朝比奈のロマンティック | geezenstacの森

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朝比奈のロマンティック
曲目
ブルックナー/交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(ハース版)
指揮/朝比奈 隆
演奏/大阪フィルハーモニー交響楽団
録音 1993/02/21,22,23,25
   大阪フィルハーモニック・ホール,大阪、サントリーホール,東京、ソニックシティ,大宮
EP: 平井宏
P: 江崎友淑
E: 小島幸雄,高瀬裕美

 

CANYON PCCL-00191
 
イメージ 1

 

 このCDはオークションで落札しましたものです。新品未開封というもので確か100円とかで落札した記憶があります。その頃はけっこういろいろオークションで落としていたので、知らないうちに埋もれてしまい、この一文を書くまで棚に眠っていました。

 

 開封すると中には名刺大のメッセージカードが入っていてびっくりしました。
With the Compliments of Mayor of Osaka (大阪市長の賛辞を込めて)
とでも訳すのでしょうか。そして、通常のリーフレットの他に朝比奈隆と大阪フィルハーモニー交響楽団を紹介した英文と日本語で書いたペラが入っていました。多分このCD全世界に向けて発売されたのでしょうね。録音にも力が入っていたとみえて通常のCDの「DDD」仕様と違い「DDDDD」とDが5つも付いています。何でもすべてデジタル処理をして録音したということでD5のマークを入れたようです。ジャケットの右下にそのマークが入っています。

 

 しかし、ちょっと疑問なのは録音会場が3カ所にもわたっているということです。大阪フィルハーモニック・ホール、サントリーホール、大宮ソニックシティなんですが、ホール・トーンの違う場所での収録ということで果たしてオーケストラのバランスは問題なかったのでしょうかね。いろいろ調べてみると、どうもサントリーホールでの録音を中心にミックスダウンをしているようですが明らかに1-3楽章と第4楽章はトーンが違います。第1楽章冒頭のホルンの響きと第4楽章のホルンの響きが全く違って聴こえます。はっきり言って第1楽章のホルンは安定していません。また、ティンパニの音も第4楽章の方は音がびしっと決まっていますが、第1楽章ではややぼやけて聴こえます。

 

 のちに、このミックスを止め、サントリーホールでの録音のみを使用したCDが別途PCCL-00263として発売されています。指揮者の登場から楽章間のインターバルや楽譜をめくる音、そして演奏後の拍手までが収録されているようでライブ感はこちらの方が上です。当日会場で実演を聴いた人はこちらの方がいいでしょうね。

 

 しかし、テイクでみるとこの4楽章の完成度はミックスダウンの当盤の方が生き生きとしているので痛し痒しです。

 

 この曲は第1楽章でイメージが決まります。そして冒頭のホルンの奏する旋律がその重要な役目を果たします。そういう意味ではのっけから失望です。もっと別のテイクがあったのではと思いますし、これがベストなら大阪フィルの限界なのかと思えなくもあります。オケで一番音が不安定なのはこのホルンで演奏会に聴きにいってもいつもハラハラするのはホルンの旋律です。昔はN響もここでこけていましたから。4楽章のホルンが良いのでよけい引っかかりました。後は快調です。いつもはノヴアーク版で聴いていますのでやや違和感はありますが、ブルックナーの音楽に違いはありませんから。

 

 第2楽章も分厚い骨太の演奏ですが、神への畏服を表現するという意味ではやや音楽が平坦で単調なのが残念です。

 

 第3楽章は冒頭のホルンから活気があり一気に爆発するオーケストラのエネルギーはすざましい物があります。ただ、録音では弦がやや金属質な響きに変わってしまっているのが残念です。この第3楽章では音のつなぎがはっきり分かります。トリオの部分は別テイクで繋がれています。ヘッドフォンで聴くと音のイメージが変わるのが分かります。この間合いもやや不自然です。

 

 さて、第4楽章はがらっと雰囲気が変わります。突然、音楽に活気が出て来てオケが生き生きとしてきます。全奏でのティンパニの強烈な一打が俄然光ります。次々と新しい主題が現れる巨大なこの楽章にあって朝比奈の統率力は素晴らしいものがあります。クライマックスに向かっての巨大な音のうねりを壮大なオルガンサウンドがホールを埋め尽くす様が見て取れます。まさにこの楽章は圧巻です。しかし。せっかくのライブは終演後の拍手がいっさいカットされているので変な違和感を覚えるのも確かです。

 

 演奏はライブ故の傷がいくつもありますが、朝比奈の息づかいや楽譜をめくる音はヘッドフォンで聴くとよく感じられます。小生は朝比奈隆のこてこてのファンでもなんでもないので聴いたままの感想を書くと、ライブとしての出来はいい方ですが市販の数多の「ロマンティック」と比較するとベスト盤とするにはやや気が引けます。

 

 

 これは原体験が作用するようで、最初に聴いたのがワルターの人間味溢れる謙虚さを感じとれたし、つぎに出会ったベーム、ウィーンフィルの独自の柔らかくも壮麗な演奏はこの曲の魅力を最大限に教えてくれたような気がします。

 

 そういう中での位置づけとなると朝比奈のロマンティックはまた、異質なものを感じます。これはオーケストラとの組み合わせにもよると思いますが、よく言われる荒削りの無骨さを感じますし、ライブとしての音の不安定さも気になるところです。このシリーズ、第2番なんかはスタジオ録音しているのだから是非ともそういう形の録音を残してもらいたかったし、欲を言えば天下のウィーン・フィルとの録音が叶っていたならば彼の世界的評価もまた違ったものになっていたのではないでしょうか。