【症例】60代♂。170cm70kg。胃体部Caに対してラパロ噴切、5hrs予定。
【合併症】HTでARB等3剤内服、30本40年の喫煙歴、DMでA1c7.0、インスリンをHL6-6-6と寝る前ランタス20単位。腎症ありCre1.1、eGFRで50。
【麻酔計画】epi、挿管、AラインFrotraq、CVシングル。結構体格がいいので輸液をいつもの感じで入れて足りなくならないように。でも再建がけっこうややこしいのであまり入れすぎて腸管がむくものもどうかと思うのでなるべく控えたい。喫煙歴もあり酸素化のことを考えてもあまり薄いのは入れたくはない。
【麻酔の実際】T8/9からのepi。paramediaで5.5cm。
導入前に十分に酸素化し、挿管前に意識消失を確認後すかさずAラインをとり、固定してもらいながらマスク換気して挿管。これが一番時間が短縮できる。
CV挿入後手術開始。
1.5%XyEをtotal 8ml入れたらラパロ開始後もバイタル変動なし。レミフェンタニルは0.05γ。
Hbは11ある。多少出血するだろうから薄めようということで導入途中からHESを1本落とす。
epiでも血圧下がるかなと思いつつ全開気味で入れたがエフェドリン数回使用で落ち着いた。
しかしそのうち食道付近の操作で痛がる。
レミフェンタニルone shotとepiに1%Xyとフェンタニル50μgを注入したが抑えきれず、レミフェンタニル0.1γにup。
フェンタニルは手術開始前に75μg、手術開始後1時間後に75μgivとepiに50μgでtotal200μg。
高齢者のLDGなら0.05γでいけることもあるけど、噴門部や肝臓は0.1γ必要なことが多い。
SVVとバイタルを見ながら輸液を調節、血圧は徐々に低下傾向でありCIも低下してきたのでDOB1γで開始。
SVVはずっとひと桁だしフェンタニル使っていないわりに末梢も温かい。
手術は再建に時間がかかり結局6hrsかかる。手術後用事があり気持ちはあせっていた。
すぐ醒めるようにと思い、最後もフェンタニルを追加せず。
輸液は胃切除にしてはずいぶん入れなかった感じになってしまい、ope6hrs70kg麻酔7hrsでin3000のみ。
出血200、Hrはフロセミド5mg×2使用で600。
さて抜管抜管、と思い、早々にフェンタニルもレミフェンタニルも〆てもらったら、
抜管前からシバリング出現。
自発呼吸は十分すぎるほどだったので抜管したがシバリングおさまらず、
ガスでも酸素化は良くないがとりあえずICUへ移動。
ICUでもひどいシバリングでインスピロン6LでSpO290%台前半、PaO250台で10Lへup。
同時にペチジン1/2A ivし残りをim、ドロペリドール1mgをivし保温してもらう。
徐々に改善してきた感じでSpO2も99%へ上昇。
下腹部痛の訴えあり(エピが下まで効いていないか?)フルルビプロフェンdiv。
これが体温調節性シバリングにも効いてくれたりするといいなと思いながら・・・

翌日には酸素は4LまでdownしSpO2 99%。
採血ではCK5000(!)、Creも1→1.5へ上昇。
シバリングの身体に与えるダメージの大きさを痛感。

【反省点】
後になって振り返ると、どう考えても
①フェンタニルの使用量が少なかった(70kgtotal7hrsで200μgのみ)
②輸液も少なかった(total3000、4ml/kg/h)
もう一回やりなおせるとしたら・・・
①フェンタニルは最初に200μgくらいいれて、100μgを術中適当なタイミングで入れ、閉創開始時に50μgいれると良かったか。輸液絞ったとしてもフェンタニルは十分に使うべきだった!
長い手術でシバリングしそうだな~、というときは、フェンタニルとレミフェンタニルを〆ないで最後までとっておき、レミフェンタニルを多めに残したまま醒ましていき、レミフェンタニルが結構残っているのに醒めたり自発が出てきたりシバリングしたりしてきたら、その時点でフェンタニルやペチジンを入れたりしたほうが、覚醒に時間がかかってもそのほうが良かった。
②輸液も最初に1000-1500くらい、この体重なら1500くらいドカンと入れてよかった。SVVがひと桁だから入れなくていいかなという錯覚に陥っていた。尿量がほとんどとれず血圧も低下傾向にあったことを考えると、術中どんどんhypoになっていったんだろう胃の手術はサードスペースにどうしても逃げるし、心臓悪くないのでrefillingにも耐えられるはず。利尿ももう少しついたかもしれない。1500入れたくらいじゃ腸管が水っぽくて手術しづらいとか縫合不全が起こるとかいうことにはならないはず。

