
横浜で進学塾帰りの女子高生が刺殺された。ノートに「55」というダイイングメッセージを残して…。ルポライター浦上伸介は取材に動くうちに、被害者が半月前、姫路で偶然ある事件を目撃していたことをつきとめる。「55」の意味する謎が解けたとき、女子高生殺しの犯人として意外な男が浮かび上がってきた。しかし容疑者には姫路での事件当時、秋田新幹線を利用していたという鉄壁のアリバイがあった…。姫路―秋田間に横たわる時間の壁を、浦上は破ることができるか? ----データベース−−−
1998年の作品です。冒頭からいきなり女子高生が刺殺されます。この女子高生の姉が前野美保と知り合いだったという関係から事件の発生を知るという、このシリーズでは異例の展開で幕を開けます。彼女は「55」というダイイングメッセージを残しています。この意味は警察でもなかなか解明することができません。このシリーズでは「古都の喪章」と同様将棋が重要なポイントとなっています。そして、調べていくうちに、被害者が半月前、姫路で偶然ある事件を目撃していたことをつきとめます。こちらでは老婆が殺されています。しかも、殺しの手口は女子高生と同じなのです。
警察の捜査も、当初二つの事件が関連していることなど考えていませんが、浦上伸介と前野美保の現地での証拠の収集が事件を大きく動かします。こんかいは、姫路、秋田、岡山と二人は縦横に現場を飛び回ります。そこで、警察では掴みきれない情報をキャッチして事件解決の大きなターニングポイントを見つけ出していきます。こういう、展開は読んでいてわくわくします。
将棋の棋譜では5五のポジションを「天王山」と呼ばれています。この解釈が事件を大きく前進させます。殺された女子高生は将棋クラブに入っていたのでした。そして、殺される前に母親と一緒に、そのまさしく天王の意味する東名銀行天王町支店へ出かけていたのです。そこに勤務する銀行員は、二人の来店を驚愕で見つめていました。この男は、殺された老婆の銀行口座を管理していた松本という課長だったのです。二つの事件は結びつきました。
この後の展開は例によっていつものアリバイ崩しです。老婆が殺された当日この男は秋田に旅行しています。殺人姫路です。全く逆方向のトリックをいつもながら浦上伸介と前野美保は名コンビで解いていきます。ここでも、逆転の発想で鉄道マニアの松本課長の裏を読み姫路から逢坂ね東京へ戻るルートではなく逆に岡山へ下るルートから事件を解明していきます。秋田新幹線での目撃証言や秋田からの絵はがきの謎も、現地へ飛んでそつなく解決していきます。
ストーリーのプロットは緻密に組み立てられていて、冒頭の浦上の将棋センターでのシチュエーションといい、事件当日の東京駅での描写といい実に細かく描かれて伏線が至る所に張り巡らされています。
もちろんこうしたストーリー展開ですからテレビが放っておくわけはなく、1999年に火曜サスペンス劇場で「秋田新幹線冬の迷彩」として放送されました。オリジナルの浦上伸介ものではなく弁護士高林鮎子シリーズでの放送でした。