マンション殺人 | geezenstacの森

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マンション殺人

著者 西村京太郎
出版 徳間書店 徳間文庫

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 都心の高層マンションのモデルルームで、見学客の一人が撲殺された。持っていた名刺は偽者で、別人と判明。ついで北多摩ニュータウンで同様の撲殺死体が発見される。しかも被害者は、第一の被害者の偽名刺を持っていた!長篇本格ミステリー。---データベース---
 
 1971年の作品ということでけっこう前のものです。そして、刑事物の長編ですが、ここでは警視庁捜査一課は登場しません。つまりは十津川警部シリーズものでは無いということです。事件の舞台は東京なのですが、登場するのは品川署の田島刑事と吉牟田刑事、それに北多摩署の園田刑事です。それぞれ別の事件を追っているのですが二つの事件が交錯し、合同捜査本部が設置されると三人が事件を追います。

 都心の15階建てのマンションの3回に設けられたモデルルーム、その見学に6人の男女が訪れます。営業のセールスマンは自由に見学させるために一人車のところでまっています。そして、1時間半後にそのモデルルームで一人の客が浴槽の中に頭を突っ込む形で死体で発見されます。奇妙なことにズボンのポケットに少量ですがゴム粘土を所持していました。

 被害者は持っていた名刺から直ぐに身元が確認されますが、それはニセの名刺でした。状況から、残りの5人の客が疑われます。
井上晋吉 60 会社役員
小林達雄 46 酒店主
鈴木正一 40 自動車修理工場経営
秋山千恵 35 バー経営
西沢文子 33 主婦
 この中で最後に部屋を出たのは秋山千恵でした。当然、彼女が最重要容疑者として浮かび上がります。
 
 一方、北多摩ニュータウンの第一次の入居の日に、早速引っ越してきた家族が新居のドアを開け部屋を確認するとここでも浴槽に頭を突っ込んだ形の死体が発見されます。死後4日ほど経過しています。まだ引き渡しも終わっていなかった団地の一室での死体。それは、やがて住宅公団の用地係長の水沼進だということが判明します。

 この二つの事件殺しの手口は似ていますが、共通性が無いということで最初は別々の事件として扱われます。しかし、彼の自宅から第1の事件のニセの名刺が見つかります。ようやく二つの事件の繋がりがみえてきます。そして、起こる第3の殺人事件。それは第1の事件の5人の客の中の一人、秋山千恵が死体で東京湾で発見されます。溺死体ですが死因は青酸薬物死でした。

 こうして殺人事件は連鎖的にこの後も発生していきます。最初は撲殺ですが後半は薬殺へと犯行の手口が変化して行きます。それにしても見えない犯行の動機、トリックこそありませんが正攻法の展開と地道な捜査の過程が克明に描かれていて興味をそそられます。こういう構成は最近の十津川警部シリーズでは感じられないもので,西村京太郎氏の作風が変化する前の刑事物という意味では注目の一作です。

 刑事の地道な地に足の着いた捜査は読み応えがあります。その中で事件の動機となっている住宅を巡る詐欺事件は今に始まったことではありませんが,一般庶民を悲劇のどん底に落とすには充分な動機があることを痛感させられます。過去の事件が浮上したところでこの事件の背景が見えてきますが,そこに至る過程の中で、ストーリーのあちこちに伏線が張られていることに気がつかされます。

 犯人はやはり身近にいますが,そこら辺の身辺捜査がもう少しきっちりされていればという気がしないでもない展開です。ストーリーの膨らみに比べてラストの盛り上がりが今ひとつなのが残念です。