
七夕の飾り付けで街が彩られた神奈川県平塚市の路上で、文芸評論家を自称する中年男が変死した。死体のそばにウイスキーのボトルが転がっていて、死因が急性心不全ということから、当初は単なる酔いどれの頓死かと思われた。だが、被害者がウイスキーをまったく飲まず、ボトルからも指紋は検出されなかったため、他殺の疑いが出てきた。フリールポライターの浦上伸介は、「毎朝日報」の谷田記者とこの事件に関わることになったが、犯人と思われる人物には鉄壁のアリバイがあった。
アリバイ崩しの名手が贈る本格長編。----データベース−−−
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お約束通り、浦上伸介の次なる事件は「天竜峡殺人事件」です。十津川警部シリーズもいいですが、最近はこの浦上伸介ものにはまっています。
最初の一章はメインキャラクターは全く登場しません。それどころか、本編には関係のない誘拐強盗事件が発生します。警察関係はそちらの事件に振り回されています。幸い、人質が逃げ出して通報が早かったおかげで非常線を張ることができ、その事件は無事解決します。その影で、ひっそりと中年の男が変死しています。最初は酔っぱらいののたれ死にかと思われましたが、一本の電話が掛かり、死んだ男はウイスキーは飲まないという事実が告げられ、殺人事件に発展します。
このネタを嗅ぎ付けた番記者の谷田がルポライターの浦上に電話を入れ、事件は動き出します。殺された男は、愛知県は蒲郡から鳳来寺、天竜方面を旅行して戻ったところでした。そして、この旅行には飲み仲間の男と女性三人組が同行していたことが解ってきます。浦上はその関係者から話を聞きに回りますが、そこで引っかかるものを感じ取ります。
最初は警察関係も少ない手掛かりながら事件の背景をたどって地道に捜査しますが、新聞社や雑誌記者の浦上が動き回ると影が薄くなってしまいます。しかし、この浦上の行動の、一つ一つの事実を積み上げて、大胆に予測する事で事件の奥深さを見つけ出していく手法はいつもながらわくわく感で読むことができます。そして、次元の背景に過去の詐欺事件が大きく関わっている事が分かります。
ルポライターがここまで、活躍するのですが、県警はその裏付けをとるためにだけ動き浦上のもたらす事実を否定する事しかしません。ここら辺りがちょっと残念です。物的証拠がありながらもアリバイ崩しが出来ないので容疑者を追いつめることができないのです。関係者の事情聴取も表面的にはきっちりしてはいるのですが肝心なところで壁に突き当たっています。
その壁を浦上は自らの行動力で、現地に赴き時刻表には載っていないアリバイ崩しのルートを探し出します。中盤までに、犯人は分かってしまうのがこの浦上伸介の一連のストーリーです。後半は、犯人たちのアリバイを崩す事に主眼が置かれ、番記者の谷田と推理を戦わせながらアリバイのトリックを見破っていきます。
事件の鍵は手みやげの横浜のシュウマイと最初に絡んできた誘拐強盗事件が事件解決の障害になってきます。しかし、ここにモネちゃんと落とし穴がありました。時刻表のトリックは字面を追うだけではちょっと分かりにくいところがありますが、駅員の証言が動かぬものとなります。
このストーリーでは浦上伸介がほとんど一人で動き回り、ちょっと女っ気がないのが寂しいといえば寂しいですが、その分話の展開がスピーディで読んでいて飽きません。