エラート100枚ボックス その4 | geezenstacの森

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小澤の悲愴

曲目/チャイコフスキー
交響曲第6番ロ短調Op.74「悲愴」
1.Adagio-Allegro Non Troppo 18:13
2.Allegro Con Grazia 7:50
3.Allegro Molto Vivace 8:44
4.Finale - Adagio Lamentoso - Andante 10:42
5.スラヴ行進曲 Op. 31* 9:13

指揮/小沢征爾
   ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー*
演奏/ボストン交響楽団
   ソビエト国立文化省交響楽団*
録音/1986/08/26 シンフォニー・ホール、ボストン
1991/02,03 チャイコフスキー音楽院大ホール、モスクワ*

P:ヨランタ・スクラ
 イゴール・ウェブリンツェフ*
E:ジョン・ニュートン
 マルティン・グース*

ERATO 2564699088

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 冬に聴きたくなる作曲家はシベリウスだけではありません。チャイコフスキーもその一人です。エラートの100枚ボックスにはチャイコフスキーものは3枚ありますが、交響曲はこの一枚のみで、それも「悲愴」だけが収録されています。国内盤のワーナーから出ているものはこれ1曲だけしか収録されていませんが、このCDにはカップリングにロジェストヴェンスキーの指揮による「スラヴ行進曲」が収録されてお買い得になっています。

 チャイコフスキーを代表する交響曲とい乳母この「悲愴」なんでしょうけれども、個人的にはチャイコフスキーの交響曲の中でこの「悲愴」はあまり好きではありません。LP時代にもロジェストヴェンスキー/モスクワ放送交響楽団の指揮する交響曲全集で僅かに所有していただけで、CDでもこれまでは同じロジェストヴェンスキーの指揮するロンドン交響楽団とのものを持っていただけです。

 ここでは交響曲第6版「悲愴」の方を小澤が指揮しています。この録音は小澤にとっては2回目、そして。エラートにも第2弾の録音となったものです。エラートには都合3枚のアルバムを録音していますが、交響曲はこれ1曲のみです。

録音第1楽章第2楽章第3楽章第4楽章
小澤/ボストンSO18:167:518:4410:44
ロジェストヴェンスキー/ロンドンSO18:227:259:2210:31
オーマンディ/フィラデルフィアO18:008:169:2110:55
カラヤン/ベルリンPO18:128:558:1110:08

 パリ管弦楽団との録音から12年の歳月を経ての録音で録音時51歳と脂の乗ってきた頃の録音です。ボストン響とも既に10年以上のコンビですから充実していない訳がありません。第1楽章から気迫にみちた演奏が繰り広げられます。ボストン響は重心の低い安定した響きで、本拠地のシンフォニーホールの響きをしっかり拾っておりエラートの録音としてはすこぶる聴き映えがします。十全に音楽は鳴り響き、壮大なチャイコフスキーの音響空間が広がります。ファゴットの香り高い響き、弦楽器は幾分くすんではいますが暖色系の美しい響きです。コントラバスも充分音量があります。金管楽器もダイナミックな響きで申し分ありません。

 最終楽章は、この交響曲のタイトルのもととなった悲壮感溢れる切々とした響きが繰り広げられます。小澤も渾身の力を込めて指揮をしている様が目に浮かびます。フレーズの切れ目で小澤の唸りの肉声が聴き取れます。でも、どうしても心が伝わってきません。音が耳元の届くまでに何かしらのフィルターがあって、それによって音楽のエキスが濾過されてしまっているのです。ですから音は美しく心地よい響きで一点の曇りも無い見事なアンサンブルの響きが聴こえてきます。聴き終わって、チャイコフスキーを聴いたという充実感が湧いてこないのです。

 最初聴いた時は、あまりにさらっとしていて気持ちはいいのですが心に何も残りませんでした。これはいかん、ということでもう一度聴き直しました。確かにチャイコフスキーの響きはします。しかし、心に訴えるものがありません。なんで、という感じです。まあ、あまり好きでない曲を聴いているので、こういう印象しか持たないのかなとは思っては見たのですが、バーンスタインの晩年の録音で聴いた時は圧倒的迫力でこの曲の偉大さを垣間見た気がしました。ということは、この小澤の演奏は何なんだろうということです。チャイコフスキーはムードミュージックではないということなんでしょうかね。

 それに比べると、ロジェストヴェンスキーの「スラヴ行進曲」は最初の一音から圧倒的迫力で聴き手に迫ってきます。決して最上の録音ではありません。ハイファイ録音の多いこの曲にしては至ってオーソドックスな響きしかしません。最初のコントラバスの響きも重々しさはありませんし、その後に続く響きもややアップテンポでさらりと演奏されていきます。しかし、随所にロジェストヴェンスキーらしい仕掛けがあり、徐々にその響きの中に引込まれていきます。ロジェストヴェンスキーにとっては当時は手兵だったソビエト国立文化省交響楽団は決して上手いオーケストラではありませんが、お国物ということなんでしょうか、水を得た魚のように生き生きと演奏しています。打楽器の響き一つとっても底力があります。この曲が収録されていて救われました。