バーンスタインの「キャンディード」 | geezenstacの森

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バーンスタインのミュージカル「キャンディード」

曲目/バーンスタイン
ミュージカル「キャンディード」
【脚本】ヒュー・ホイラー
【作曲】レナード・バーンスタイン
【作詞】リチャード・ウィルバー
【出演】
    ポール・グローブズ (キャンディード)
    クリスティン・チェノウェス (クネゴンデ)
    パティ・ルポン (オールドレディ)
    トーマス・アレン卿 (ナレーターとパングロス先生)

【指揮】マリン・オールソップ
【演奏】ニューヨーク・フィルハーモニック
                              
〜2004/05/07 アメリカ・ニューヨーク                
  エイブリーフィッシャーホールで録画〜
 (2009.8.18 NHK BS-Hi)

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 先のヤルヴィ/シンシナティ交響楽団のところでもちょっと触れましたが、今年の秋は「キャンディード」づいています。まあ、実際に視聴したのはこちらが先でしたがブログの記事を途中まで書きかけて中断してアップするのを忘れていました。そんなことで、今日に至って再度視聴し取り上げたわけです。調べてみたらこの演奏はDVDで発売されていました。ただし、日本ではありません。アメリカ国内でです。ミュージカルものは余程の作品でない限り、国内リリースはありませんからね。

 「キャンディード」は、ヴォルテールの小説「カンディード」を原作としたものであり、この小説は当時ヨーロッパで支配的だった哲学者ライプニッツの思想への痛烈な批判をこめたものであるのは知られたところです。そのライプニッツの思想とは「この世界は神の作ったものであるから最善のものである。だから、どんなにひどいことが起こってもそれは天の思し召しであると考えて受け容れるべきだ。」というようなものです。バーンスタインはこのミュージカルを「ウェストサイド物語」を後回しにしてまでも注力して作曲しましたが、時代はこの作品を受け入れてはくれませんでした。ためにバーンスタインは改訂に改訂を重ね、現在上演されるのは1989年の改訂版です。この版による演奏はバーンスタイン自身の指揮で映像ものこってはいます。そう、1989年といえばバーンスタインの死の前年なんですね。そういう意味ではバーンスタインの置き土産的な作品でもあるわけです。

 この作品が8月にBS-hiで放映されました。それが2004年にニューヨークで上演された「キャンディード」です。指揮は注目の女性指揮者のマリン・オールソップ、そしてオーケストラは何とニューヨーク・フィルハーモニックです。そして、会場はオーケストラピットを持たないエイブリー・フィッシャー・ホールです。ということはこの舞台オーケストラとステージが一体となった構成で上演されたのです。ごく普通の演奏会形式だったバーンスタイン自身の映像と違って、この公演は、エイヴリー・フィッシャー・ホールの舞台上にスペースを作ってある程度の演技が繰り広げられるセミ・ステージ上演。合唱団も含めた出演者全員が所狭しとばかりに歌って踊り、走り回ってという、とてもアクティヴな展開があって、一瞬たりとも目が離せません。この映像、アメリカではDVDで発売されていますが、DVDのリージョンコードは1ということでアメリカ、カナダのみの対応で、残念ながら日本ではそのまま見ることが出来ません。幸いYouTubeでは既にこの映像が流れていますので貼付けておきます。この映像12分割されていますが、順に観ることが出来ますので興味のある人は辿ってみてください。


 ここで歌い演じている人たちは、実力派のキャストが配されています。ナレーターとパングロス博士にはイギリスの名バリトンのサー・トーマス・アレンが、主役のキャンディードにポール・グローヴズといったクラシック畑の歌手を配し、クネゴンデ役にクリスティン・チェノウス、老女役にパティ・ルポンというミュージカル界のビッグ・ネームを起用した混成部隊で成り立っています。形としてはミュージカルよりオペレッタに近い雰囲気です。上の映像に登場するオペラ歌手ではないチェノウスがあの難しいコロラトゥーラを確実に歌い、ルポンがスペイン訛りで何とも妖しい「I'm easily asimulated(Old Lady's Tango)」を歌っているのには見所です。

 それにしても、息つく暇も無く目まぐるしくストーリーが展開していくミュージカルです。しかも、いろんなオペラや舞踊のパロディが頻出して、まるでおもちゃ箱をひっくり返したようなどたばた騒ぎになっています。Yputubeの映像は残念ながらNHKで放送されたように字幕はありません。しかし、この映像だけでもその面白さは伝わるのではないでしょうか。下手をすると松竹新喜劇や吉本新喜劇の一歩手前まで行ってしまいそうなくらいのギャグやパロディ満載です。ストーリーの中にはブラックユーモアとしての辛辣な風刺がこめられていいます。元々この作品が生まれたのは1950年代、バーンスタインは当時のマッカーサー旋風を皮肉っていたのですが、ここでも、トーマス・アレン演じるイギリスからやってきた紳士が、アメリカの聴衆に向かってやんわりと批判をしているようで興味深いシーンが展開されます。そうです、2004年といえばアメリカがイラクに対して「大量破壊兵器を製造している疑い」があるとして戦争をしている最中でしたから、まるで笑えないジョークです。

 こういうドタバタのミュージカルの中にもバーンスタインの思想というものはちゃんと一本筋が通っているんですね。そういう意味では「ウェストサイド物語」よりも見応えがありますし、生涯バーンスタインはこの作品を改訂し続けたわけが理解出来ます。そして、歌い踊るキャスト人に負けず劣らず、この上演を成功させたのはバーンスタインの愛弟子ともいうべき指揮者のマリン・オールソップです。ここでは舞台上でキャストに混じって自分も参加しているイメージで指揮をしています。そして、そんなオーケストラの周りをところ狭しと出演者が動きまくるのですからオーケストラの楽員とて演奏に一体感が出るというものです。

 過去に日本でも宮本亜門が演出した「キャンディード」が2001年(2004年に再演)に上演されましたが、なんと来年東京は帝劇でジョン・ケアード版の「キャンディード」が上演されるそうです。いやあ、東京の人がうらやましい!詳しくは下記を参照してください。