外房線60秒の罠 | geezenstacの森

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外房線60秒の罠

著者/西村京太郎
出版/実業之日本社 ジョイノベルス

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 亡き恋人との思い出の南房総を傷心旅行中、男は安房鴨川駅前の喫茶店で若い女と知りあう。彼女は男を携帯のカメラで撮り、名刺をもらう。その女が東京の井の頭公園で殺された。男は容疑者として、警視庁捜査一課にマークされるが、自分が鴨川シーワールドに一緒に行った女は、被害者とは別人だと主張。十津川警部は真相を求め、捜査に乗り出す。----データベース−−−

 2005年に「J-nobel」に発表された作品です。事件はいつも通りちゃんと解決するのですがなにか後味の悪いものが残ります。登場人物の設定がびしっと決まっていないところに問題があるのでしょうか。タイトルからすると鉄道ミステリーのような気がしますが、ほとんど関係ありません。そういう意味ではタイトルに騙されます。

 警察の操作の方法も問題無しとは言えないようなストーリー展開です。まず、本題の事件の前に、2年前の殺人事件が存在します。容疑者の井口勳はその当事者なのですが、恋人を殺されたこの事件は解決していません。それは十津川班が担当した事件ではないのですが関連があるならそちらの事件も調べるべきなのにそうした捜査は全く行なわれません。同じ捜査一課の中村班が担当した事件で迷宮入りになっています。十津川警部らしからぬ捜査方針で、全く関知しないのです。このストーリー第1章を読んだだけで犯人は分かってしまいます。それなのにその男の事は調べようとしない展開が既に犯人像を浮き上がらせています。

 こういう展開ですから、回りくどい捜査ばかりが鼻につきます。見るべきところは十津川班の刑事が揃って活躍することです。三田村・北条コンビに田中・片山コンビ、そして西本刑事ととっかえひっかえ登場します。まあ、途中から十津川・亀井コンビが中心になるの当然の成り行きです。

 殺人の動機については、容疑者にはこれといったものが見当たりません。それなのに井口だけを必要に追求します。三田村・北条コンビは彼の行動を辿ることで彼の無実を証明する証言者を見つけ出します。しかし、その人物までが何者かに殺されてしまいます。ただ、最初に殺された女の実態が少しずつ明らかにされていく過程で過去に車で人を跳ね二人も死亡させている実態が浮き彫りにされます。ふつう、こういうのって刑事事件で処罰され、交通刑務所に入れられるはずですがそういう事実はありません。不思議な設定で、何でという疑問が起こります。

 殺しの動機については納得出来るようで納得出来ない設定ですが筋としては何とか通るでしょう。現実離れしたストーリー展開もあり、警察は掟破りのスパイ行為はするし、最後は御得意の罠を仕掛けます。この罠がタイトルに結びつくものなのですが、殺しの方法は何とも杜撰な方法です。ビューわかしお24号の終点の東京駅のホーム到着の車両でナイフで刺し殺すという方法です。曲がりなりにも車内という公衆の面前での殺人です。返り血も浴びるでしょうし人の目もあります。今までの緻密な計画を立ててきた男がこんな方法で?と思ってしまいます。そして、当然のようにそこには刑事が張り込んでいますから事件はあっという間に解決です。 

 7章のエピローグでは別の方法で犯人をあぶり出す手口を井口が披露します。こつちのほうがもっともらしい展開になりそうな気がします。十津川警部シリーズは前半だけ登場する男なり女が登場するのですが、ここでは最初に登場する井口と言う男が最後までストーリーに絡んできます。そういう部分は従来の作品とは違うところで、多分にドラマ化を意識しているんでしょうなぁ。

 ただ、この事件は首尾よく解決ですが、2年前の事件についてはほったらかしです。中村班はいい恥さらしです。