劇画「拳児」では、様々な秘伝技が登場し、そのいずれもが正確に表現されています。では、松田先生が全ての秘伝を公開したか、と言えばもちろんそんなことはありません。
最近のマスコミは、報道しない自由を駆使し、大切なことを隠す風潮がありますが、その手法をさりげなく駆使していたのが松田先生。もちろん、一般の人は表現されていないので気づきません。
しかし、松田先生が何を大切にしていたかを知っている弟子達だけにはわかります。
今回はその秘伝を公開しましょう。
「いくら技を覚えてもコンフーが無ければ一切は空なり」「千招を知る者を怖れず。一招に習熟する者を怖れよ」
松田先生の好きな言葉です。松田先生は技をたくさん知っている者や、型をカッコ良く演じる人を嫌っていました。
型は美しさではなく、コンフーを磨くもの。仮に人に見せる時があれば、美しさではなく、気迫と迫力を見せ、圧倒しなくてはならない。
だから、「梵音(梵鐘の音)木音(木魚の音)を殺す」という劉雲樵先生の言葉も好んで使っていました。
木魚の小さな音は梵鐘の大きな音でかき消されてしまう。同じように威力のない攻撃は、強烈な破壊力のある一撃の前で一発でやられてしまう、という意味です。まさに武壇八極拳のコンセプトを良く表した言葉です。
そんな松田先生が大切にしていたのは、招術よりも、威力を出す練法でした。
それは、拳児が八極拳を学ぶシーンでも微妙にぼかされていたり、省かれたりしていました。
マニアならもうお分かりでしょう。あれほど有名なのに、拳児では紹介されていない基本技。
それは馬弓捶と小八極です。
小八極については前回も少し述べましたが、拳児は夏休みに太一君と一緒に小八極を学びますが、型は武壇のものではなく、馬家の小架。
じいちゃんは太一君がいたから秘密にしたわけではないでしょうが、松田先生は小八極を秘伝にし、拝師弟子にしか伝えませんでした。
劇画とは言え、小八極の動作を紹介するわけにはいかなかったのでしょう。
拳児が学んだのは馬家の小架。ちなみに黒虎偸心もなぜか左右逆です。
また、馬弓捶は拳児が学び始めの時にじいちゃんに既に学んでいた、という設定なので、練習シーンは出てきても、技術解説シーンは一切でてきません。
「馬弓捶と小八極。これが武壇八極拳の核心であり、宝だ。」と松田先生は常に語っており、弟子にはこの二つを徹底して身につけるように指導していました。
拳児では、馬弓捶の練習シーンは何度か出てきます。初登場は拳児の子供の頃。ただし軸足が良く見えません。
太一君も馬弓捶を学びますがなぜか後ろ足の軸足つま先が前を向いています。
若い時の侠太郎じいちゃんの馬弓捶もカットで登場しますが、やはり後ろ足の軸足つま先が正面。
コミックス表紙の拳児の馬弓捶では後ろ足軸足が描かれていません。
これは作画家のクセか松田先生の意思かはわかりませんが、結果的に拳児では馬弓捶の一番のポイントは一度も描かれていません。
最大のポイントは、後ろ足軸足のつま先が45度になる、という点です。
ちなみに大柳勝先生訳の「八極拳」の劉雲樵先生の馬弓捶だけは、拳児の絵とは異なり、しっかりと後ろ足軸足のつま先は前方45度を向いています。
これがないと纒絲勁が効かず、馬弓捶の練法の意味がありません。
軸足の纒絲勁と左右の手を開く十字勁と呼吸を合わす。まさに発勁の身体操作そのものを学ぶのが馬弓捶。
定歩で行うため、徹底した数稽古が可能であり、初歩の段階では1日に何百、何千と繰り返す。ただひたすら馬弓捶を行うのが初歩の八極拳練習でした。
今回の八極拳オンラインクラスではこれら馬弓捶のチェックポイントを初めて紹介しました。
そのポイントはいくつかありますが、一つだけ大切なポイントを紹介しましょう。
後ろ足軸足のつま先は45度に向ける。ではいつ回すか?というタイミングです。
多くの人が誤解しているのは、陳氏太極拳図説などにある纒絲勁の説明のため、最初に軸足のつま先が内に入り、それがグリグリと下半身から胴体、上体、腕、拳へと伝わっていくイメージがあり、身体自体も下から上へ順に捻っていく、と思われがちです。
しかし、本当に下から順に捻っていったら、ものすごいテレフォンパンチになってしまいます。
陳氏太極拳の纒絲図はあくまでも勁道のイメージであり、動作の順番ではない、ということです。
発勁は纒絲勁も十字勁も呼吸とともに同時に行わなければなりません。
私のフォームを見て下さい。
左の突きを放ち、右弓箭式になったあと、
馬歩になり、沈み、左右の手は正中線。腹に息を吸い、胸は丸めています。両つま先は正面。
ここから、息を吐き、左手を右肩に当て、胸を開きつつ突きを出し始めます。ここで後ろ足軸足のつま先も前に向き始め、
肩が前に突きだされ、胸を張ると同時に後ろ足軸足のつま先が45度前方へ、前足つま先は左を向き、左弓箭式になります。
こうした呼吸と足裏、そして全身の動きを協調させるのが馬弓捶だったのです。
単なる突きの練習というより、身体の中心から勁を出す練習であり、武壇八極拳の全ての動作を貫く身体操作です。
まさに、梵鐘のような一撃を身につける為の練法。
松田先生がなぜ、拳児で詳しく解説しなかったのかも何となくわかる気がします。
書かれていなかった部分にこそ、大切なものがある。
だから秘伝と呼ぶのかもしれませんね。
八極拳の基本を正しく学びたい人はこちら
http://budo-station.jp/page-2793/











