十津川警部の回想「十津川警部の青春第2集」 | geezenstacの森

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十津川警部の回想「十津川警部の青春第2集」

著者 西村京太郎
出版 徳間書店 徳間ノベルス

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 十八時三二分東京着“ひかり116号”の個室で発見された血まみれの男が、救急車で病院に搬送される途中、絶命した。発見したのは十津川。大阪在住の旧友・坂田弘から相談があるので会いたいとの連絡をうけ、迎えにきていたのだ。が、死んだ男は坂田とは全くの別人で、しかも、死ぬ間際に「おれを刺したのは、刑事の十津川―」と言い残したのだ!?窮地に陥った十津川の決死の捜索は…。「新幹線個室の客」ほか、大学時代の恋人が事件にまきこまれた「甦る過去」等、四篇を収録。---データベース---

 「十津川警部の青春第2集」という副題がついている通り、十津川警部の関係者が登場する短編集です。以下の四編が収録されています。
◆甦る過去
◆特急「あさしお3号」殺人事件
◆十津川警部の困惑
◆新幹線個室の客

 この四編の中で「十津川警部の困惑」はすでに同タイトルの本の中にも収録されています。登場する関係者はすべて大学時代の同窓生という設定になっています。

 「蘇る過去」は笹本美津子、十津川警部とは一時恋愛関係にあったということです。卒業と同時に彼女がアメリカに行ってしまい関係が切れたという簡単な説明です。その彼女から突然封書が届きます。しかし、中には写真が2枚同封されているだけでした。住所はでたらめで、何の意図で送られてきたのか分かりません。2ヶ月後一人の女性がが死体で発見されます。そして、彼女のハンドバックから送られてきたものと同じ写真が出てきて、身元が判明します。しかし、事件の全貌は掴めません。爪の間に残った黄色い塗料が事件の鍵となります。そして、写真に隠された秘密。こんな、事件があるのだろうかと思いますがSM偏執狂はこんな事もしでかすのかという殺人方法です。十津川警部ものにしては珍しく鉄道は出てきません。変わりに登場するのはシコルスキーMH53というヘリコプターです。
 ただ、決め手となるテープレコーダーの録音。人の声だけに反応して録音出来るということですが、やかましいヘリコプターの中でそんな事が可能なのでしょうか。そこだけが引っかかるストーリー展開でした。

 「特急「あさしお3号」殺人事件」は本田正一(ベンネーム沢田功)が登場し、主題の特急の中で殺されます。新進作家で新聞の連載が始まる矢先でした。新聞は中央新聞、十津川警部の盟友田島がいる新聞社です。ですが。この田島氏はこの事件では登場しません。不思議です。せっかく中央新聞が舞台になっているのですから彼の活躍を期待したのですが・・・
この事件でも列車トリックの妙が披露されています。しかし、山陰地方での事件は大体在来線と新幹線を絡ませたトリックが多いのでここでも最初からネタは半分割れているといってもいいでしょう。後は動機です。少しづつ犯人の仮面が剥がれていく情報の小出しにはじらされますが、十津川警部の狙い通りなので安心してのめり込めます。

 「新幹線個室の客」ではほとんど顔を合わせた事も無い坂田弘が登場し、彼の身代わりの男が新幹線の個室で殺されています。そのダイイングメッセージは
「俺を殺したのは、刑事の十津川・・・」と言い残して死にます。のっけからハプニングの展開です。しかもそれメッセージを聞いたのは十津川警部本人なのですから・・・死んだのは大阪の喫茶店経営者、武藤好一郎ですが、接点がなかなか見つかりません。しかし、意外にも今回の事件は以前担当した別の事件が絡んでいるのが分かります。その真相を突き止めるべく十津川警部と亀井刑事が大阪に飛んで事件を再捜査します。

 クライマックスで、事件の真相を知る坂田弘が湯布院で自殺します。彼の死とともに託された遺書がすべてを語って事の顛末が明らかになります。こういう遺書による結末は、事件の顛末を当事者が語るのですから分かりやすいといえばそうなのですが、どうも劇的盛り上がりに欠けて面白くありません。

 この作品で終わるなら、もう少し配列を考えてほしいと思うのは小生だけでしょうかね。それと、この本は珍しく誤植の多い事が気になりました。