死刑台のロープウェイ | geezenstacの森

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死刑台のロープウェイ

著者 夏樹静子
出版 徳間書店 徳間文庫

 

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箱根ロープウェイの搬器内で、室伏ナオミの刺殺体が発見された。ナオミは、一年前何者かに殺害された東行金属の前社長・室伏陽造の未亡人だった。彼女と二人で箱根のホテルに泊まっていたことから、同社の資材部次長・不二木達生に嫌疑が向けられる。アリバイのない夫の無実を証明しようとする妻・律子の苦悩…。鮮やかなラストシーンに息を呑む表題作等名品五篇。---データベース---
 
 夏樹静子の作品はちょっと格調が高いので二の足を踏むのですが、読み始めるとするめみたいに味があり、文章の行間の方が多くを語っているので頭をフル回転しておかないと訳が分からなくなってしまいます。短編集で以下の5編が収録されています。

 

◆闇よ、やさしく
 家出をした姉からの手紙に会いたいとの文面があり、それをたよりに訪ねたら姉の部屋は血だらけのままで行方不明になっているのです。調べると姉にはごろつきのひもがいたようでその男に殺されたのかもしれません。警察に事情を話し旅館で捜査の進展を待っていると刑事から男が自殺したらしいと連絡してきたということで、この事件は痴話による殺辻んと自殺ということで片付きそうになります。
 ところが、ここからが夏樹静子の本領発揮で、姉の手紙を読み返すと最後の方にー私は今、とっても幸せですーという一文があります。妹の美知子は姉がよく食事に行っていたスナックを訪ね、そこで別の男の存在を知ります。その男もけがをしています。そして、今まさに逃走しようとしています。考えるよりも先に行動し、男の車の後部座席に身を潜め追跡してしまいます。車が向かった先には・・・・
 いい展開です。殺人事件なのですが警察は自殺と思い込んでいます。犯人は捕まりません。闇がすべてを優しく包んでくれます。
 
◆ダイイング・メッセージ
 山村美紗が得意なダイイングメッセージがタイトルの作品です。田舎から出てきた姉が最近ふさぎ込んでいるようなので義理の兄に頼まれて訪ねて、少し顔が青ざめていたのが気にはなった妹の真沙子がその死を知ったのは半月後でした。東京郊外のまだ農地が広がる雑木林の仲で撲殺死体で発見されたのです。妹には姉がなぜそんな人里離れたところへ一人で行ったのかが分かりません。身元の分かるものはすべて持ち去られていましたがダイイングメッセージの紙切れがブラジャーの中から発見されます。「グレーの服、30すぎ」とだけ殴り書きされています。これが意味するものは男なのか女なのか不明です。
 姉の遺品を整理していると派手な衣服やスポーツシューズ、それにラケットなどが出てきます。姉の夫は何も妻の事を知りません。スポーツクラブで出会った仲のいい男が浮上します。と、なんだか意味ありげですが事件は別の角度に進展していきます。姉の夫の不倫などが絡み意外な展開、意外な犯人とストーリーは二転三転していきます。犯罪者の心理を巧く突いた感服の一編です。

 

◆燃えがらの証
 テレビ局に勤める滝子は人形作家の篠沢に寄り添う和服の似合う人妻に気を取られます。滝子は芹沢とベットをともにする間柄ですからきがきではありません。しかし、その女が殺されます。女の名前は菊野佳江、S電鉄常務の妻でした。夫婦仲は円満だったということで容疑者として篠沢が浮かび上がります。滝子は行方をくらます愛人の篠沢をかばうべく情報を集めます。そして、菊野の娘の死にかかわる事実を突き止め菊野に事の真相を迫ります。これで篠沢の無実は証明されると・・・しかし、事は思うように運びません。それどころか状況はますます悪い方向に進みます。疲れ切った篠沢から電話が入ります。彼は死ぬ気です。裏切られても男を忘れられない滝子は、マンションを飛び出し闇の中を彼の姿を追って走り出します。
 いびつな三角関係ですが、そのどれもに愛にひたむきな情念が感じられ割り切れない気持ちです。これは、殺人なのでしょうか、自殺なのでしょうか。応えは読み手の心の中にあります。

 

◆回転扉がうごく
 これは殺人です。完全な三角関係なのですが、自ら手を下さないのでややこしくなります。殺された女は男の元恋人。女はパトロンに囲われてはいましたが憎んでいました。薄れいく意識の中で首謀者たちをみんな道連れにして行きます。女の情念、怨念というものが行間からひしひしと読取れる一編です。果たして警察は犯人を逮捕出来るのでしょうか。

 

◆死刑台のロープウェイ
 このタイトル小説はテレビドラマ化されました。あらすじはそちらに書いてあるのでここでは書きませんが、最後のどんでん返しが見事な短編小説です。自分の夫の無実を証明しようとするけなげな妻がその泥沼から自らが抜け出せなくなってしまう不条理が物悲しいです。男と女の関係は複雑で、なぜにこんな浮気性の男を助けなければならないのか、そのために自分が窮地に陥ってしまうのが分かりません。
 一言で言えば薮蛇な物語なのですか、知らない方が良かった事をあぶり出してしまいます。夏樹静子の一ひねりあるストーリーには感服します。

 

 短編ながら読み応えずっしりの作品で疲れます。5編の中で犯人が捕まるのはダイイング・メッセージだけで、死刑台のエレベーターにしても最後までは描かれていません。小生としては彼女が自殺をして結末を迎える気がするのですが、その裁量は読者に委ねられています・・・