さて、李書文系の八極拳と言えば、その技術の中心は冲捶。なにせ有名な猛虎硬爬山は、冲捶からの肘打ちの連携。
冲捶ができなければ猛虎硬爬山もできません。
だから冲捶の練法こそ、李書文系で一番大切なのですが、なぜか今日では冲捶の威力を増す練法が伝えられなくなっています。
最大のナゾでタブーになっている冲捶の練法に今回は迫ります。
子供の頃の拳児がじいちゃんに冲捶を習うのは意外に遅く、じいちゃんが中国に旅発つまぎわで初めて練習を開始します。
「八極小架は基本型。例えるなら砲台。これから学ぶのは砲弾だ。」と言い、なんとじいちゃんは武壇系の冲捶を指導。
「思いっきり飛び込んで腰を鋭く回転させて拳を突き出す。」とわかりやすく指導。
この漫画で冲捶の方法がイラストで表現されていますが、これは正確ですね。
おそらく松田先生が原稿用紙にイラストで表現したものを、漫画家がトレースしたからでしょう。
イラストでは、左手を前に出した時、右足つま先が上を向き、軸足のカカトは浮いています。この時、上体は正面を向いたまま。
ここから半身になって馬歩になり、左手を引いて右の縦拳を突く。
これはほぼ冲捶の第1段階。今では伝えられなくなった練法がさりげなくイラストで表現されています。
多くの人は見逃しがちですが、おそらくこのページが、拳児で表現された最大秘伝かもしれません。
拳児が初めてじいちゃんに冲捶を習うシーン
この冲捶の練法がより明確になるのが、拳児が台湾に行き、蘇崑崙老師と大暴れし、留置所に入れられたシーン。
拳児のパンチで相手は一撃で倒れないのに、なぜ蘇老師のパンチは一打必倒なのか?を疑問に思った拳児に、蘇老師が威力をだす冲捶の練法を指導します。
冲捶を行う拳児に「もっと大きく飛びだせ!」と指導し、自らロングの距離を一歩で詰める冲捶を身体で示します。
威力を出す為の冲捶第1段階を指導する蘇老師。でも左ページ上の分解フォームの最後の形の作画は間違い。
さらに「初歩では全身全霊で、出せる限り最大限の力を打ち出す訓練をする。」と指導。
そう、まさにこれが私が学んだ冲捶の第1段階。松田先生がもっとも大切にしていた練法でした。
松田先生によれば、蘇崑崙老師のモデルの蘇昱彰老師は、ロングの距離からの飛び込みがすさまじく、得意にしていたそうです。
八極拳の冲捶においても、とにかく大きく踏み込む練法を大切にし、また秘密にしていたそうです。
さらに松田先生は冲捶の踏み込みを鋭くする箭疾歩と言う補助練法を蘇老師から学びました。
当時は毎日公園で、一人黙々と箭疾歩を練習していたようです。
私も松田先生の冲捶の踏みこみを黙念師容し、踏み込むフォームをまねしたものです。
当時の松田先生の冲捶。軸足で震脚し、
前足を大きく上げ、爪先は上。突き手と反対の手は前に大きく突き出し、上体は前を向いた姿勢を保つ。この時、軸足のカカトは上がっていますが、爪先は地面に接地。
前足を着地させ、初めて身体を開く。同時に後ろ足は前足に寄ります。活歩なので四六式になっても構いません。
当時の松田先生の踏み込みと突きの迫力は凄まじいものでした。
今回、私も八極拳オンラインクラスの撮影の為、久しぶりに冲捶を行い、自分のフォームをじっくりと見ました。
自分でも、当時の松田先生の動きをかなり正確に再現しているので驚きました。
黙念師容とは、先生の動きを映像として記憶し、それを再現することですが、冲捶は意外に難しいのです。
私も拳功房で冲捶を多くの生徒に指導していますが、この基本が難しく、なかなかできません。とくに他の格闘技経験があると、その身体の記憶が邪魔させるようです。
でも、松田先生が伝えてくれた当時の練法がこのまま失われてしまうのはもったいない。
ですから、秘伝だとか言って隠すよりも、皆さんにもそのポイントを紹介しましょう。
まず第1段階では、腰を落とし、左拳を左耳に。右拳は右腰。右足カカトを軽く浮かして構えます。この時、仙骨を入れ、お尻をまるめ、下腹に息。
ここから左拳を前方に鉄槌を打ち下ろすようにして、右足はその真下に来るように大きく前方に踏み出します。
右拳は腰から正中線に移動し、軸足はカカトが浮きますが、爪先は横にむけません。向けると上体が開いてしまいます。この畜勢が難しいようです。
さて、前足が着地の寸前ですが、ここではまだ左手は前。多くの人がここで身体を開いてしまいます。
実際、松田先生のイラストではなく、漫画家が独自に描いたと思われる蘇崑崙老師のフォームでは、着地前に左手が引かれ、右拳が打ち出されていますが、これは間違い。
空手経験者などはここで引き手を効かし、腰を回そうとする為、漫画の着地寸前の蘇崑崙老師のようなフォームになりがちです。
次は前足が着地した瞬間。じつはここでもまだ身体を開いていません。
身体を開かぬコツは左手で右肩を叩くようにすることです。多くの人がここで身体を開いてしまいますが、じつはここはまだ畜勢。
次の瞬間、私は左手を引き、十字勁を効かせながら身体を初めて開き、口から息を吐いています。後ろ足が寄り、体重移動は続いています。この瞬間が発勁です。
後ろ足がさらに寄り、馬歩になります。これは発勁が終わった姿です。
以上の説明で分かるとおり、発勁は動作の最終段階までタメにタメて行うのが八極拳の発勁のポイントです。
この歩法は遠くに飛びだすだけでなく、畜勢を長く保ち、発勁を最終段階でおこなわせる発勁増強の効果があったのです。
だから蘇崑崙老師が「冲捶で砲弾の打ち出し方を学ぶのだ」と説明していたわけです。
このような打撃の身体操作は他のどの格闘技にも見られません。
だからこそ、李書文系八極拳独自の身体操作を学ぶには最適の練法だったのでしょう。
今、オンラインクラスの指導で改めて当時の様々な練法を見直していますが、当時はわからなかった様々な理に色々と気づきます。
伝統武術の奥深さには本当に驚かされますね。
冲捶をより詳しく学びたい人はこちら
http://budo-station.jp/page-2793/












