
ある日、差出人不明の手紙が警視庁の十津川警部のもとに送られてきた。そこには近く行われる京都祇園祭で何らかの騒動を起こす、という内容が―。それは明らかに十津川警部への挑戦状だった。十津川は休暇をとり、亀井刑事と共に京都へ向かう。祇園祭当日、犯人はゲーム感覚で十津川たちを翻弄する。なんと犯人は「くじ改め」の場を利用し、祭の山鉾の一つに爆発物を仕込んだと衝撃の犯行予告を行ったのだ。必死で爆薬が仕掛けられた山鉾を推理する十津川。だがそれは犯人が十津川を窮地に陥れる犯行計画の狼煙でしかなかった。いったい犯人の動機は?そして十津川に対する異常なまでの怨恨は何が原因なのか?全国の祭りを舞台にして十津川が大活躍する「十津川警部・祭りシリーズ」第3弾ここに登場。---データベース---
十津川警部の「祭りシリーズ」2006年現在下記のものがあります。
1.祭りの果て、郡上八幡
2.風の殺意・おわら風の盆
3.祭りジャック・京都祇園祭
4.鎌倉・流鏑馬神事の殺人
5.青森ねぶた殺人事件
6.十津川警部、海峡をわたる―春香伝物語
1.祭りの果て、郡上八幡
2.風の殺意・おわら風の盆
3.祭りジャック・京都祇園祭
4.鎌倉・流鏑馬神事の殺人
5.青森ねぶた殺人事件
6.十津川警部、海峡をわたる―春香伝物語
この作品はシリーズの中でもかなり異色です。まず、捜査一課にしては殺人事件が登場しません。まあ、最後につじつま合わせのように友人の自殺がありますが・・・ところがこの事件は他殺とは京都府警は見ませんでした。そして、ラストでジェンダーアイデンティティにおける性分化異常症(いわゆる性同一性障害)の問題が根底に潜んでいる事が明らかにされます。西村氏がこのことに関するの問題意識をテーマにしている分、他の作品と比較して社会的問題意義が高いように思います。
そして、タイトル通りの「祭りジャック」が起こります。異色の2つ目は事件が起こる前に行動を起こしている事です。そして、十津川班としてではなく亀井刑事と二人での行動で他の刑事は登場しません。最も舞台が京都ですから京都府警の刑事は登場します。ここでは、橋本警部が登場します。「恋と裏切りの嵯峨野」で登場した石野警部ではないですね。
前半はこの祇園祭の山鉾巡航で起こる事件、そして、次にこの祭りの長刀鉾の稚児を務めた子供が誘拐されます。犯人は十津川警部とのゲームを楽しんでいきます。ですから、爆破も誘拐も殺人を伴いません。こんなところもこの事件の特異なところです。
その過程で十津川警部は犯人に身代金の受け渡しの場所へ女装してくるように指示します。かなり妙な犯人の要求ですがこれがこの事件の大きな伏線になっています。しかし、犯人が最後まで登場しない設定は見事です。


また、この作品の特徴は十津川警部の妻の直子も重要な設定で登場します。そして、犯人の罠で人質として捕まってしまうのです。その件がちょっと解せません。勘のいい直子があっさり犯人の手に落ちてしまうのですから。せっかく夫と京都に来ているのですから連絡は取り合えるはずなのに・・・・
祇園祭が取り上げられるのは「京都 恋と裏切りの嵯峨野」に次いで2回目です。こちらは、祭りの宵山がの夜の7月16日のから終わって8月の上旬までの出来事を描いています。かなり京都の町を動き回るのでけっこう詳しい描写はあるし、祭りについてのうんちくも書かれているので下手なガイドブックより勉強にもなります。
挿絵が何枚か描かれていますが、これよりも京都の関連地図が巻末にでも付いているとより、興味深くこのストーリーを追うことができるのではと感じました。