NAXOS CLASSICS '94
曲目/
ハイドン/弦楽四重奏曲第67番ニ長調Op.64-5「ひばり」*
1. I. Allegro moderato 06:34
2. II. Adagio - Cantabile 06:44
3. III. Menuetto: Allegretto 03:26
4. IV. Finale: Vivace 02:17
シューマン/ピアノ五重奏曲Op.44**
5. I. Allegro brillante 09:11
6. II. In modo d'una marcia. Un poco largamente 08:09
7. III. Scherzo: Molto vivace - Trio I - Trio II - L'istesso tempo 04:48
8. IV. Allegro, ma non troppo 07:14
モーツァルト/ピアノ・ソナタ第8番イ短調K.310***
9. Allegro maestoso 07:59
10. II. Andante cantabile 09:39
11. III. Presto 03:05
演奏/コダーイ四重奏団* **
第1ヴァイオリン/アッティラ・ファルヴァイ
第2ヴァイオリン/タマーシュ・サボー
ヴィオラ/ガボール・フィアス
チェロ/ヤーノシュ・デヴィチ
ピアノ/イェネー・ヤンドー** ***
第1ヴァイオリン/アッティラ・ファルヴァイ
第2ヴァイオリン/タマーシュ・サボー
ヴィオラ/ガボール・フィアス
チェロ/ヤーノシュ・デヴィチ
ピアノ/イェネー・ヤンドー** ***
録音1992/03/01-03* ユニタリアン教会、ブダペスト
1990/02/01-07** イタリアン・インスティテユート ブダペスト
1990/02/01-07** イタリアン・インスティテユート ブダペスト
日ナクソス 非売品番号無し

1993年に続いて1994年にもナクソスのアーティストのコンサートが開催されました。93年は西崎崇子のヴァイオリン、イェネー・ヤンドーのピアノで、グリーグのヴァイオリン・ソナタ他が演奏されています。この94年は無料配布されたCDが残っています。一応「コダーイ四重奏団」のコンサートだったのですが、ピアニストとしてこの年もイェネー・ヤンドーが帯同しています。今回この時のコンサートのパンフレットが発掘できました。こんなものでした。
A4のパンフレットはCDジャケットに使うにはちょいとサイズが大きいので。CDジャケットを自分で作っていました。中々のデザインでは無いでしょうかね。今日の画像はその自作ジャケットです。このCDの曲目とCDの曲目は違っていました。コンサートはこんなプログラムでした。
この94年のコンサートは最後のシューマンのピアノ五重奏曲が一番記憶に残り、この演奏でこの曲に目覚めました。コダーイ弦楽四重奏団については、ほとんどデータがありませんが、1966年に結成されたフランツ・リスト音楽院の学生によって結成されたということです。メンバーは結構入れ替わりがあったようで、ヴァイオリンのアッティラ・ファルヴァイは1980年からこのメンバーに加わっています。ヴィオラのガボール・フィアスはブダペスト・オペラのメンバーとしても活躍し、現在ではバルトーク音楽院の教授も務めているようです。チェロのヤーノシュ・デヴィチは当初自身の四重奏団を組織していたようですが現在はこのコダーイ四重奏団がメインのようです。第2ヴァイオリンがタマーシュ・サボーという記述のあるものもありますが、メンバーの移動等についてはナクソスのホームページにも詳しく記載が無いのでよくわかりません。
1曲目はハイドンの「ひばり」です。第1楽章の有名な「ひばり」のさえずりは格調が高いというか大人の「ヒバリ」という感じがします。CDで最初に買った室内楽がこの「ひばり」だったので思い入れがあります。ベルリン弦楽四重奏団の演奏でしたが、この曲の特徴をよく捉えたユーモアのある演奏でそのさえずりの奏法は微笑ましく感じたものです。それに比べるとこのコダーイ弦楽四重奏団の「ひばり」はやや生真面目な印象がします。楽譜に忠実すぎるのか、いやそんなことは無いのですが、やや肩肘の張った演奏で、ハイドンのユーモアが聴こえてこないのが残念です。
