前半、最後は『スラブ行進曲』。これは12月の記事にも書いたので、簡略に書くが、ロシア国歌『神よ皇帝を護り給え』が繰り返しテーマ〈主題〉として現れる曲である。作曲者のチャイコフスキーは生前、
「作風が西欧的過ぎる」
と批判・非難されたが、今や
『ロシアの魂』
と呼ばれている。
それはそれは、『ロシア五人組』のボロディン、キュイ、バラキレフ、リムスキー=コルサコフ、ムソルグスキーに較べたら、チャイコフスキーは西欧文化の影響を受けて音楽も西欧的な側面はあるが、現在の評価、特にロシアのオーケストラかロシア人奏者・指揮者が主に演奏した場合、ロシアの民謡やロシアの旋律が前面にフィーチャーされていると言えるだろう。
スラブ行進曲が終わると20分の休憩となった。僕はトイレ休憩に行き、帰りにスタッフのひとりに声を掛け、
『チャイコフスキーの1〜3番までの交響曲は普段あまり演奏されませんが、クレセント・フィルハーモニーは以前に1番と2番、それにピアノ協奏曲第1番を演りましたね。』
と切り出した。交響曲第1番を演奏したときは南大沢文化会館で、僕は言わなかったが『くるみ割り人形』を演奏した。
『今は三鷹市芸術文化センター・風のホールで演ることが多いですが、最初に行ったのは南大沢でしたよ。』
『いつもありがとうございます。』
『そのときに近くのカフェで楽団員の方から、カリンニコフの話を聞いて実際聴いてみるととても良かったです。その後、中大オケで実演も聴けたし。』
そのワシリー・カリンニコフの交響曲第1番の冒頭がチャイコフスキーの交響曲第3番第2楽章に似ていると感じるのは僕だけなのであろうか?
『カリンニコフ良いですね。』
『はい。』
『今日は、チャイコフスキーの交響曲第3番ポーランドを持って来ました。しかも、ワレリー・ゲルギエフとロンドン交響楽団の演奏のやつを。』
『今、何かと話題の〈ゲルギエフ〉』
『プーチンに近かったお陰でほとんどの演奏活動が駄目になりましたね。』
スタッフの女性が笑うと僕も笑い、更に僕はチャイコフスキーの交響曲1〜3番だけで5種類持っていることを伝えた。
『僕は昨日、ポーランド予習して来ました。』
そんなことを話しているうちに、『再演のチャイム』が鳴り、
『お客様』
との呼びかけに
『ハイ』
と答えて僕は足早に指定席に戻った。当然、第3番ポーランドの実演を聴くのは初めてである。