ストコフスキーの運命,未完成 |
ベートーヴェン
交響曲第5番ハ短調OP.67
1.第1楽章 6:33
2.第2楽章 11:15
3.第3楽章 6:03
4.第4楽章 9:00
シューベルト
交響曲第7番ロ短調「未完成」D.759
5.第1楽章 11:32
6.第2楽章 13:09
指揮/レオポルド・ストコフスキー
演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1969/09/09-10
P:トニー・ダマート
E:アーサー・リリー
演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1969/09/09-10
P:トニー・ダマート
E:アーサー・リリー
DECCA K30Y 1538 ウォルサムストウ・タウン・ホール、ロンドン

大学時代寝奈良の山奥でゼミの合宿をした時、ラジオのスイッチを入れたら丁度ベートーヴェンの「運命」が流れてきました。冒頭から聴いたわけではないので誰の演奏家分かりませんでした。ちょっと特徴のあるリズムでフレージングも一風変わっていました。皆で誰の指揮による演奏家当てるクイズみたいな事をやりました。ドイツ系の指揮者のような重量感はないし、さりとてアメリカのオケのようにバリバリ鳴らす演奏とも違います。その頃はストコフスキーの演奏は聴いた事がありませんでしたが、反対に手持ちのレコードの指揮者の演奏ではなかったので消去法でストコフスキーにたどり着きました。「こんな変わった演奏するのはストコフスキーしかいないんじゃないの?」
聴き終えて演奏者の紹介でやはりストコフスキーの演奏だと分かりみんなで合点しました。事ほど左様にストコフスキーの演奏は個性的です。
聴き終えて演奏者の紹介でやはりストコフスキーの演奏だと分かりみんなで合点しました。事ほど左様にストコフスキーの演奏は個性的です。
第1楽章の運命の動機はじっくりとためを作って堂々と提示されます。一聴すると濃厚な表現なのですが聴き込むとことのほか粘りがなくドイツのオケが演奏するような重厚さは感じません。フェイズ4の録音で低音もたっぷり鳴っているのに不思議です。主題の繰り返しは2回目の方がスラーを余分に掛けています。そして、カラヤンのように突き進む前進力もあまり感じません。こういう体験はストコフスキー以外では味わえないのではないでしょうか。第1楽章でも提示部の繰り返しはカットされていて無駄(?)を削ぎ落としています。この提示部のカットはオーマンディもしていますが他はあまり知りません。
第2楽章のアンダンテは弦の旋律をクッキリ浮かび上がらせた演奏で、更にはスラーの掛け方はマントヴァーニばりでたっぷり掛かっていますし、木管のドルチェの強調などベートーヴェンの無骨さとは無縁な演奏になっていて、まさにストコフスキー節が全開です。ストコフスキーの大好きなファンは思わずニャッとしてしまうこの味付けはたまらない魅力でしょう。
第3楽章も聴き手を充分に楽しませる演奏です。ヴィオラやチェロのメロディをクッキリと浮かび上がらせ、コントラバスは唸ります。それでも、歯切れのいいリズムで鈍重という印象はありません。フェイズ4のマルチマイクのおかげで各楽器の音色はクリアに捉えられ、音の遠近はバランスが取れています。
引き続いて演奏される第4楽章はアナログの限界を露呈して、やや音がひずんでいるところがある点はちょっと残念です。反対に言えばそれだけダイナミックレンジの広い演奏をストコフスキーはしていたということになります。これだけ弦の動きがクッキリと録音されているのも珍しいかも知れません。とくにヴァイオリン群の旋律はクッキリと浮かび上がり、明瞭にその動きを追うことができます。これは今回聴き直して発見でした。
併録はシューベルトの「未完成」です。CDのジャケットでは交響曲第8番になっていますが、現在の通説は第7番ということなのでデータはそれに変更してあります。ストコフスキーは未完成をSP時代に3回録音していて、ステレオではこの演奏だけが残っています。ベートーヴェン以上にメロディアスな曲ですから、ストコフスキーはシューベルトのピアノの指示を無視して徹底してオーケストラを歌わせています。まるで大好きな女性に語りかけるようにドラマチックに、そして甘美に鳴らしているのです。こういう演奏をされたら女性はたまらないでしょうなあ。
幸いにも、これらの丁度この録音が録られた年の演奏会のライブがEMIから映像で発売されています。オケもロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と同一です。まさに、この録音の1日前の演奏という事で、そのストコフスキーの解釈を目で確認することができます。これはカラーでの映像ですから貴重です。10本の指が紡ぎ出す音楽は、怪物ストコフスキーの奇抜さと気品を併せ持った希有の存在を再認識出来るのではないでしょうか。

シューベルトの未完成は下記で視聴できます。