NHK音楽祭/シンシナティ交響楽団演奏会 | geezenstacの森

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NHK音楽祭/シンシナティ交響楽団演奏会

曲目
1.コープランド/庶民のファンファーレ
2.バーバー/弦楽のためのアダージョ 作品11
3.バーンスタイン/「ウェストサイド物語」~シンフォニックダンス
プロローグ (Prolog)
サムウェア (Somewhere)
スケルツォ (Scherzo)
マンボ (Mambo)
チャチャ (Cha-Cha)
出会いの場面 (Meeting Scene) ~クール (Cool) ~フーガ (Fugue)
ランブル (Rumble)
フィナーレ (Finale)
4.ドボルザーク/交響曲第9番ホ短調 作品95《新世界から》
5.バーンスタイン/キャンディード序曲
 
指揮/パーヴォ・ヤルヴィ  
演奏/シンシナティ交響楽団                 
NHK音楽祭2009 <アメリカ>
2009年10月26日(月)19:00~@NHKホール

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 冒頭で会場が映りましたが2階席はかなり空きスペースがありました。他の公演では庄司紗矢香やクリスチャン・ツィメルマンらのソリストが登場して賑やかだったようですが、このNHK音楽祭のプログラムは純粋なオーケストラ作品だけのプログラムなのでやや人気がなかったんでしょうな。

 しかし、このプログラムはアメリカの代表的な作曲家の作品が並んでいますから中々の組み合わですね。1曲目のコープランドの「庶民のためのファンファーレ」はこてこてクラシックの問題にも登場した金管と打楽器が大活躍する曲です。ただしこの言い方はNHKだけのようで、一般には「市民のためのファンファーレ」と表記されます。変なところにこだわるNHKです。このファンファーレは金管楽器奏者は全員起立しての演奏です。普段はいかめしい顔つきのヤルヴィですが、この曲が始まる前に楽員の顔を確認している時には一瞬笑顔が観られました。既にオーケストラのやる気を感じたんでしようね。演奏も厳粛な雰囲気のこの曲を的確な指示を出していてきっちりと纏めていました。何しろこの曲このオーケストラが委嘱した作品ですから十八番なのは当たり前です。「これぞアメリカ!」と感じさせるまさにオープニングに相応しい曲ですが、ひとたび振り間違えたら収拾がつかなくなるこの曲、いゃあヤルヴィの実力を感じさせる演奏でした。それにしてもこの日の観客の反応の鈍いこと、古典ばっかり聴いている人しかいなかったんではと思われる白けた間でした。しかし、オーケストラからも拍手が出るほどに充実していました。

 そして2曲目は今度は弦楽奏者だけが活躍するバーバーの「弦楽のためのアダージョ」です。うまい選曲ですね。これでオーケストラのレベルが一通りデモンストレーション出来るというものです。ヤルヴィは耳もいいのでしょうね。しっかりしたバランスでアダージョを組み立てています。この曲映画「プラトーン」で使われてブレイクしましたが、それは1986年ということもあって既に知っている人は世代交代してしまっているのでしょう。この曲でも演奏終了後はシーンと静まり返っています。この日のお客は3曲目以降しか知らないのではと思える静まり様です。まあ、その分放送では最後の響きまでしっかり聴くことが出来ましたけれどもね。大人しい観客で良かったですね。

 3曲目のバーンスタインの「ウェストサイド物語」~シンフォニックダンスは純粋にバーンスタインがオーケストラ作品として纏めたものですから有名な「アメリカ」とか「トゥナイト」といつ多々歌唱ナンバーは含まれていません。映画音楽としてのウェストサイド物語を期待した人はやや欲求不満のままに終わったのではないでしょうかね。ヤルヴィはこの曲ではしっかり譜面を使っていました。一応現在はアメリカ国籍になっているようですが元々はエストニアの生まれです。そんなに演奏する機会の多かった曲では無いのでしょうね。安全策をとっていました。途中で譜面をめくりすぎるというお茶目なシーンもありました。ただ、ここではその安全運転がやや裏目に出た演奏だったように思います。やはり、ジャズのリズムには乗り切れてない部分がありイマイチキレがありません。オーケストラはトランペットのソロなどはここでも立ち上がり中々のセンスで吹き捲くっています。マンボのかけ声も小気味いいものでしたし、オーケストラはうまいです。ただヤルヴィは全体に丁寧に振りすぎて音楽がスィングしていないんですね。そう言えば、このオケはカンゼルが振るポップス・オーケストラも兼ねていますから、こういう曲はお得意なんでしょう。そういうオラが国の音楽と外様としてのヤルヴィにはちょっとしたギャップが感じられました。曲は最後はフルートの音色で静かに終わります。この曲でも、観客は恐る恐るの拍手です。

