出版/光文社 光文社文庫

恋多き妻に捨てられた石川泰生は、魅力的で聡明な美女・三浦希美子と恋に落ちる。ところが、彼女を部屋に招き、到着を待ちわびていたところへ、別れた妻が突然舞い戻ってきた……。三日後、元妻は滝壺から遺体で発見される! 容疑は石川に向けられたが、赤かぶ検事は、事件の背後に潜む意外な人物の陰謀に気づく。大好評「赤かぶ検事シリーズ」の最新作!---データベース---
和久峻三物は初めての挑戦です。テレビではフランキー堺の演ずる「赤かぶ検事」物を親しんでいましたし、お馴染みの名古屋弁も地元故全く違和感がないのですんなりと溶け込むことができました。
それにしても、うだつの上がらない石川泰生が妻に愛想をつかれながら魅力的な三浦希美子を惹き付けるくだりは読んでいてうらやましい限りです。その二人の出会いから恋に落ちる様子が延々と語られます。いささか、うんざりしかけた頃にようやく殺人事件の発生です。初めて恋仲の希美子を自宅に招こうとした日に彼の元妻が押し掛けてきて、口論となり追返しますがその彼女の死体が発見されるのです。
当然容疑者として泰生が取り調べられます。この本から読み始めたので仔細は分かりませんでしたが担当したのは福岡県警の捜査一課に勤務していた「玉木和正」という巡査部長です。
かれは強引な手法を使って石川泰生を犯人に仕立て上げていきます。
かれは強引な手法を使って石川泰生を犯人に仕立て上げていきます。
こうして、石川泰生は誤認逮捕で留置場へ入れられてしまいます。読者としてはなぜ警察がこうまでして石川泰生を逮捕するのか分かりません。イライラしてきます。
それが赤かぶ検事こと、柊茂の疑惑を生むことに繋がっていきます。案の定、彼は途中でこの捜査を降ろされてしまいます。この事件の裏にはどうも玉木巡査部長の過去が絡んでいるようなのです。赤かぶ検事の指示で行天燎子警部補と上司の溝口警部が調べ始めます。
こうして、この事件の本当の真相が明らかにされていくのですがそこに立ちはだかるがアリバイです。このアリバイがこの小説のタイトルともなっている「ひまわり時計」です。それは上賀茂にある実験農場のひまわりでした。そこで写したし野心が犯行を不可能にする時計台を写し込んでいたのです。普通に読んでいると何のトリックか分かりませんが、和久氏はアマチュア写真家でもあり、この本にも巻頭に氏が写した写真が3点収録されています。そして、このトリックが゛パソコンソフトの「フォトショップ」を使って巧妙に細工されたものだと見破っていくのです。ここの件はちょっと専門的で解りにくいのですが、フォトショップをかじった事のある人なら納得のいくものです。
赤かぶ検事は和久氏の分身のようなものですから、写真のトリックを暴くのはお手のものです。こうして真犯人はあぶり出されます。ちょっとがっかりだったのはせっかく釈放された石川泰生があっさりと殺されてしまう件です。これでめでたくハッピイエンドになるストーリィがそういう筋立てで亡くなってしまいます。そして、もうひとつ、真犯人は最後に自殺してしまいます。これには意表をつかれました。もっと、柊検事と対決して丁々発止のやり取りがあると期待していたのに肩すかしを喰いました。
まあ、内部告発を扱う作品としてはこういう無難な結末の方がいいのかもしれませんが、その点だけ読み終わって残念でした。