デーヴィッド・ロイド=ジョーンズの冥王星付き「惑星」 |
曲目/ホルスト:組曲「惑星」 Op.32
1. 火星 - 戦いをもたらす者 7:03
2. 金星 - 平和をもたらす者 8:32
3. 水星 - 翼のある使者 3:59
4. 木星 - 喜びをもたらす者 8:00
5. 土星 - 老いをもたらす者 9:21
6. 天王星 - 魔術を使う者 6:12
7. 海王星 - 神秘なる者 6:53
8. 冥王星 - (作曲:コリン・マシューズ) 6:53
9. ソプラノと管弦楽のための劇唱「神秘のトランペッター」Op.18* 18:37
(編曲:コリン・マシューズ & イモージュン・ホルスト)
指揮/デーヴィッド・ロイド=ジョーンズ
演奏/ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団、女声合唱団
ソプラノ/クレア・ラター*
録音/2001/02/17-18 シティーホール、グラスゴー
P:アンドリュー・ウォルトン
E:エリノア・トマソン、ペーター・ニューブレ
演奏/ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団、女声合唱団
ソプラノ/クレア・ラター*
録音/2001/02/17-18 シティーホール、グラスゴー
P:アンドリュー・ウォルトン
E:エリノア・トマソン、ペーター・ニューブレ
ナクソス 8555776

「惑星」の「冥王星付き」で話題になったのはラトル盤で、丁度冥王星が太陽系の惑星から除外されることが話題になった時でした。このニュースに刺激されてか、ラトル盤は一時品切れになったとか。そういう話題も今や過去のこととなり、今後この「冥王星付き」の新録音はもう出ないのではないでしょうか。ちなみに、現在市販されて手に入るこの「冥王星付き」の録音は5種類ほどあります。
1.エルダー /ハレ管 00/05 HYPERION
2.デーヴィッド・ロイド=ジョーンズ/ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団 01/02 NAXOS この録音
3.フリーマン/チェコ・ナショナル響 02/1 VICTOR
4.オウェイン・アーウェル・ヒューズ指揮/ロイヤルフィル 04 WARNER
5.ラトル/ベルリン・フィル 06/3 EMI
2.デーヴィッド・ロイド=ジョーンズ/ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団 01/02 NAXOS この録音
3.フリーマン/チェコ・ナショナル響 02/1 VICTOR
4.オウェイン・アーウェル・ヒューズ指揮/ロイヤルフィル 04 WARNER
5.ラトル/ベルリン・フィル 06/3 EMI
この「冥王星」は当時ハレ管弦楽団の常任指揮者をしていたケント・ナガノがホルスト協会の会長でもあるコリン・マシューズ(1946- )に委嘱して2000年の演奏会に取り上げて初演したものでした。そして、同年のプロムスにも取り上げられて評判になったのです。でも、初演者のケント・ナガノはこの曲自体を録音していないのですから不思議です。
ということでは、このロイド=ジョーンズ盤はマーケティング的にはあまり話題にのぼらなかったのですが、NAXOSの並みいる録音の中でも24ビットで収録・編集された旨がジャケットに記載されていて、そういう点では鮮明で分離のよい聴き応えのある音質は特筆ものです。調べてみたら、このグラスゴーのシティ・ホールはティントナーのブルックナー・シリーズでも使用されていてある意味、ホールの特性を熟知したスタッフで録音されているということでしょう。ちなみに、メインの録音エンジニアはエリノア・トマソンという女性が担当しています。そういう観点からこの録音を聴いてみると変に低域を強調する録音ではなく、各楽器のバランスが繊細で聴こえるべき楽器がきちんと鳴っているのが解ります。惑星には優秀録音が多いのですが、これもその仲間に入れていい一枚でしょう。ナクソスには初期にエイドリアン・リーパーがチェコスロヴァキア放送交響楽団と録音した物があるのですが、完全に影が薄くなってしまいました。
第1曲の「火星(戦争の神)」は標準的なテンポでの演奏です。小沢征爾あたりは6分台で駆け抜けていきますが、この重々しい旋律はそれでは物足りないのでこれぐらいがちょうどいいテンポです。で、特に替わったことはしていませんが、解像度がいいので弦のコルレーニョとか小太鼓のバチさばきなんかが手に取るように聴き分けられます。ホルストはイギリス人指揮者には欠かせないレパートリーなのか、ほとんどの指揮者がこの曲を録音していますが、ロシアものを得意としているロイド=ジョーンズはここでも豪快なアプローチでオケを限界まで鳴らせています。中でも戦争の神の叫びとして、トランペットの咆哮は幾分強調して吹かせています。録音がクリアなだけにこのアプローチは目立ちます。ティンパニの打音も強烈ですが玉砕していないのもいいです。ただ時に、オルガンの響きが聴き取れないのが少々残念です。
