ブラームスのホルン三重奏曲 | geezenstacの森

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ブラームスのホルン三重奏曲

曲目/ブラームス
1.ピアノ三重奏曲 第3番 ハ短調 作品101
2.ホルン三重奏曲 変ホ長調 作品40*
ホルン/ズエデニェク・ティルシャル*
演奏/スーク・トリオ -ヤン・パネンカ(ピアノ)  ヨゼフ・スーク(ヴァイオリン)  ヨゼフ・フッフロ(チェロ)
録音 1976年9月7~11日  プラハ、芸術家の家

 

スプラフォン COCO70798

 

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 今は処分して手元に無いのですが、アイファー・ジェームスというホルン奏者が演奏するレコードがお気に入りで、このブラームスのホルン三重奏曲をよく聴いていました。イギリスのPYEレーベルから発売されていたLPレコードです。CD時代を前に倒産しPRTという所が原盤を所有しているはずですがこの演奏がCD化されたという話は聴いていません。PYEは一時期テイチクから発売されていましたがこの録音は日本盤では出ませんでした。GSGC14132という番号でカタログに載っていました。ホルン/アイファー・ジェームス、ピアノ/スーザン・タネル、ヴァイオリン/ジョン・タネルというメンバーでの演奏でカップリングはモーツァルトのホルン五重奏曲という素晴らしい組み合わせでした。アイファー・ジェームスはイギリスホルン界の重鎮で、イギリス室内管弦楽団ではホルンの主席でしたし、一時期フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのメンバーとしても活躍していました。ただし、ソロとしてはあまりレコーディングには恵まれていなかったようです。

 

 話がのっけからそれてしまいましたが、この曲がCD化されて、目に止まったのがこのアルバムでした。ピアノ三重奏曲とのカップリングですがもちろんお目当てはホルン三重奏曲の方でした。渋いブラームスの作品の中では比較的明るい作品で、柔らかいホルンの響きが曲調とマッチしていてブラームスの中でも好きな作品です。

 

 だいたい、ブラームスは管弦楽曲は極めて少なく、もっぱら中心は室内楽でした。いろいろな組み合わせの曲を書いていますが、ホルンのための作品は不思議とこの一曲だけです。主調は変ホ長調ですが、第1楽章はヴァイオリンの哀愁を帯びた渋い主題でスタートします。スークのヴァイオリンは最初線が細いのが気になりますがホルンが絡む頃になると調子が出てきて俄然アンサンブルが良くなります。この第1楽章の主題はちょっと親しみにくいものですが、いかにもブラームスらしい渋いものです。チェコフィル繋がりで気心の知れたメンバーですからアンサンブルは抜群です。

 

 

 これに反して第2楽章はアレグロ、快活で一番華がある楽章です。ホルンが縦横に活躍しこの曲がホルンのための三重奏曲だということをいやが上でも分からせてくれます。ブラームスはこの曲をナチュラル・ホルンのために書いており自然倍音の響きが心地よく響きます。もちろんここではティルシャルはナチュラルホルンではありませんが柔らかい響きでこの明るい旋律を楽しみながら演奏しているのが聴き取れます。

 

 

 第3楽章のアダージョは重厚な対位法で書かれています。この作品が書かれた1856年の2月に母親が亡くなっていて、ブラームスはこの楽章を母親の追悼の気持ちで書いたものであろうといわれています。なんとなれば、主題は古いドイツのコラール「愛する神の導きまかすもの」が使われているからです。後の「ドイツ・レクイエム」に似た哀しみの深遠さが感じられるメロディです。このため、第2楽章とは好対照を成しています。ホルンが時に人間の慟哭を思わせる響きに聴こえるのは小生だけでしょうか。パネンカのピアノ、スークのヴァイオリンは楽章が進に従って緊張感が上がり、張りつめた静寂と悲歌が大きなうねりとなって聴く者を包み込みます。

 

 

 そして、第4楽章は彼岸の遠くに歓びとでもいうべく明るさを取り戻した快活な主題が全曲に響きます。ヴァイオリン。ピアノそしてホルンの三つの楽器がお互いの主調を乗り越えた共感の響きを奏でてクライマックスを作ります。ホルン好きにはたまらない響きです。けだし、これはホルンのための名曲でしょう。残念ながら、ここでホルンを吹いているズテニェク・ティルシャルは2006年8月18日に山を散策中に心臓発作で亡くなりました。

 

 

 スーク・トリオによるピアノ三重奏曲の演奏も聴き応えのある演奏です。3曲あるピアノ三重奏曲ですが、この曲が充実度からいってやはりトップです。第1楽章冒頭からガッブリ四つに組んだ演奏で最初から引き込まれます。ピアノのヤン・パネンカはソリストとしても一流なのですが、肌合いとしてはやはり室内楽の方が合っているような気がします。でしやばらず、かといって引っ込み過ぎてもいない絶妙なバランスは得難いものです。

 

 たった三つの楽器で演奏されるにもかかわらずスケール感のある曲で、響きの豊僥さはオーケストラ曲に引けを取りません。やはり、ブラームスの神髄は室内楽にあるのですね。この年になってこのブラームスの響きがようやく理解出来るようになって来ました。

 

 直近では単品の発売は無くなったようで、ピアノ三重奏曲全曲とホルン三重奏曲が収められて2枚組で発売されています。

 

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カタログNo: COCO70798
レーベル: Denon Crest 1000