トンネルに消えた… | geezenstacの森

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トンネルに消えた…

著者 西村京太郎
発行 角川書店 角川文庫

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 国鉄K駅から、遠見町へ行くためのトンネルは、長さ210メートル。突貫工事のうえ、岩盤が脆弱だったために、完成までに2回の落盤事故があり、5名の作業員が死んだ。そのため、幽霊が出るという噂がトンネル附近に流れていた―。そのトンネル内で22歳の女性が消えた!テレビ中央の若きプロデューサーは、この事件に興味を持ち、美人タレントを起用して同条件で実験、ビデオ撮りを行うが、今度はそのタレントが消えた!--データベース---

 30年以上も前の短編集です。この頃の短編にはキレがあり、読んでいてさすが西村京太郎といいたくなるほど脂がのっています。
 
トンネルに消えた…   問題小説'78/12
殺しの慰謝料   小説CLUB'75/4
見事な被害者   オール讀物'66/3
タレントの城   小説CLUB'69/6
落し穴   オール讀物'67/5
死の代役   傑作倶楽部'65/7
ヌード協定   読切特撰集'64/10
闇の中の祭典   小説宝石'78/2

♦トンネルに消えた…

 今では骨董品的探偵になってしまった「左文字進」の活躍する唯一の短編小説です。僅か210mのトンネルの中で人が消えてしまうというセンセーショナルな事件で、その事件を再現しようとテレビ局が再現ビデオを作ろうと取材をして、またしてもタレントが消えてしまうという事件が起きてしまいます。事件としてはミステリアスですが、左文字の推理は誠に常識的です。奇抜な解決を来た対すると裏切られてしまいますが、失踪者の人となりを考えると当然という解決ですな。

♦殺しの慰謝料

 原題の状況を彷彿とさせる内容です。経営が思わしくないレストランチェーンのオーナーが妻と離婚をするために2億円の慰謝料を支払います。そして、浮気をした愛人と生活をするのかと思いきや、愛人とも別れてしまいます。裏には税金対策がありました。慰謝料には税金がかかりません。しかし、もくろみは外れます。オーナーも別れた妻も殺されてしまったのです。離婚を調停した弁護士と刑事が動きます。ストーリーの最初に犯人は登場していました。

♦見事な被害者

 スクープ記事を狙う新聞社の社会部記者、田島が活躍するストーリーです。この田島なる人物西村作品には頻繁に登場します。ある時は刑事であったり、サラリーマンであったりと混乱するかのごとく登場します。ここでは、多分十津川警部シリーズにも登場するであろうダジ巻者の若かりし頃の作品と見る事が出来ます。で、これは芸能界を扱った誤報まがいのスクープ記事を巡るストーリーで、自殺未遂は発生しますがミステリーというほどの物ではありません。

♦タレントの城

 これも芸能界を扱った一編で悪徳プロダクションの暴露物といった内容ですが、成功するスターの影にはどろどろとした物が渦巻いているという事を暴いています。作られたスターの幻影に愛想を尽かし、自らスターの座を捨てる男の物語でもあります。

♦落し穴

 これも、田島という人物が登場します。西村氏はよっぽどこの名前が気に入っているのでしょう。でも、ここで登場する田島は会社社長で自分の会社を売り込むためにある罠を仕掛けます。そして、最後にはその事が原因で墓穴を掘ってしまうという、因果応報を描いています。殺人はありません。

♦死の代役

 この作品でも田島が登場します。田島の大安売りです。今度は芸能記者です。社会部の記者ではありませんがやはり新聞社に籍を置いています。日東映画が製作を予定していたミュージカルの主役を予定していた女優が自動車事故で負傷してまいます。急遽代役を立てる必要があります。オーディションで4人が残ります。しかし、この4人が次々に殺されてしまいます。最後に残ったのは島田スミ子という若い踊り子でした。警察は彼女を黒と見ています。しかし、映画の製作中止が発表されその彼女も殺されてしまいます。さあ、犯人は誰なんでしょう。警察よりも先に田島が事件を解き明かします。
 
