ブリュッヘンの「ターフェルムジーク」 | |
テレマンの「ターフェルムジーク」管弦楽組曲(序曲)集 |
曲目/テレマン
2つのケールフレーテ、弦楽合奏と通奏低音のための組曲ホ短調/第1集より
1.Lentement - Vite - Lentement 6:20
2.Rejouissance 3:50
3.Rondeau 2:11
4.Loure 3:17
5.Passepied 2:48
6.Air, un peu vivement 5:27
7.Gigue 2:24
オーボエ、トランペット、弦楽合奏と通奏低音のための組曲ニ長調/第2章より*
8.Lentement - Vite - Lentement 6:59
9.Air: Tempo giusto 6:11
10.Air: Vivace 2:38
11.Air: Prest 5:40
12. Air: Allegro 3:37
2つのオーボエ、弦楽合奏と通奏低音のための組曲変ロ長調/第3集より**
13. Lentement - Presto - Lentement 5:58
14.Bergerie: un peu vivement 2:20
15. Allegresse: Vite 2:24
16. Postillons 2:09
17. Flaterie 2:53
18. Badinage: Tres vite 2:41
19. Menuet 3:35
指揮/フランス・ブリュッヘン
演奏/アムステルダム合奏団
コンサート・マスター/ヤープ・シュレーダー
チェンバロ/グスタフ・レオンハルト
演奏/アムステルダム合奏団
コンサート・マスター/ヤープ・シュレーダー
チェンバロ/グスタフ・レオンハルト
録音/1964/02、1965/01*、1965** 、Beukelen、オランダ
TELDEC 8.43776

その昔はテレフンケンと称したレーベルの「DAS ARTE WERK」のリファレンス・シリーズの一枚です。このディスクはオムニバスですが全曲は仏ディスク大賞を受けた名盤です。録音は1964-5年ですが既にオリジナル楽器による全集が完成していたことになります。顔ぶれはそうそうたるもので、トランペットにはモーリス・アンドレ、チェロにアンナ・ビルスマ、ホルンにはヘルマン・バウマンなどが参加していました。
ここでは「ターフェルムジーク」のそれぞれの曲集の中から冒頭の管弦楽組曲(序曲)のみを収録しています。タイトルは管弦楽組曲ですが「ターフェルムジーク」の曲集自体は室内楽曲に分類されます。なんでだろうと不思議に感じますが、この組曲以外は四重奏曲、協奏曲、トリオ、ソロ、終曲という順にフランス音楽が配列されています。ですから全体では室内楽の構成なんですね。
まあ、もともとが名前の通り「食卓の音楽」ということで食事の時のBGMとして書かれていますからそんなに派手に大音量で演奏するものではありません。ただ王侯貴族が食事時に演奏させるために作曲させたものと思われますが、実際には祝典用音楽としても演奏されたようです。1773年に楽譜が出版された時にはヨーロッパ全土から予約の注文が殺到し、予約者の中にはヘンデルやクヴァンツなど当時の有名作曲家の名もあったと言われます。
テレマンという人はドイツ人ですが、当時の演奏スタイルに則りここではフランス風の音楽を全体に配しています。ターフェルムジーク」はドイツ語ですが、テレマンは"Musique de table"とフランス語を使用しています。テレマンは、曲の題名をほとんどフランス語で書いています。この意味を考えてみると、118世紀という時代と無関係ではありません。17世紀はイタリアバロックの世紀でしたが、18世紀は、フランス宮廷文化がヨーロッパ全体に浸透し、外交、芸術のすべてにフランス語が使用された時代でもありました。まさに18世紀はフランスの世紀であった。そういう流行に敏感であったテレマンは当時は時代の寵児としてバッハよりも名が知れていました。生涯に4,000曲以上の作品を残したというのですが未だにその全貌が整理しきれていないということです。
♪♪さて、ここではその「ターフェルムジーク」の中から組曲だけが選ばれています。こうして聴いてみると大バッハの管弦楽組曲に引けを取らない作品であることが分かります。第1集の組曲の第1曲の主題はのちにヘンデルが彼のオラトリオ「アレクサンダーの響宴」の中に流用しています。7曲からなる第1組曲は序曲で始まりそれに舞曲が続くという典型的な管弦楽組曲の構成で、バッハのそれもこの形式で書かれています。ただ、バッハの管弦楽組曲はターフェルムジークとして書かれたものではないだけメロディアスで後世の人間には記憶に残ったのでしょう。その点、作品としての性格上、あまりド派手な音を出す訳にはいかず、食事の妨げにならない配慮の分メロディアスに部分には目をつむったということでしょう。作品としては立派なのですが、聴いて心に残る旋律が乏しいというのがテレマンの最大の欠点なのかもしれません。
指揮のフランス・ブリュッヘンは当時はブロック・フレーテの名手としての認識しか持っていなかったので、レコードでこの演奏が発売になったときには耳を疑いました。これは古楽器による演奏でリコーダー界のみならず、バロック音楽の演奏に新風を吹き込んだブリュッヘン初期の名盤です。ゆったりとしたテンポにのった素朴な表現が、心休まる情緒を醸し出しています。
♪♪第2集の序曲は、典型的なフランス古典主義的な序曲であり、雰囲気はヘンデルの音楽に近しいものを感じます。30分位の長大な曲で緩急緩急緩の5部構成になっています。ここでは第1曲のラントマン以下はすべてエアという得意な構成で異彩を放っています。そのフランス風の格調の高さは、まさにフランス古典主義画家プッサンの世界と共通しているのではないでしょうか。古代ギリシアの神殿を想わせる荘重な音楽で始まり、次に女神が舞うような軽快な部分になる。そして再び荘重なドーリア調に変わり、そして再度軽快なイオニア調になり、最後にまた荘重なドーリア調になり曲を締めくくっています。使われている独奏楽器もオーボエとトランペットということで3つの組曲の中では一番華やかです。ここではやはり、モーリス・アンドレの名人芸の響きを堪能することが出来ます。
♪♪最後の第3集の序曲はまた、7楽章の形式に戻っていますがタイトルにはおせっかい(プラトリー)とか冗談(パディナージュ)というものが含まれ音楽の内容は進化を遂げています。やや玄人受けする内容ですが、そこには天才肌のテレマンの真骨頂を聴くことが出来ます。
こういう形でCDが発売されたのはこの時だけのようで、再発では曲の構成が変わってしまっています。こういう組み合わせでこの曲を聴くと、この「ターフェルムジーク」がバッハの管弦楽組曲に匹敵する作品だということを再認識することが出来ます。