CLASSIC INN 13
ムーティの春の祭典
曲目/
ドビュッシー
1.牧神の午後への前奏曲 10:24
ラヴェル/「ダフニスとクロエ」第2組曲 *
2.夜明け 6:32
3. 無言劇 7:11
4.全員の踊り 4:41
プロコフィエフ
交響曲第1番ニ長調作品25「古典交響曲」**
5. 第1楽章 4:09
6.第2楽章 4:10
7.第3楽章 1:38
8. 第4楽章 4:11
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」***
9.第1部 大地の賛仰 序奏 3:26
10.第1部 大地の賛仰 春のきざしと若い娘たちの踊り 3:11
11.第1部 大地の賛仰 誘拐 1:18
12.第1部 大地の賛仰 春のロンド 3:33
13.第1部 大地の賛仰 競いあう部族のたわむれ 1:41
14.第1部 大地の賛仰 賢者の行列 0:36
15.第1部 大地の賛仰 賢者(大地の賛仰) 0:22
16.第1部 大地の賛仰 大地の踊り 1:09
17.第2部 いけにえ 序奏 4:08
18.第2部 いけにえ 若い娘たちの神秘な集い 3:07
19.第2部 いけにえ 選ばれた乙女の賛美 1:29
20.第2部 いけにえ 祖先の喚起 0:42
21.第2部 いけにえ 祖先の儀式的行為 3:34
22.第2部 いけにえ 聖なる舞踊(選ばれた者) 4:31
指揮/アンドレ・プレヴィン 1、5-8
リッカルド・ムーティ 2-4、9-22
演奏/ロンドン交響楽団 1、5-8
フィラデルフィア管弦楽団 1、5-8
フィラデルフィア・シンギング・シティ合唱団 2-4
フルート/ピーター・ロイド 1
リッカルド・ムーティ 2-4、9-22
演奏/ロンドン交響楽団 1、5-8
フィラデルフィア管弦楽団 1、5-8
フィラデルフィア・シンギング・シティ合唱団 2-4
フルート/ピーター・ロイド 1
録音/1982/02/13-16*
E:クリストファー・パーカー、ミシエル・グレイ***
EMI 小学館 SGK-89101
1978/10/25,30*** オールド・メット教会、フィラデルフィア
1979/07/02-03
1977** アビー・ロードスタジオ、ロンドン
P:スヴィ・ラジ・グラップ、クリストファー・ビショップ***1979/07/02-03
1977** アビー・ロードスタジオ、ロンドン
E:クリストファー・パーカー、ミシエル・グレイ***
EMI 小学館 SGK-89101

ドビュッシーとプロコフィエフはプレヴィンの演奏です。1970年代の録音ですが、ドビュツシーはEMIにとっての初デジタル録音になるもので編集なしのテイクによって収録されたといいます。いわゆる一発撮りですね。そのためライブに似た緊張感のある演奏で聴きものに仕上がっています。ロンドン交響楽団から印象派の絵画を観るような淡いタッチのパステルタッチの音色を紡ぎだしています。
一方、プロコフィエフの交響曲第1番の方は1970年からほぼ10年おきに3度録音をしています。この録音はその2番目の物です。プレヴィンは自身でも作曲家であるし、ジャズピアニストとしても慣らしている腕前はリズム感と色彩感に長けています。この特徴を生かしたエレガントでありながらシャープな演奏に仕上がっています。
替わってムーティ/フィラデルフィア管弦楽団はラヴェルの「ダフニスとクロエ第2組曲」と「春の祭典」を収録しています。こちらのラヴェルはゴージャスの一言に尽きます。華麗なフィラデルフィアサウンドによるキラ星のような演奏で、声楽入りのこの曲をオペラティックに歌い上げています。うまい!!ホールトーンの残響もここではプラスに作用してまことに聴き映えがします。
「春の祭典」はフィラデルフィア管弦楽団にとっては久々の「ハルサイ」です。なにせ、前シェフのオーマンディはモノラルでは1955年の録音がありますが、ステレオでは遂に録音を残しませんでした。どうもあまり好みのレパートリーではなかったらしく、膨大な録音を残しているオーマンディにしてはストラヴィンスキーは三大バレエ音楽をかろうじて録音しているだけです。そういう意味ではムーティは張り切ってこの曲を録音したのではないでしょうか。当コンビも三大バレエ全てを録音しています。
そういうこともあって興味深く聴いたのですが、ちょっと表面的に流してしまって芯が無い演奏に思えました。オーケストラの個人的レベルは高いので個々の楽器はよく鳴っています。フィラデルフィアの大きなホールでの録音なので残響で音の細部がかぶるのが残念ですがアビーロードのように安っぽくはありません。しかし、どうもバレエ曲という本質には合っていない演奏のような気がします。ムーティらしく格調の高い造形感覚もこの曲としてはユニークですが、当盤の特色は、フレーズがみんな歌として捉えられているというか、横の線のつながりを重視しているため、全体的に流麗な感じに仕上がっている所にあります。ですからドラマテックな展開という側面はやや不足しているのかも知れません。勿論、アクセントは激烈だしリズムも躍動的なので、全体としてはちゃんとハルサイらしくなってはいますが、明るく開放的なサウンドのため、やはりイタリア的感性が強く出ているでしょうな。
この演奏の独特な雰囲気はリズムが少しづつ前のめりになるところにあります。ブーレーズのようにクールな演奏ではないので、聴いているとこのせかせか感がやや鼻につきます。ドラティの演奏のようにバレエを知り尽くしていると速めのテンポでもこうはならないのでしょうが・・・オーケストラの響きのバランスも独特のものがあり、第1部の「春のきざしと若い娘たちの踊り」のリズムも足が地に着いていないような感じの中、金管が吠え、テインパニが轟きます。特にトライアングルの音が妙に耳につくのが気になります。また、ホルンの音が場にそぐわないような音色で吹かれているのもおやっという感じです。ヘッドフオンで聴くと「誘拐」の部分でムーティの鼻歌が聴こえてくるのもご愛嬌です。そして、一番の驚きは、「賢者の行列」の部分でのラテン系楽器の「ギロ」が使われているので有名な部分です。ムーティの演奏はこごぞとばかりにこのギロを派手に鳴らします。4/6拍子の中でのギロの4連符は異様な響きです。確認した中では、最近の録音の中ではシャイー、ヤルヴィ、レヴァイン、ゲルギエフなどがこのギロを使用していますが一般一昔前まではあまり使われていないようです。そして、案の定アナログ最後期の録音ということもあって此処の部分はピークで音がひずんでいます。
第2部に入っても全体のつんのめり感は変わりません。そういう意味では異色の「ハルサイ」と言えないこともありません。個人的には一番最初に入手したのがモノーラルを疑似ステレオ化したフリッチャイの「ハルサイ」でしたからその擦り込みがあるのですが、切れ味鋭い音色でオーケストラも好演、曲のおどろおどろしさを知るにはいいレコードでした。
「ハルサイ」を調べていて、面白いホームページを見つけました。QuickTimeを使っていろいろな演奏の比較して聴きながら楽曲を分析しています。ムーティの演奏も取り上げられていますからお暇なら飛んでみて下さい。ムーティの音だけちょっとサンプリングが上手くいっていない部分が見受けられますが、こうして比較して聴くとムーティのつんのめり具合が分かります。