
東京郊外で若手カメラマンが誘拐されるという事件が発生。しかし犯人からの要求がないまま、三日後に彼は無事発見される。十津川警部が被害者の身元を調べると、二歳半のときに八王子の河原で発見され、その後養護施設で育てられたことがわかった。それ以前の彼の記憶は「SL、桜、二人の男女」という曖昧なものだった。十津川はこの三つが事件に関わる重要な鍵と睨み、捜査を開始する。そんな中、静岡・大井川鉄道で第二の事件が…。犯人の目的は一体何なのか?前代未聞の事件に、十津川の推理が冴え渡る!傑作トラベル・ミステリー。---データベース---
十津川警部がタイトルの前面に出ている角川書店のシリーズの一冊です。ところが、主人公永井俊が誘拐された冒頭こそ登場しますが、途中第2章から第4章までの1/3ほどは全く登場しません。替わってストーリーを引っ張るのは中央テレビのドキュメンタリーを追う3人組です。
彼らは永井に着いて桜前線の北上を追いながら彼の写真撮影に同行します。
主人公もそうなら読み手のこちらも漠然とした記憶の中をただ21年前の記憶を求めて日本各地の桜の風景を追うのみです。九州はスイッチパックのある薩摩線の旅から始まり、湯布院温泉のある久大本線、本州に入っては津和野を通る山口線へと進みます。ここで、誰かに監視されている事に気がつきます。しかし、それは、偽造されたナンバーの不振な車でした。
そして、南大阪線から吉野桜で有名な吉野線へ入り更にロープウェイで吉野山へのぼり、ここでまた犯人たちに夜のうちにクロロフォルムをかがされ尋問を受けます。どうも不可解な事件が続きますが、まだこの時点では十津川警部の再登場はありません。テレビ局のスタッフが警察に通報しないでし世間を独占したがっているからです。
しかし、大井川鉄道に入り家山駅で狙撃事件が発生して永井が撃たれます。事、ここにいたっては刑事事件になりいよいよ十津川警部の再登場です。この家山駅で21年前の記憶が鮮明になったということで十津川警部と亀さんは誘拐があったという仮説で21年前の事件を調べ始めます。
並行して、ドキュメンタリーを撮っていた中央テレビはゴールデンタイムに放送し、好評を得ます。しかし、狙撃されて刑事事件になったこの永井俊のストーリーが番組として成立した過程は不思議でなりません。そもそも、なぜこんな番組が必要であったのか読み進んでいくうちに疑問になります。
遂には21年前の誘拐事件が浮かんできます。そして、それに絡む茶商一家の火事事件までもが発覚します。この事件は既に時効になっていますから、それでは事件を追うことはできません。そこで永井俊の誘拐と殺人未遂に絞っての捜査を進める事になります。
犯人が割れてからのストーリーはちょっと単調で逃亡の可能性もない人物なので罠を仕掛ける事になりますが、そもそもこの罠も何のためにという程度の事です。
そもそも、この物語の動機が不鮮明です。なせ、21年前のこの事件を犯人は掘り起こすのかその動機が理解出来ません。放っておいても、発覚しそうもない事象なのに犯人はわざわざ誘拐して過去の記憶を探ろうとします。いまさら、なんのためにという気がします。最初の誘拐事件は2月の20日に発生します。しいて、根拠をさがすと、1月15日に発行された永井本人が雑誌に発表したエッセイということも言えます。しかし、犯人の口からはそういう事実は語られません。誘拐の根拠は警察のため、事件を解決するためということですが、犯人たちがそんな事で協力している事実はありません。
被害者の過去も暴かれますがそんな事は事件には関係ないといった記述です。2歳半の記憶がこの小説のテーマですが、その記憶が曖昧のままな様にこの小説自体も何かすっきりしない事件です。
それでも、事件の舞台となった大井川鉄道を作者西村京太郎が旅したDVDが発売されています。
http://www.allout.co.jp/vpdvd3.htm
興味のある人は覗いてみてはいかがでしょうか。サンプル画像もあります。

http://www.allout.co.jp/vpdvd3.htm
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