
刑事を辞めた田辺は、大阪で私立探偵を開業するが、なかなか客がこない。そこへ、娘と佐世保に行ってほしいとの母親からの依頼。美人のエスコートだ。喜んで引き受けた彼は、「あかつき」に乗り込んだ。同じ頃、佐賀市で殺人事件が発生、その密疑が田辺に!証拠は不利。元部下のために、十津川と亀井が立ち上がる。著者のトラベルミステリーの代表的長編。---データベース---
登場する田辺淳は十津川班の捜査一課の刑事でした。相棒の鈴木刑事を自分の盗まれた拳銃で殺されてしまったことで退職し、私立探偵を始めていました。私立探偵では東京の橋本がよく活躍しますが、大阪にいる彼にはあまりお声がかからないのか登場しません。
依頼人は坂口文子、エスコートをするのは嫁の由美子ということです。妊娠4ヶ月ということなので大事を考え寝台特急の「あかつき3号」を利用して行くことになります。しかし、依頼を受けたとき書いた名刺を利用した受領書が後の事件で動かぬ証拠となり田辺は殺人の容疑者にされてしまいます。
トラベルミステリー、そして列車のトリックということで西村京太郎の本領発揮のストーリー展開です。殺された男との関係は残された名刺と坂口家の証言です。ここで、エスコートの依頼はなく田辺には娘につきまとうなという詰問の事実を突きつけられます。嫁は実は文子の娘だったのです。元部下が巻き込まれた事件ということで、十津川警部は早退して私用で大阪に出かけます。田辺は十津川警部にOKタクシーを利用して依頼人の家までいったことを話します。
ところが、大阪のタクシー会社を辞め東京に戻ったこのタクシーの運転手は家族とともに殺されます。毒殺です。これで、合同捜査の形で田辺の事件をおおっぴらに捜査出来るようになります。ここからが十津川警部の本領発揮です。嘘の証言をしている坂口親子を徹底的に調べていきます。すると、この親子の過去の生い立ちが生々しく浮かび上がってきます。
この犯行の動機を暴くフーダニットが綿密に描写されていて読み応えがあります。スケール感は松本清張の「砂の器」には及びませんが、由美子の男装とか母校へのこだわりとか興味を引くエピソードがいくつも盛り込まれています。
巧妙な筋立てとトリックで1983年の作品発表とともにその年の10月には既にテレビドラマ化されています。鉄道ダイヤが絡んだストーリーは改正されたらおしまいですから早い方がいいんです。ちなみに、現在はこんなダイヤにはなっていませんから。 このトリックは「あかつき1号」では成立しません。このトリックを見破り、親子の過去を暴くことで事件は核心に迫ります。最後は、ちょっといつものパターンで海外逃亡の直前に逮捕ということになりますが、ま、許容範囲です。