チョコレート工場の秘密 | geezenstacの森

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チョコレート工場の秘密-先に原作に巡り会えて良かった

著者 ロアルト・ダール
訳者 柳瀬尚紀
出版 評論社

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 チャーリーが住んでいる町に、チョコレート工場がある。世界一広大で、世界一有名なワンカの工場。働く人たちの姿をだれも見たことがない、ナゾの工場!そこへ、五人の子供たちが招待されることになった。招待状の入ったチョコレートは、世界にたったの五枚。大騒ぎになったけれど、チャーリーには望みがない。貧しいチャーリーがチョコレートを口にするのは、一年に一度、誕生日に、一枚だけなのだから…。---データベース---

 児童文学の傑作として、2度も映画化されている作品の原作です。この「チョコレート工場の秘密」はダールの子供向けの本の代表作で以前は田村隆一訳で以前でていました。この新訳は柳瀬尚紀氏が行っていますが、あとがきで旧訳をけちょんけちょんに貶しているのはちょっと大人げないという感じがします。同じ出版社から出ているのでこういう批判がよく出来たものだとびっくりしてしまいます。

 まあ、確かにこの柳瀬尚紀氏の訳にはそれなりのポリシーがハッキリ現れています。原書がユーモアとジョークに溢れた言葉遊びの要素を包含しているという事での意訳は的を得ています。その端的な例が主人公たちの名前です。主人公のチャーリー・バケット、Charlie Bucket なのですが、英米の姓に Bucket なんていうのはなということで、これはこれはバケツ以外のなにものではないと従来のバケットからバケツに変えています。ですから主人公はチャーリー・バケツとなっています。その他の主要人物も以下のように変更されています。
Veruca Salt。 これは Verruca (疣、胼胝)と Salt (塩)なんだから、イボダラーケ・ショッパー。Mike Teavee の Teavee はいうまでもなくTVだから、マイク・テレヴィズキー。
Violet Beauregarde はバイオレット・アゴストロング、猟犬の名前に引っ掛けていると解釈。
Augustus gloop はオーガスタ・ブクブトリー、何でも食べるという意味から。
Oompa-Loompa は従来のウンパー・ルーパーからウンパッパ・ルンパッパ

 最後のウンパッパ・ルンパッパは彼らの歌う歌がちゃんと韻を踏んでいる事からの命名だそうですが、確かに本文中で彼らの歌が随所に出てきますが、見事に韻を踏んだ訳になっています。一応辻褄が合います。小生、映画を見るときは字幕よりも吹替えを選択します。どうも字幕だけでは情報量が不足しているような気がするからです。それと瞬時に画面と字幕を理解しようと思うとどうしても片手落ちになってしまうからです。昔は入替え制でなかったので解らなかったらもう一度映画を見る事が出来ましたが今ではそういうわけにも生きませんからね。そして、字幕で劇場で観た時と、後でテレビで吹替え版で観た時とがらっと印象が変わった作品は数知れずありますから・・・

 ところでこの本、娘が学校の図書室から借りてきたものを横取りして読んでみました。きっかけはこの本面白いよという事で見せにきた時、ああ、その映画ならDVDであるよ、とは言ったものの当の本人は映画を見た事がなかったのです。これはいかんと思い、ちょいと拝借して読んでみたというわけです。ところがこれがめっぽう面白い。逆に映画を見ていないので先入観がなく、チャーリーなどの名前も違和感なく読む事が出来そのユーモアたっぷりのダールの世界に浸る事が出来ました。多分先に映画を見ていたらまず主人公たちの名前からして抵抗があったでしょう。

 ストーリーについてはさんざん書かれていますから、ここでは書きませんが、ダールのブラック・ユーモアにはびっくりさせられます。日本ではお金を拾ったら交番に届けるという躾がなされますが、この主人公のチャーリーはそんな事は一言も考えません。拾ったものは自分のものとしてすぐにチョコレートを買いにいきます。ただ、家族の事を考え全部使う事はしません。ヨーロッパ的風土の考え方を実感させられます。

 登場するウンパッパ・ルンパッパ人はここでは移民としてワンカ氏がチョコレート工場で働かせるために連れてきているのですが、はっきり言って蜜入国者たちです。そしてそれが、あっさりと書かれているので気がつかないのですが、いわば奴隷状態においています。こういう事がまかり通る描写です。

イメージ 2 一方ではテレビというものを皮肉たっぷりに捉えていて、テレビを見るよりは本を読みなさいという事が作者の主張として織り込まれています。まあ、今の子供にはちょっと無理な話ですけどね。さて、このワンカのチョコレート、映画公開時にはネスレがかなりのキャンペーンをしていましたが、今では忘れ去られているのでしようか。いえいえ、輸入ショップではこの時期バレンタイン需要があるとみえてしっかり山積みしています。映画「チャーリーとチョコレート工場」は2005年の興行成績のベスト5に入っています。すっかり見逃していましたから、これからゆっくりと映画でも鑑賞する事にしますか。