北への殺人ルートと十津川警部推理行 | geezenstacの森

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北への殺人ルートと十津川警部推理行

著者 西村京太郎
出版 講談社 ノベルス  

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 疾走するバスを止め、被害者を呼び出して殺した大胆な暗殺者。男はポルシェを駆り、トカレフで連続殺人を犯していく。
被害者たちに接点はなく、理由も不明な得体の知れない犯罪に、十津川警部たちの必死の捜査が続く。そして浮かび上がった、犯罪組織の影。凶悪な事件の裏で進行していた、驚くべき陰謀とは。---データベース---

 短編物を読んでいくと以前読んだストーリーに出くわすことも多々あります。この一冊もそうで、4編の内の2編がそうでした。この中では後半の2作品です。

◆十津川警部みちのくで苦悩する
◆北への殺人ルート
◆甦る過去
◆冬の殺人

 タイトルは北への殺人ルートということですが、別に北国に関係する作品で纏められている訳ではありません。単に出典が小説現代ということだけのようです。この中で十津川警部の青春時代を思い出させる「甦る過去」は「十津川警部の回想 十津川警部の青春 第2集」に、西本刑事が登場する京都を部隊にした殺人事件の「冬の殺人」は「十津川警部 捜査行-古都に殺意の風が吹く-」に収録されています。

 タイトル佐久はKISSという金融グループが登場しますが、このグループの具体的説明はなされていません。KISSとはいみありげななまえですが、その実は悪質な取り立てで殺人も辞さない連中です。そのグループの殺し屋がはでなポルシェのオープンカーで登場し囚人の前で堂々と殺しを実行します。身元は直ぐに割れそうですがそのためには捜査四課の手を借りなければなりません。ちょくちょく登場する中村警部がここでも突破口を開いてくれます。頼りがいのある十津川警部の同期です。それにしても、仙台で起きた以前の事件が絡んでいるのですがその事件は未解決のままだったようです。警視庁に捜査依頼が無かったのでしょうかね。

 このストーリーの最後に十津川警部が死刑になる犯人を訪ねて面会します。こういうシーンまで描かれている事は珍しい事です。

 巻頭は青森の三浦警部が逮捕されその事件で十津川警部の名前が使われた事で、捜査依頼も無いまま十津川警部は単身青森に出かけます。一匹狼的三浦警部は警察内部でも味方がいなくて孤立しています。十津川警部も三浦が好きではありませんが自分の名前を語られてほっておけない私憤から唯一嫌われていない吉田刑事の助けを借りて三浦と十津川警部の担当した事件を洗い直します。すると、一人の女が担当した事件の犯人に娘として認知されています。そして、動機としてはこの父親と殺された妹の復讐という点が浮き彫りにされます。妹のレイプ事件の犯人は不起訴になっていたからです。この男を逮捕すべく事件の解決に臨むのですが・・・・

 一匹狼の三浦警部は無事釈放されます。十津川警部には手紙が届けられます。そこには「ありがとう、ありがとう。」の2文字だけが書いてありました。不器用な男の最大の感謝の言葉です。

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 さて、もう一冊の「十津川警部推理行」もダブりの多い短編集です。
◆夜の殺人者
◆白いスキャンダル
◆戦慄のライフル
◆白い罠
◆死者に捧げる殺人

 の5作品ですが、このうち4作品が「十津川警部の事件簿」と重複しています。何ともトホホの一冊です。冒頭の一作品だけが未読でした。しかし、この一編いつもの西村京太郎作品には無い男女の情愛がふんだんに描写されていて異色作に仕上がっています。日下という人物が登場します。最初は捜査一課の日下刑事かと思いますが、年齢が合いません。中年の実業家と分かります。行きずりのバーで出会い、意気投合してそのままラブホテルへと進みます。一戦を交えたあと男は風呂で汗を流しますが、その間に女は飛び降り自殺をしてしまいますがその死に方は異常です。当然、容疑者は日下になってしまいます。死んだ女の身元は個人開業医の妻で何と妊娠していました。それなのに女はコンドームの着用を要求していました。

 この点を不思議に思った十津川警部は日下を逮捕した後ももう一度背景を洗い直します。日下の証言に女の乳房には痣があったといいます。はたして、死んだ女には確かに痣がありました。かえってこの正直な言葉から替え玉の女の存在を疑います。はたして、医者の夫の周辺を探るとそういう女の存在が浮かんできます。そして、医者を詰問すると案の定動き出します。亀さんと二人張り込みをして男を尾行し、女の存在を発見します。しかし、時既に遅く女は殺され尚かつ部屋が放火されます。急いで女を日の中から引っ張りだし、男を逮捕します。殺された女の乳房にはやはり痣がありました。

 この事件、本来ならこの女は死ななくてもよかったはずです。犯人逮捕が遅れるという失態を演じていて、事件は解決しますが何となく後味の悪い作品になってしまっています。最後は、びしっと決めてほしかったと感じる作品でした。