【考えごと】
hypoだったとしたらなんでSVVに反映されなかったのか・・・
この人は術前に心エコーはされていなかったが、脈圧がとても大きかった。収縮期-拡張期で100近く。
こっそりARがあったりして、SVVできちんと評価できていなかったのかもしれない。

【明日のために】
ラパロでエピが効いていてもしっかり使おうフェンタニル。
手術が長引いた時には、フェンタニルとレミフェンタニルを〆るのは最後で。
手術が長引いたら、抜管も時間をかけてゆっくり丁寧に。
SVVがひと桁だろうが入れるべき時には入れよう。
SVVを盲信すると痛い目に遭う。Afは見れば分かるが、隠れARがある可能性も。
【症例】50代♂。HCCの切除。5hr予定。170cm65kg。
【合併症】特になし。肝機能ほぼ正常。
【麻酔計画】CVはダブル(カテコラミン+PGE1)。あとはいつも通り。
【麻酔の実際】T9/10からepi。
ラパロだとT8/9にするが開腹だと臍からの横切開のことがあるのでやや下めの9/10から。
2%Xy2ml+1.5%XyE1mlでtestして左右とも冷感消失していることを確認。
フェンタニル50μg+レミフェンタニル0.5ml早送り+ロクロニウムpriming dose、TCI3μg/mlで開始しすぐに入眠を確認、挿管。
右内頚からCV挿入、Aラインfrotraq、胃管挿入。PGE1を0.005γ(肝血流↑、腎血流↑)、ウリナスタチン20万単位をiv。レミフェンタニルは0.1γで固定。
SVVはひと桁、CVPは4-5。術中はこれらと尿量をみながら血圧・体液管理をしたいところ。
あまり上げすぎると出血が増えるし、下げすぎると肝血流が減るし、どれくらいにしたらいいか悩ましいところ。
肝臓を脱転した時にBP下あり、エフェドリンと輸液早送りで対応。これはしょうがないか・・・と思いながらDOB1γで開始。血圧130台まで上昇あり0.5γまで減少、なくてもいいかと思いoff。
次にプリングルがかかるとBPやや↑、輸液はしぼったつもりで10ml/kg/hでin/out合計で5ml/kg/hくらいで経過。SVVはずっとひと桁をキープしている。あまり入れなくていいんだな。
プリングルをデクランプすると血圧は下がる。これはhypoということなのか?デクランプしても血圧が下がらないくらいまで入れた方がいいんだろうか。でも今まで困ったことはないし・・・
あとプリングル繰り返しているとレートが上がってくる。これはなんなんだろうか?SVVもひと桁だしhypoではないと考え術後の頻脈性不整脈の予防に効果があると考えられているランジオロールを10mg/hで開始。でもあんまり効いていないよう。
術野をずっと見ていても術者がうまいのか手術器具の進歩によるものかほとんど出血していない。
呼吸器設定をTV↓PEEPoffとしてCVPは3-4くらいまで下げる。
プリングル→内因性カテコラミン↑→BS↑してきたのでインスリンを少々使う。プリングルを終了するとそれ以上上がらないのでもともとDM等がなければ退室時にはoffできる。
まだ50代と若く、元々Hbは15もあり輸血するほど出血しなかったので、アルブミンだけ2本入れる。
手術4h麻酔5.5h出血400尿量1000in2200、+800のバランス。
開腹手術にしては少ない気もするが肝臓ならこんなものだろうか。
閉創開始時にフェンタニル50μg、TCIでPropもoff。sevoも切っていって手術終了3分後に抜管、シバリングもなく退室。

