ドヴォルザークの協奏曲 |
ヴァイオリン協奏曲イ短調 Op. 53
- Allegro Ma Non Troppo 11:04
- Adagio Ma Non Troppo 10:30
- Finale: Allegro Giocoso, Ma Non Troppo 11:00
- Allegro 14:58
- Adagio, Ma Non Troppo 11:41
- Finale: Allegro Moderato 12:17
チェロ/レナード・ローズ
指揮/ユージン・オーマンディ
演奏/フィラデルフィア管弦楽団
録音/1965/03/22
E:ポール・マイヤーズ
1963/11/24 フィラデルフィア
P:トマス・フロストE:ポール・マイヤーズ
SONY SBK46337

クラシックの世界では有名な作品は「メンコン・チャイコン」みたいに短縮してよばれることがあります。メンコンはいうまでもなくメンデルスゾーンの、そしてチャイコンはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の事です。同じように、「ドヴォコン」という呼ばれ方もあるのですが、こちらはヴァイオリンではなくてチェロ協奏曲のことです。そうなのです、同じ協奏曲でもチェロの方はドヴォルザークというよりもクラシック音楽を代表するほどの有名作品であるのに、こちらのヴァイオリン協奏曲の方は実にマイナーな存在なのではないでしょうか。
ドヴォルザークはピアノ・ヴァイオリン・チェロのための協奏曲をそれぞれ一つずつ書いています。この中で、チョロの協奏曲が突出して有名なのですが、他の協奏曲もドヴォルザークらしい美しい旋律とファンタジーにあふれた作品です。確かに、ブラームスやベートーベンの協奏曲のような緻密で堅固な構成は持っていませんが、次々と湧き出るようにメロディがあふれ出してきて、それらが織物のように作品の中に織り込まれていく様は実に見事というしかありません。
一般にはマイナーですが,有名どころのヴァイオリニストはちゃんと取り上げて録音しています。ここでは大御所のアイザック・スターンが唯一ステレオで残した録音で聴くことができます。バックがオーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団ということでいやが上でも期待してしまいます。
第1楽章からスケールの大きな演奏が展開されます。オーマンディは合わせ物も得意で、ここでもしっかりとサポートに徹しています。まあ、元々がオーマンディはヴァイオリン奏者だったのですからそこら辺は心得たものです。しかし、ただあわせるだけでなくスターンのテンポの揺れにぴったりと合わせて,尚かつその中で,ドヴォルザークの持つボヘミアの土の香りをちゃんと漂わせています。スターンの才気あふれる演奏はこの曲がドヴォルザークの隠れた名曲であることを証明している気がします。ただ、録音がちよっといただけなく低域がぼこぼこと響きます。もちろんアナログ録音ですがADD処理のこの録音低周波ノイズがけっこう耳につきます。小生が所有するのはアメリカプレスのものですが、1992年に国内盤が出ています。ジャケットデザインも全く同じ形で発売されていますが音はどうだったんでしょうかね。
ブラームスと同時代に生きたドヴォルザークのこの作品はサウンド的にブラームスに近しいものを感じますし,曲の構成的にはブルッフのヴァイオリン協奏曲と似たような響きを感じる部分も有ります。作品番号が53ということは交響曲第5ー6番と同じ頃の作品です。そして、この曲はブラームスの友人でもあった当時の大ヴァイオリニスト,ヨーゼフ・ヨアヒムのすすめで作曲されています。ドヴォルザークはそのすすめに従ってわずか2ヶ月でこの作品を書き上げたと言われています。その後、ヨアヒムの助言をも受け入れて何度か修正が施されて現在の形となりました。ただし、理由は不明ですがヨアヒム自身はこの作品を演奏することはなく、初演はドヴォルザークの熱狂的な支持者であったフランティシェク・オンドルシーチェックの独奏によりプラハで1883年に初演されています。
さて、このCDにはもう一曲有名なチェロ協奏曲が収録されています。本来の認知度からいったらこちらの方が先に収録されている方が自然なのではと思いますが,このCDを聴く限りではこの順番が正解のような気がします。どちらかというと,ローズは室内楽の方では素晴らしい功績を残していますが,この協奏曲の分野では並みいる名士の中にやや埋もれてしまっている感が有ります。セル/フルニエのびしっと決まった演奏に比べるとやや冗長な表現で平和すぎる印象がします。オーマンディのサポートもここではテンポの揺れが大きすぎてやや響きが散漫になってしまっている気がします。録音はこちらの方は馬力の有るものでバランス的にも充実しています。
このCD、世界的に「ESSENTIAL CLASSIC」シリーズとして廉価盤で発売されたにもかかわらず、国内盤は2,000円という価格での発売でした。当然、輸入盤を買いますわな。LP時代はソニーのレコードをしっかり買い込みましたが、CD時代になってからはほとんど輸入盤になってしまったターニングポイントがこのシリーズだったような気がします。