ハノーヴァー・バンドのシューマン | geezenstacの森

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ハノーヴァー・バンドのシューマン

曲目/シューマン: 交響曲全集
1) 交響曲 第1番 変ロ長調 Op.38 「春」 10:55 5:53 5:32 8:19
2) 交響曲 第4番 ニ短調 Op.120 8:01 3:33 5:47 5:55
3) 序曲・スケルツォとフィナーレ Op.52 6:19 4:28 6:02
4) 交響曲 第2番 ハ長調 Op.61 11:58 6:54 8:23 7:23
5) 交響曲 第3番 変ホ長調 Op.97 「ライン」 8:37 5:10 4:27 4:59 5:34

 

【録音】
1993年6月21-23日,11月23-25日

 

指揮/ロイ・グッドマン
演奏/ザ・ハノーヴァー・バンド
 
録音/1996/06/21-23
1996/11/23-25  アビーロード・スタジオ、ロンドン
P:アンドルュー・キーナー
E:トニー・フォークナー

 

RCA TWCL-2003-4

 

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 この録音と前後して、アーノンクールがヨーロッパ室内管弦楽団とやはりシューマンの交響曲全集を録音しています。まあ、それがためでしょうか、ネームバリューに劣るグッドマンのこの全集はあまり話題にならなかったように思います。しかし、今改めて聴くとアーノンクールより衝撃度は上の様な気がします。ピッチの関係か、このハノーヴァー・バンドの演奏の方がよりシューマンの時代様式に近い響きがします。

 

 それにしても迫力があります。ホルン、トランペット、ティンパニが大絶叫しています。とりあえず、発売当時(1994年12月)において、初のオリジナル楽器によるシューマン交響曲全集として登場しています。オリジナル楽器特有の透明感と軽やかさ、ナチュラルホルンやトランペットなどの金管楽器などによって、従来非難の的にされていたシューマン独自のオーケストレーションの魅力を解明、作曲者が理想としていた響きがようやく現実のものとなったと言えるかもしれません。使用楽譜もシューマン研究の最先端の成果が反映され、しかも4番には作曲者が改定する前の1841年のオリジナル版を使用しています。

 

 それまで、ハノーヴァー・バンドはオール・セインツ教会で録音していましたが、ちょっと残響過多でCDで聴く分にはやや物足りない思いをしたのですが、このシューマンは有名なアビーロード・スタジオを使って録音されています。それも、楽器のバランスを正確に伝えるために、ワンポイント・マイクでの録音ということでそういう意味でも注目されるところです。元々編成が小さいので音は非常にクリアですが、低域までしっかりと捉えられたその録音も評価されるべきでしょう。タワー・レコードが復刻したこの録音はそういう意味でも注目ですし、最近はノーヴァー・バンドを聴いていてその響きに改めて注目していたので願ってもないCDでした。

 

 シューマンの交響曲第4番はニックネームこそありませんが、シューマンの作品の中では一番好きな作品です。それはフルトヴェングラーの名演があってのことですが、今までさんざんそのオーケストレーションのまずさを指摘されていたシューマンの交響曲はやはり、オリジナルを聴いてみたいものだと思っていました。以前にも、アーノンクールの演奏を取り上げましたが、その時はオリジナルの響きなのかアーノンクールの響きなのか分からない部分もありました。今回その比較対象の録音を手に入れたことで、その違いとオリジナルの素晴らしさを再確認した次第です。結論から言って、オリジナルのままでも素晴らしいじゃないかということを再確認した次第です。まあ、今ではガーディナーとかフローリアン・メルツ、ノーリントンなどがありますが初稿のマイルストーンとしての価値は充分ある演奏です。

 