【明日のために】
合併症のない人の肝部切なら、ボリュームも血圧もそれほど制限なくできそう。
【症例】70代男性。胃癌と肝細胞癌に対して腹腔鏡下切除術予定(術式は術中所見で)。3-4hrs。
【合併症】数十年前からHBVの慢性肝炎、現在は肝硬変となりICG20%台、Child-PughB、Liver damageB。汎血球減少、PT延長あり。出血時間の延長はなく出血症状もない。腎機能障害ありeGFRで30台。
【麻酔計画】挿管、Epi、AラインFrotraq、CVトリプル(①カテコラミン②PGE1+ランジオロールやインスリン②hNAP)、末梢もう一本。PCは術中使えるように準備。前日にFFP4U輸血。
術式次第(胃は部切ではなく系統的切除、肝もRFAではなく肝部切)では出血が増える可能性もあるので多めに三活をつけておきカテコラミン表も用意。
肝硬変がありPropが残る可能性があるので、導入量、維持量を少なめに、手術終了のかなり前に切ってSevoで覚醒する感じで。フェンタニルもどれだけ残るかわからないので必要最小限で。
PGE1は肝、腎の血流保持の目的で、hANPは腎保護の目的で最初から使用。DOBもあった方がいいんだろうなあ。血管収縮薬は使いたくないので使わなくても済みますように・・・一応フェニレフリンもすぐ吸ってもらえるようにしておく。

【実際】
T8/9からのepi。
1.5%Xyl3mlで伸ばして0.75%ロピバカイン5ml/hで開始しながらフェンタニル25μg、TCI2.5、レミフェンタニル0.15γで開始してAラインの準備、入眠を確認後マスク換気の前にAラインをささっととる。
ラインを固定してもらっている間に筋弛緩を足して挿管。
チューブを固定してもらっている間にエコーで内頸静脈を確認。ゆっくり導入したからか血圧は案外下がらない。肩枕を入れCVトリプルを挿入。CVを入れ終わったら1.5%Xylを4ml追加、PGE10.005γ(術中DOBでCI↑しつつPGE1は0.01γまで↑)、hANP0.025γで開始したところで手術開始。肝血流と腎血流のことを考えて血圧はやや高めに維持したいところ、CIは2点台保たれていたものの80-90前後をフラフラしていたので、DOB1γで開始。2γまで上げてみたが、あまり反応はしない印象だった。肝硬変の人はカテコラミン感受性が低下しているからなのか。NAdを使うほどでもなかった。
レミフェンタニルは0.05γでいけるかなと思ったがやはりラパロは侵襲が大きく0.1γまで使用。
手術終了1時間前くらいからTCIoffとしSevoを少し上げた。こうしておくと術中のSevoの蓄積を少なくしPropの影響も無視できる。
手術は胃の部切、肝RFAで4hrsで終了、麻酔時間5hrs。出血も少なかった。
手術終了後すぐに開眼し覚醒。外科Drは覚醒するか心配していたが、肝硬変で覚醒遅延の原因となりうるフェンタニルとプロポフォールをこれしか使ってなかったらさすがに醒める(麻酔のうまいへたではなく)。手術終了5分後には抜管し退室。
バランスは輸液1300、輸血はRCC2E、FFP6E、PC20Eでtotal+2000。
肝臓は実質臓器だがこれくらいは入れてもいいんじゃないか。心不全はないようであるし。
FFPを入れたらHb10→8まで薄まった。臓器血流と酸素化のことを考えるとこの状態でHb8は足りない気がする、でも術後尿流出により濃縮され結局不要となるかも・・・と迷いながら結局入れた。けれど後になってみると不要だったかもしれない。
麻薬はフェンタニル25μg、レミフェンタニル1.4mgで済んだ。
入室時は末梢ががちがちに締まっていたが、積極的に加温&RFAの内部発熱により体温は上昇し術後シバリングもなかった。
念のためDOB1γ残して退室したが、帰室後血圧十分保たれており徐々に減量。

【明日のために】
・肝硬変で気をつけたい、フェンタニルとProp。逆に、これさえ使わなければ覚醒は普通の人と同じ。
・輸血は早めに、と言われているが、実質臓器には逃げ場がない。
先輩Drが前にいたLMA好きの先生がいる某病院の麻酔法について・・・

