ張っていきますがなかなか染み付いたテンポからN響のメンバーは離れられないような微妙なずれが感じられる演奏です。機器用によっては非常にスリリングな指揮者とオーケストラのバトルが聴ける珍しい演奏ということができます。それでも、最後までなんとかコントロールしているマズアはさすが百戦錬磨の巨匠です。
さて、メインともいえる第四楽章は実に堂々とした演奏でした。この合唱に少年少女合唱団を使うことは最近では珍しくなくなりました。記憶に新しいところでは、ベルリンの壁崩壊時のバーンスタインの演奏会ではやはり、最前列に子供たちの活き活きとした姿を確認することができました。三楽章のハプニングを目の当たりにしていたソリストたちの歌唱は指揮者の意思を汲み取ってか、録画で見る限りすこぶるバランスのよい歌声が響いていました。合唱団は圧等的な人数で分厚いコーラスを聴かせてくれました。ただ、せっかくの少年少女合唱隊の歌声は大人の声にかき消された形になってしまったのは残念なところです。
今年の第9三昧は、これで聴き納めです。まあ、古楽器からアンセルメの一風変わったものまでいろいろ聴けたし、第三楽章のテンポは総じて速いものばかりだったので、個人的にはマズアのテンポにも納得して聴くことができました。31日はNHKで昼夜2度放送されます。ぜひとも放送でこのスリリングな第9をめで確認しながら楽しんで下さい。
今年も一年間お付き合いいただきましてありがとうございました。今年はこれで書き納めです。毎日欠かさず更新出来たのも、訪問していただく皆さんのおかげです。この場をかりましてお礼申し上げます。それでは皆さん、良いお年を!!