ロシア軍がウクライナ東部のルハンスク州を占拠した。この21世紀の大戦争に『死者の歌』を捧げたい。
上の写真は、ルドルフ・バルシャイによる初演のCD ジャケット。しかし、以下の説明文は専門的なので、本当に興味がある方は一番下の曲紹介まで読み飛ばして欲しい。
曲の構成
11の楽章から成る。演奏時間は約50分。
第1楽章
「深いところから」 Adagio
バス独唱と弦楽合奏。歌詞はロルカによる(露語訳はインナ・トゥイニャーノヴァ)。主題の冒頭はディエス・イレを模したものとされる。更にこの主題は第10楽章で回想される。
第2楽章
「マラゲーニャ」 Allegretto
ソプラノ独唱とヴァイオリン独奏、カスタネット、弦楽合奏。歌詞はロルカによる(露語訳はアナトリー・ゲレースクル(1934年-2011年))。
第3楽章
「ローレライ」 Allegro molto - Adagio
二重唱と鞭、ベル、ヴァイブラフォン、シロフォン、チェレスタ、弦楽合奏。歌詞はアポリネールによる(露語訳はミハイル・クディノフ―以下同様)。
第4楽章
「自殺者」 Adagio
ソプラノ独唱とチェロ独奏と弦楽合奏。歌詞はアポリネールによる。
第5楽章
「心して」 Allegretto
ソプラノ独唱とトムトム、鞭、シロフォン、弦楽合奏。歌詞はアポリネールによるもので、兵士とその姉妹の近親相姦をテーマとしたもの。
冒頭のシロフォンは12音からなる音列を奏でる。晩年のショスタコーヴィチが時折用いた十二音技法のショスタコーヴィチ流解釈である。古今東西の12音音列の中でもメロディに富んだ音列のひとつと言える。
第6楽章
「マダム、御覧なさい」 Adagio
二重唱とシロフォン、弦楽合奏。歌詞はアポリネールによる。
第7楽章
「ラ・サンテ監獄にて」 Adagio
バス独唱と弦楽合奏。歌詞はアポリネールによる。
第8楽章
「コンスタンチノープルのサルタンへのザポロージェ・コサックの返事」 Allegro
バス独唱と弦楽合奏。歌詞はアポリネールによる。(イリヤ・レーピンの絵画『トルコのスルタンへの手紙を書くザポロージャ・コサック』に取材して書かれた詩からの引用)
第9楽章
「おお、デルウィーク、デルウィーク」 Andante
バス独唱と弦楽合奏。歌詞はキュッヘルベケルによる。
第10楽章
「詩人の死」 Largo
ソプラノ独唱とヴァイブラフォン、弦楽合奏。歌詞はリルケによる(露語訳はタマラ・シルマン―以下同様)。
第11楽章
「結び」 Moderato
二重唱とカスタネット、トムトム、弦楽合奏。歌詞はリルケによるもので、人生の結びである死の賛美をテーマとしている。曲の最後ではヴァイオリンが10パートに分かれ、激しい不協和音を奏でる。これはリゲティやペンデレツキ等の用いたトーン・クラスターを模したものとされる。
楽器編成
独唱
ソプラノ、バス
打楽器
カスタネット、ウッド・ブロック、トムトム、鞭、ベル、ヴァイブラフォン、シロフォン、チェレスタ
弦楽器
ヴァイオリン10、ヴィオラ3、チェロ3、コントラバス2
ルドルフ・バルシャイ指揮
モスクワ室内管弦楽団演奏
ロシア・ウクライナ戦争の折にこそ聴いて欲しい交響曲。歌曲に近い交響曲である。