γネイル
当院:epi+spinal、Aライン、アンダーマスク、インフューザー2ml/h
某病院:全麻LMA(自発呼吸を残して)、手術開始前にボルタレンsp
 導入が早く、γネイル自体術後も痛くないとのことらしい。

appe、LAC
当院:挿管epiAラインCV、胃管
某病院:LMA(Proseal+胃管)、epiなし
 LACくらいでは、術後痛くないらしい。Prosealに予めゼリーを塗った胃管を先端が隠れるくらいまで突っ込んでおき、それから入れる

腹臥位手術(内容にもよりますが)
当院:挿管
某病院;LMA(腹臥位の体位をとってから導入とか?LMAずれたらどうするんだろう)
Lancetでこういう記事を見つけました。
術前の貧血補正は、大事なんですね。

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)61381-0/abstract

Preoperative anaemia and postoperative outcomes in non-cardiac surgery: a retrospective cohort study
非心臓手術患者の術前貧血、術後死亡および合併症リスク上昇と関連する:後ろ向きコホート研究


Summary

Background
Preoperative anaemia is associated with adverse outcomes after cardiac surgery but outcomes after non-cardiac surgery are not well established. We aimed to assess the effect of preoperative anaemia on 30-day postoperative morbidity and mortality in patients undergoing major non-cardiac surgery.
術前貧血は心臓手術後の予後を改善するかどうかは不明だが、非心臓手術では十分に検討されていない。我々は非心臓手術における術前貧血の、術後30日間の死亡率と罹患率(合併症の?)への影響を調査した。

Methods
We analysed data for patients undergoing major non-cardiac surgery in 2008 from The American College of Surgeons' National Surgical Quality Improvement Program database (a prospective validated outcomes registry from 211 hospitals worldwide in 2008). We obtained anonymised data for 30-day mortality and morbidity (cardiac, respiratory, CNS, urinary tract, wound, sepsis, and venous thromboembolism outcomes), demographics, and preoperative and perioperative risk factors. We used multivariate logistic regression to assess the adjusted and modified (nine predefined risk factor subgroups) effect of anaemia, which was defined as mild (haematocrit concentration >29—<39% in men and >29—<36% in women) or moderate-to-severe (≤29% in men and women) on postoperative outcomes.
要は、いろんな病院、いろんな手術の患者のデータを集めましたよということです。
軽度の貧血は男でHt 29-39、女で29-36、中等度から重度は男でも女でも29以下ということでした。

Findings
We obtained data for 227 425 patients, of whom 69 229 (30·44%) had preoperative anaemia. After adjustment, postoperative mortality at 30 days was higher in patients with anaemia than in those without anaemia (odds ratio [OR] 1·42, 95% CI 1·31—1·54); this difference was consistent in mild anaemia (1·41, 1·30—1·53) and moderate-to-severe anaemia (1·44, 1·29—1·60). Composite postoperative morbidity at 30 days was also higher in patients with anaemia than in those without anaemia (adjusted OR 1·35, 1·30—1·40), again consistent in patients with mild anaemia (1·31, 1·26—1·36) and moderate-to-severe anaemia (1·56, 1·47—1·66). When compared with patients without anaemia or a defined risk factor, patients with anaemia and most risk factors had a higher adjusted OR for 30-day mortality and morbidity than did patients with either anaemia or the risk factor alone.
22万人のうち7万人、30%が貧血がありました。
貧血が軽度でも、中等度から重度でも、30日死亡率はORで約1.4、合併症の罹患率は1.3(軽度)-1.5(中等度-重度)でした。貧血単独よりも、貧血+他の術前合併症がある人の方が予後は悪かったようです。

【考えたこと】
・心臓手術では術前貧血が必ずしも予後を悪化させない、ということのようだけど、なぜなんだろうか?術中の血の出入りが激しいから?
・男でHt<39というのはかなり軽度の貧血。それでも予後が悪くなるというのはちょっと驚きだった。
・術前の貧血がよくない、ということはわかったが、それを術前輸血で補正したら予後がよくなるかどうかは、この論文からはわからない。

【明日のために】
・たとえ軽度の貧血でも、術前にしっかりと補正することは、患者さんのためになるかもしれない。特に、他の合併症がある人の場合には。