クラシックCD名盤バトル | geezenstacの森

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クラシックCD名盤バトル

著者 許光俊vs鈴木淳史
出版 洋泉社  新書y

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 こんなCDガイド、みたことない!相手の論評に、まったく別の角度から挑むという試みが、音楽と演奏の意外な側面をあぶりだし、そこに音楽を聴くことの極上の快楽と思索が生まれる「読むCDガイド」!この二人以外のだれが、ここまで書けるか。音楽とは本来、演奏者と聴き手に突きつけられた踏み絵である。ならば、その踏み絵を砕くほどの感性の力を持たない評論は不要だ。世評に迎合した「名曲・名盤」幻想は、捨て去れ。--データベース---
 
 一言で言えば、愉快、痛快、奇々怪々ってなところでしょうか。以前宇野 功芳 , 福島 章恭 , 中野 雄 の共著になる「クラシックCDの名盤」を読みましたが、いってみれば「レコード芸術」の延長線上の名曲名盤推薦本の範疇であまり代わり映えのしない内容で、読み飛ばしたことを思い出します。この種のものはのが玉に傷です。そろそろ世代交代が必要なのかなという感じを持ったものでした。

 そこに登場したのがこの本です。帯に「『名曲・名盤』幻想を一蹴する、類書真っ青の『読むCDガイド』!」とあります。1965年生まれの許光俊氏と1970年生まれの鈴木淳史氏が先攻後攻と立場を変えながらクラシックの決定的名盤を挙げてバトルしていく本です。そのバトルは、潜在的にいままでの名盤紹介に向けられている「名盤紹介本こきおろし精神」が原点にあるのがおもしろいところです。つまりは、いままで類書で取り上げられた名盤などまずほとんど出てきません。面白いのは、著者同士のバトルもすさまじく、同じ視点で同じ書き出しを用いてバトルを繰り広げるかと思えば、相手の意見を受けて時には同調してのどかに相づちを打つ曲もあり、読んでいて類書では味わえない気分を味わえます。

 こういう内容は絶対に音楽之友社からは出ないでしょう。というか、権威主義の音楽之友社に対抗しているとしか思えません。そして、多分クラシックの初心者以外の人はこちらの方が面白いのではないでしょうか。序文にもマニアック向けと一言断ってはありますが、冒頭のヴィヴァルディの「四季」からして名の知れた演奏者は出てきません。また、そういう切り口で紹介されているからこそこの本の存在価値があるのかもしれません。その四季のおすすめ盤は、
鈴木氏がシモン・ゴールドベルク(vn&指揮)、オランダ室内管弦楽団
許氏がチョン・キョン=ファ(vn&指揮)、 セント・ルークス室内管弦楽団
を挙げています。イ・ムジチ、イル・ジャルディーノ・アルモニコ盤のことも触れられてはいますがぶった切りです。最初からカウンター・パンチですね。しかし、痛快です。この本のいいところはあえてCD番号などは掲載していないところです。巻末に推薦版の一覧表もありません。読者に全く媚びていないんですね。つまりは、メーカーのCDの宣伝は全くしていないということです。気来た勝田ら自分で調べろということなんでしょう。

 もう一つのと特徴は、取り上げられている曲目も通俗名曲とはちょいと違うというところが選ばれたりしていて肩すかしを喰います。シューベルトは未完成はありません。ベートーヴェンも皇帝はありません。ブルックナーも交響曲第4番は外されています。ショスタコーヴィチも革命はありません。交響曲なんて第1番だけです。てな具合です。でも、そんなことはどうでもいいんです。要は切り口です。で、ベートーヴェンの交響曲第9番なんか鈴木氏はアンセルメ盤を取り上げています。古今東西、この演奏をお勧めとして第9で取り上げたのは多分この本が最初でしょう。素晴らしい彗眼です。こういう文章を読んでいると妙に聴きたくなるから不思議です。こういうところがマニア心をくすぐるのでしょう。

 さて、この本初心者向きではないと書きました。宇野功芳、志鳥栄八郎、黒田恭一、石井宏なんで名前を知らない人は読むべきではありません。面白さが半減するからです。こういう評論家ネタをけっこう使っているからです。そして、両氏ともギュンター・ヴァントとチェリビダッケという2巨匠を別格扱いしています。スタンスがはっきりしているという分では、それでいいでしょう。こちらもそれを割り引いて読めばいいのですから。

 読んでいてなかなか楽しいうんちくも披露されています。さあ、知らない演奏家の登場する未知の扉をあなたも叩いてみませんか。でも、ここに紹介されている演奏を探すのは一筋縄では生きません。この後には、マニアだけが知っている手に入れるためのテクニックを駆使しなければお宝は手に入らないのですから。