 後半のプログラムは、これは誰にでもおなじみのドヴォルザークの「新世界から」です。この組み合わせはCDにもなっているのでお馴染みといえばお馴染みなのですが、この日の演奏は第1楽章からやや不自然なテンポの揺れでやや戸惑いを感じたものです。特にフルートのソロの部分はことごとく極端にテンポを落として指揮しています。その他の部分はそれなりのアレグロで演奏しているのでこの部分のテンポの落とし方は一種異様に聴こえます。手元にはヤルヴィが1993年にロイヤルフィルと録音した新世界があります。この演奏でも確かにフルートのソロの部分はテンポを落としていますがこちらの方はどちらかといえば、自然で尚かつキレのある演奏を聴かせてくれます。オーケストラの質感は多分シンシナティの方がドヴォルザークに合っているところはありますが、演奏の内容的にはこのロイヤルフィルの方が聴いていて心に迫って来るものがあります。まあここら辺はライブという制約があるしマイクセッティングで音はいかようにも変化しますから一概には言えませんがね。そういえばこのステージひな壇がありません。ですからステージ後方の音はどうしても弦楽器奏者にマスキングされてしまう部分があります。そういう部分も影響しているかなという感じもします。去年、フランクフルト放送交響楽団との来日公演ではひな壇を使っていましたから、これはシンシナティ交響楽団のスタイルなのかもしれません。

 アンサンブルは確かに上手いですねぇ。しみじみと聴かせる第2楽章ではその上手さが際立っています。イングリッシュホルンの鄙びた響きがまた何ともいえません。ここでは弦の美しい響きを満足出来ました。このラールゴでもテンポをルバートを掛け自由にオーケストラをコントロールしています。そういう意味では、自分のオーケストラになっているのでしょう。改めて確認するとホルンのトップは女性です。それも1番2番とも女性です。いゃあ恐れ入りました。この2楽章でのミュートを掛けた弱音の響きは女性ならではの繊細な響きでした。この2楽章はこの日の演奏の白眉ですね。
 
 後半の2楽章は安心して身を任せられる演奏です。新しい発見と言えば第4楽章でティンパニはアフタービートで叩いていたんですね。ヤルヴィの分かりやすい指揮で初めてそのことに気がつきました。聴き慣れた曲ですが気がつかない事もまだまだあるということですね。オラが国の音楽ですからオーケストラもいい意味で余裕を持って演奏しているのが分かります。4楽章ではジョージ・セルなんかがトランペットにへんてこなルバートをかけて演奏させて、ええっと思ったことがありますがここではそんな仕掛けはありませんでした。終わってみれば充実の「新世界から」ということが言えたのではないでしようか。
 
 新世界から」は暗譜で指揮ですが、アンコールはちゃんと最初から譜面が用意されていました。バーンスタインのミュージカル「キャンディード」の序曲です。曲はそれなりに知られていますが、ミュージカルとしての「キャンディード」はあまり知られていません。小生も今年初めてこのミュージンルを観ました。なんと今年の9月のBSの番組で放送されたのです。それも、マリン・オールソップ指揮ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏をバックに上演されたものです。いやあ、楽しかったですね。このアンコールを聴いてその場面を思い出してしまいました。

 このプログラムはNHK音楽祭だけのものなので、それなりの価値はあったはずですが客の入りの点では今ひとつでした。しかし、このプログラムを聴けた人は幸せです。特に空いていた2階席あたりは最高のバランスのサウンドが聴けたのではないでしょうか。

 さて、このジャパンツアーの初日の様子がYouTubeにアップされていました。曲はコープランドの「市民のためのファンファーレ」が流れています。