 第1楽章冒頭のフォルテはグッドマンの方が強烈です。そこから弦楽器の合奏が重々しいテーマを演奏しますが、この響きが何とも優雅に響きます。ノン・ヴィブラートのピリオド奏法の演奏は数々ありますが古楽器による演奏はここら辺のニュアンスが違います。そして、ちょっと荒々しいまでのナチユラル・ホルンの響き、そこに絡んでくるトロンボーンの雄々しい響きも何とも言えません。シューベルトの「ザ・グレート」以後の作品でこれだけ華々しくトロンボーンが活躍する作品はありません。弦の優雅さと管の荒々しさ、この対比が何ともシューマンの本質に迫って響いてきます。コーダのホルンとトロンボーンの旋律は改訂版とはまったく違う響きですが、これはこれで聴き応えあります。どちらかと言えば大人しいイメージのグッドマンがこのシューマンでは燃えています。

 

 アタッカで間髪を入れず2楽章になだれ込みます。比較的速めのテンポで優雅さを保持しながらさらっと流しています。しかし、第3楽章ではこのアップテンポがリズムに緊張感を生んでいます。まあ、一つ残念なのは第4楽章に入るところでしょうか。ここの押し出しはやはりフルトヴェングラーの演奏がピカイチです。

 

 そうはいっても、徐々にコーダに向かって盛り上げていく演出はなかなかです。編成の小さいオーケストラ故の金管とのバトルはアーノンクール盤よりスリリングで聴き応えがあります。

 

 交響曲第1番も刺激的な演奏です。重量感こそありませんが、激しい演奏で荒々しさが感じられます。オリジナル楽器を使ったこの演奏、その音色にしびれます。特に第1楽章でのホルンの響き。3分過ぎに現われる再現部でのやや調子ハズレの音には我が耳を疑いますが、それはまさしくオリジナルスコアの音です。イャア、新しい発見です。当時の人にはこういう響きがあるからこそ、シューマンはオーケストレーションが下手だと思われたのではないかという原因のような響きです。でも、現代の我々の耳からするとこんなの屁のカッパと言わざるをえません。何せ、現代音楽の不協和音に慣れ切っていますからね。ですから、このシューマンは刺激的に聴こえるわけです。改訂版にならされた耳にはいい刺激です。グッドマンの演奏は速いテンポで春の始まりをリズミカルにひき切っていきます。テインパニの響きもいいバランスで、最後のトライアングルもその存在感がはっきりしていて魅力的に響きます。

 

 交響曲第2番は通の中では評価の高い作品ですが、一般には一番演奏される機会が少ない作品です。ジョージ・セルやバーンスタイン辺りは得意としていたようですが、カラヤンは苦手だったようです。ま、そんな作品で以前はセルの演奏で取り上げていますが、グッドマンは意外や意外、第3楽章以外はここではじっくりめのテンポでの演奏です。特にこの曲の要になる第1楽章はトランペットの演奏する動機がテーマですが、このモチーフをじっくり料理して全楽章を有機的に結びつけています。

 

 

 それに比べると第3番「ライン」は有名曲だけに、やや聴き劣りがします。「ライン」というニックネームから来る印象が強いせいか、力強さが前面に出てしまって「ライン」の懐の深さというか包み込む包容力にやや欠ける直線的な演奏になってしまっています。ここはもう少しロマンの香りがする響きが欲しかったところです。ただ、特徴的なホルンの響きは健在で、この曲ではナチュラルホルンとバルブホルンの使用が指定されていますが、その響きは満喫することが出来ます。第2楽章もやや速めのテンポで5分ちょっとで駆け抜けてしまいます。古楽の響きを生かして、ここはもう少しじっくりしたテンポで聴きたいところです。全体としてはグッドマンはきびきびとしたテンポ設定とリズムで全曲を押し通しています。ここら辺はもうちょっと曲の性格を捉えた演奏をしてくれれば良かったのかなぁと思わざるをえないところです。

 

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                  リハーサル中のグッドマンとハノーヴァー・バンド

 

 このグッドマンのシューマンは分売もされなかったことで直ぐ市場からは消えてしまいました。そして、また消えようとしています。オリジナル楽器による演奏という視点で見ても価値はあると思います。それが、廃盤になるということで今なら20%引きでセールされています。これは買っておくしかないでしょう。