第2楽章も第1ヴァイオリンが前に出過ぎて、響き自体は申し分無いのですがややバランスの崩れた演奏になっています。これは多分に録音方法による問題かもしれません。当時ナクソスはブダペストで集中的に室内楽のレパートリーを収録していました。ホールトーンは残響も含めてふくよかに響いているのですが、各楽器の音が生々しくて間接音とのバランスがとれていないように聴こえます。先のベルリンの演奏は同じデジタル録音でもその直接音と間接音のバランス加減はちょうどいい響きで聴いていて疲れません。演奏自体にはマイナス点が見つからないのでこれは残念なことです。
これに対して録音年的には古いシューマンのピアノ五重奏曲Op.44は録音会場も違いますが、バランス的にはこちらの方が聴きやすい録音となっています。演奏もヤンドーのピアノといい四重奏の響きといい申し分の無いシューマンらしい渋さを伴った演奏で、これはいい共演です。このCDではこの曲が白眉です。
第1楽章冒頭からやや暗さのあるピアノの響きがシューマンの特徴を出しています。ここではヴァイオリンの響きもまろやかでピアノを中心にそれを包み込む響きとなって構成されていて、シューマンの心地よい主題展開とその感情豊かでロマンティックな音楽がスピーカーから溢れてきます。シューマンの「室内楽の年」といわれているほど多くの作品が残された1942年、彼が32歳の時に作曲されていますが、この曲はやはり代表曲でしょうね。
妻のクララに捧げられただけあってピアノが中心になって演奏される音楽ですが、ヤンドーがあまり出しゃばらないので本当の意味での五重奏を楽しむことが出来ます。市販のCDはこの曲とこれも渋いブラームスのピアノ五重奏曲がカップリングされていますからよけい目立たないのかもしれませんが、これはおすすめの演奏です。
3曲目はモーツァルトのピアノ・ソナタです。ここに収録された第8番は短調という調性でモーツァルトとしては珍しい作品です。ヤンドーはモーツァルトのピアノ・ソナタを全曲録音していますが、この曲はその全集の第1弾で発売されたアルバムに収録されている曲です。ということは、最も得意とする曲の中の一曲といってもいいのではないでしょうか。それも、アルバムの第1曲目に収録されているのですから・・・

旅先のパリで母親を亡くし悲しみの中で書かれた作品というのがこの曲のバックボーンですが、短調で書かれたこの曲はモーツァルトの中でもやはり異色です。その曲から全集を始めるヤンドーはここにモーツァルトの何を見つけたのでしょうか。ここでは、第1楽章から異常に高いテンションでやや引きずるようなテンポで開始されます。これが悲壮感を助長するかのような響きでこの曲の特色を見事に表現しています。ただこの第1楽章、グレン・グールド並に唸るヤンドーの姿を聴き取ることが出来ます。これが気になるがどうかがこの演奏の分かれ目でしょう。粒のそろったタッチで演奏は申し分ありません。
アンダンテ・カンタービレの第2楽章は、第1楽章とは異なり、やや明るい響きで演奏されていきます。しかし、タッチは強靭なので背後にある陰陽な影はづっと付きまといます。この明るさの中の悲愴感のバランスは並みいるピアニストの演奏の中でも屈指の表現力です。この演奏が世の中に出た時は日本ではまだレコ芸でも取り上げる土壌は出来ていなかったので正当には評価されなかったのが残念です。最近、ナクソスの音源がエイベックスから廉価版として復活していますが、その中にこの演奏がピアノ協奏曲第20番とカップリングされて入手しやすくなっているので少しは聴かれる機会が増えたのがせめてもの幸いです。
最近、価格面ではアルテ・ノヴァやブリリアントにはかなわなくなってきていますが、そのレパートリーやポリシーは大手には無いものを持っていてやはり、今後もがんばってほしいレーベルです。