♦ヌード協定

 売れない3人娘が、お互いの出世の暁には仲間も引っ張り上げようという事で協定を結び、お互いのヌードを写真に撮る事で保健を掛けます。しかし、中々芽が出ません。水口葉子は最初自分が一番有利だと踏んでいました。素質と美貌という点では二人にかなわなかったからです。しかし、時の運は彼女に微笑みかけます。端役で出ただけなのに彼女にファンレターが殺到するのです。会社がそれを見逃すはずはありません。清純さ、庶民のアイドルとして人気が出てきます。そして、ついには彼女が主役の映画が製作される事になります。そうなると他の二人が黙っていません。約束を守れと迫ってきます。しかし、あくまで新人の彼女に人事権はありません。

 そうこうするうちに鐘で解決する方法を彼女たちが提案してきます。葉子はそれならと応じ写真一枚を20万で買い上げます。それをかつての仲間のみどりのところへ持って行くと、意外な事にもう一人の仲間の冴子が殺されているのです。罠にはめられたと知った葉子はみどりの行方を調べます。ヌードダンサーになっていたみどりは簡単に住所が解りました。そこへ行くとなんと押し入れの中に茅野着いた冴子のワンピースが残っているではありませんか。しかし、みどりが男と戻ってきて捕まってしまいます。絶対絶命のピンチ!しかし、ちゃんと見事な解決が用意されています。

♦闇の中の祭典
 
 これは異色の一編です。パニックサスペンスとでもいうべき作品で、ここでは刑事も探偵も登場しません。もちろん殺人事件も発生しません。何が起きるかといえば新宿西口の超高層ホテルの38階で披露宴が行われている最中に停電が発生するのです。時は1月15日、外は小雪が舞い始めた極寒の天気でした。その披露宴には映画監督の西岡賢次と妻の佳子の夫婦もいました。彼らは明日にも別れるやも知れないほど夫婦間が冷えきっていました。今日は二人が顔を揃える最後のパーティだったのです。この小説が発表されたのは1978年2月ですが、1977年7月に実際にニューヨークで大停電が発生していますからそれをヒントにかかれた作品であろう事は想像出来ます。

 さて、ストーリーの中では西岡のスピーチの時に停電が発生します。最初は数分程度と読んでいたのに中々復旧しません。ホテルの自家発電もほんの一時、明るくなっただけで故障かすぐに暗闇に戻ってしまいます。38階の窓からの眺めは暗闇の中に車のヘッドライトの動かない光だけが細々と続いている様しか見えません。会場はホテルが用意したキャンドルライトだけがほのかな光を演出していますが。それとて時間の問題です。エレベーターも当然止まってしまっています。こういうとき38階は孤立した空間になってしまいます。

 暖房も切れてしまい、38階の広間はだんだんと寒さが忍び寄ってきます。寒さを凌ぐ物は広間には残っていません。幸いホテルには客室があり、ベットには毛布が用意されています。二人は寒さを凌ぐために斧でドアを壊し、ベットに潜り込みます。別れるつもりの佳子は最初は別のベットに入りますが夫にせかされ仕方なしに同じベットに潜り込みます。夫は裸でした。その方がからだが温まるからだといいます。やがて隣のベットにも若い男女が潜り込んできていちゃつき始めます。いつの間にか佳子もドレスを脱がされています。

 東京の停電は3日間続きます。ニューヨーク大停電と同じですな。しかし、ニューヨークと東京が違うのは東京の盗難事件は6件であったのに対し、実際の1977年のニューヨークでは大略奪が発生し問題になりました。そして、9ヶ月後にはベビーブームが起こっています。この西村氏の作品でも、妻がめでたく妊娠します。停電が夫婦の危機を救ったのです。