「火星」の録音レベルからするとやや入りの音が大きすぎるのが難点ですが、この「金星(平和の神)」はいい演奏です。相対的にフルオーケストラを鳴らす曲よりはこうした静かな曲の方が聴き応えがあります。この辺が録音エンジニアのエリノア・トマソンの特性が出ている所なのでしょうか。この8分半はリラックス出来ます。
続く「水星(翼のある使いの天使)」はチェレスタやヴァイオリンのソロが素晴らしくクリアで分厚いオーケストラとの響きの対比が見事です。
昔LPで聴いていた時は、この「木星(快楽をもたらす者)」からB面でした。派手ハデな曲なので針がトレースしても大丈夫なように配慮されていたんでしょう。レコードの内周はオーケストラ物だとどうしてもびり付きが発生しやすかったんです。CDはこういう心配がないので気楽です。最近は、平原綾香の歌でメジャーになり単独でもこの曲が演奏されるようになりました。この「木星」の第四主題、Andante maestoso の旋律は、1921年、セシル・スプリング=ライスによって“I vow to thee, my country”(私は汝に誓う、我が祖国よ)で始まる歌詞が付けられ、英国の愛国的な賛歌として広く歌われるようになりました。イギリスでは第2の国歌として親しまれているということではホルストはブリテンより人気があるのでしょうかね。
神秘的な2つの和音で始まる「土星(老年の神)」は全曲の中では一番演奏時間の長い曲です。このロイド=ジョーンズの演奏では約9分半にも及びます。ここでも、ティンパニの強打が凄い主張をしています。中盤で聴かれるチェレスタの規則だだしい響きが永久の時を刻む響きに聴こえて瞑想の世界に入り込みそうです。
このロイド=ジョーンズの惑星で一番特徴的なのはこの「天王星(魔術の神)」です。冒頭の金管のファンファーレの主題は極端に遅いテンポで始まります。これにはちょっとびっくりです。まあ、その後は通常のテンポに戻りますから違和感は無くなりますが・・・この落差がこの曲をまたより印象づけています。コラール風の旋律は軽快なテンポで駆け抜けていきます。こうして聴いてくるとけっこうメリハリの効いた演奏で思いの他楽しめます。
「火星」ではパイプオルガンの響きはあまり聴き取れませんでしたが、この「海王星(神秘の神)」でもごくごく控えめでしか鳴っていません。しかし、スペアナで見るとちゃんと40Hzhぐらいの響きがあります。まあ、隠し味程度ということなのでしょう。このCDではあまり目立ちませんがSACDではどうなんでしょうね。ところで女性コーラスはこれもややバランス的には大きめな音で録音されています。もうちょっと繊細さが欲しい所です。
さて、この演奏では実際の海王星の終結部を少し書き換え(最後の小節の直前で切れるバイオリンの高いロ音を延ばし続けています)、そのままアタッカで冥王星に続くように編曲されています。そして、原曲の海王星の消え入るような終結に対し、冥王星は消え入るようには終わらず、太陽系の外のさらに広い宇宙空間へと続いていくかのような響きの組み立てになっています。この点がホルストの原作の音楽的意図とはやや異なる印象があります。そして、実際の響きは現代音楽的で不協和音の響きが曲全体を覆っています。これは賛否両論の別れる所でしょう。つんざくような金管の咆哮と荒れ狂うパーカッションの響きはどことなくSFの世界へ入り込んだかのような印象です。ここでも最後に隠し味的にパイプオルガンの響きが女性コーラスのバックに響いて全曲を終わります。この終わり方は、いささか唐突で、もう少し長いコーダで宇宙空間の広がりをイメージしてほしかったと思います。
なを、SACD盤は海王星と冥王星は繋がっていないようです。そこは無理矢理編集しているらしいのですが、未聴ですから詳しくは分かりません。CD盤はそこら辺の違和感はありません。
このCDには余白に、ソプラノと管弦楽のための劇唱「神秘のトランペッター」Op.18が収録されています。こちらもコリン・マシューズがホルストの娘のイモージュン・ホルストの監修のもとに編曲したものです。どの程度の編曲がなされているかは解りませんが、、個人的にはリヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」を思わせる濃厚なロマンの香り漂う佳曲でソプラノのクレア・ラターの歌唱が光ります。多分、この曲の唯一の録音ではないでしょうか。
