アシクロビルが奏功した“遷延うつ病”の2例
アシクロビル投薬により劇的寛快した遷延性うつ病性障害を2例経験した。また1例は社会恐怖の軽度の軽症化も同時に起こった。アシクロビルはヘルペスウイルスの中でも単純ヘルペス1型および2型、帯状ヘルペス、Epstein-Barr ウイルスに特異的に効果を示すものとされている。1)
この2症例は共に単純ヘルペス1型陽性、単純ヘルペス2型陰性、帯状ヘルペス陰性、Epstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルスの抗体価は未測定である。
『ほぼ全ての精神障害はヘルペス属である単純ヘルペス1型ウイルスあるいはEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルス感染を基盤とする。そしてそれはそのウイルスの神経感染による神経過敏性(神経興奮)に寄るものと推測される。』との仮説が成り立つことを示唆する貴重な症例と考えここに呈示する。
症例2は自身が頑なに自身が“軽症うつ病”ではなく、慢性疲労症候群の亜型であると主張し、詳細にウイルス抗体価などを調べた。症例2の“うつ病性障害”は、キノコ類の大量摂取により軽症化し、ゾビラックス服薬にて寛快状態にある。
この2症例は“うつ病性障害”がヘルペスウイルス感染症である可能性を示す貴重な症例と思われここに報告する。
【key words】Aciclovir, Depressive disorders, Herpes simplex type-1, Epstein-Barr virus
【症例】
(症例1)
39歳男性。単純ヘルペス1型陽性、単純ヘルペス2型陰性、帯状ヘルペス陰性。Epstein-Barr ウイルスおよびサイトメガロウイルス抗体価は未計測。
既婚。K大学卒。五島列島出身。大学を不安障害により4年間休学、3年間留年、卒業するまで11年要した。パチンコにのめり込み、多額の借金を造る。高利貸しからパチンコの費用を借り、その借金で150万になった。親元は決して富裕ではなく、五島列島の小さな島の役所に父親が勤めており、畑を売ってその高利の借金に充てた。
大学卒業後、高校の数学教師となる。親兄妹親戚には精神疾患者は居ないと言う。本人も精神科通院は1年間のみで入院はしなかった。
大学時代、大学病院で診断され、手術をも勧められたメニエール病が悪化。教壇で生徒指導行うこと困難となり、5年前休職。同時に抑うつ気分を訴え心療内科受診。うつ病性障害と診断され投薬治療を受けていた。
メニエール病およびうつ病性障害の病状は一進一退であり復職は極めて困難な状況にあった。メニエール病およびうつ病性障害に対する様々な治療法を受けてきた。うつ病性障害に対する薬物療法はほぼあらゆる抗うつ薬の服薬を行っており、最近は塩酸トラゾドン 200 mg/日の投薬を受けていた。この症例がメニエール病にアシクロビルが奏功するという情報をインターネットより入手。筆者にアシクロビルの投薬を強く懇願する。
アシクロビル1000~4000 mg/日随時服薬とし、28000 mg(200 mg 錠・140 錠)処方する。症例は『3000 mg/日以下では抑うつ気分が強くなりそうだった。』と後に述懐したが、最初の2日間は3000 mg/日、あとは4000~5000 mg/日服薬し、7日間で処方したアシクロビルを全て服薬してしまう。
『目眩は一日で治癒した。しかし右耳の耳鳴りと難聴は続いている。メニエール病の方はこのように良い。問題はうつ病である。アシクロビル服薬中、精神安定化作用を確かに感じた。朝悪く夜良い、という日内変動はアシクロビル服薬中は消失していた。一日中少し悪いか少し良い、という状態になっていた。始めの2日目までは効果は余り感じなく、却って漢方で言うメンゲン反応のようなものを感じた。3日目より効果をはっきりと実感できた。これは服薬するアシクロビルの量が増加したためとも思えるが、あまり解らない。昼間や夕方に感じていた強い全身倦怠感はアシクロビル服薬第1日目より、僅かしか感じられなかった。
また、アシクロビル服薬中、抗うつ薬服用の必要性を感じなかった、副作用の多い抗うつ薬を服薬するより副作用の全く感じられないアシクロビルをこれからもずっと服薬したい。服薬中は朝早めに起床できていた。しかし塩酸トラゾドンを服薬中にあった夜間は絶好調というのは無かった、そのため夜早めに就寝していた。』という。
アシクロビル服薬中止後、3日ほどして抗うつ薬を服用する必要がないことを知る。
しかしアシクロビル服薬中止後5日目、抑うつ感に襲われる。塩酸トラゾドン 200 mg/日の服薬を再開。またアシクロビルの追加処方を希望して来院。これ以上、アシクロビルを処方することは不可能であることを告げると、インターネットよりの個人輸入を行うと言う。インターネットよりアシクロビルを個人輸入(400 mg 錠・100 錠)し塩酸トラゾドン の服薬を中止。アシクロビルの服薬再開。以前の4000 mg/日では頭がボンヤリなったり全身倦怠感に襲われることがあるため、2000 mg/日前後の随時服薬を再開。再びうつ病性障害は寛快状態となる。何故、以前の半量で充分になったのか、中枢神経のウイルス感染が軽症化したためと症例は考える。アシクロビル 2000mg/日を3週間ほど続けた後、更にアシクロビル 800mg/日に減量。アシクロビル 800mg/日を続けないとうつ病性障害が再発する兆候を何度も経験する。現在もアシクロビル 800mg/日を続けている。
うつ病性障害の再発は見られていない。10月1日より教職に復職予定である。
(症例2)
39歳男性。未婚。T大学卒。一民間企業で通訳や翻訳の仕事を任せられている。この民間企業には通訳や翻訳の仕事を行えるのは症例一人しか存在しない。
2年半前より、うつ病性障害発症。朝、起床が非常に困難となり、ほぼ毎日遅刻となる。心療内科にて抗うつ薬の投薬治療を受けるも軽度の軽症化に留まる。症例は心療内科にて投薬される抗うつ薬の副作用に辟易し、また18歳時からの社会恐怖に非常に悩んでいた。インターネットより日本では処方されないある種の抗うつ薬が社会恐怖にも効くのではないかと自身で判断し、それを服薬したいため、心療内科での治療を絶つ。そして自らインターネットよりその抗うつ薬を輸入し、社会恐怖を治したい一心でその比較的大量服薬を行う。
症例は小さいながらも一室を与えられており、その抗うつ薬の比較的大量服薬に寄ると思われる激しい全身倦怠感により来社してからも自室にてベットに横になるという状態となる。しかし社長の『いつもは自室にてベットに横になっていて良いから外国の客人が来たときにはネクタイを締めて客人の通訳を行えば良い。しかし欠勤は困る。』という方針により勤務を続けていた。
外国の客が来ると社内電話が鳴りベットより起き、通訳の仕事を行い、翻訳は来社直後あるいはベットにての休息直後などの頭の冴えている時間に行っていた。
単純ヘルペス1型抗体陽性、単純ヘルペス2型抗体陰性、帯状ヘルペス抗体陰性。Epstein-Barr ウイルス抗体は未計測。
マイコプラズマニューモニエ抗体価は平成12年2月5日採血では4未満(基準値;4未満)であったが平成12年5月22日および5月31日採血では4以上に変化していた。
サイトメガロウイルス抗体価は平成12年2月5日採血では4未満(基準値;4未満)であったが平成12年5月31日採血では4以上に変化していた。また平成12年9月29日採血では8以上に変化していた。
アデノウイルス抗体価は平成12年2月5日および5月31日、オーム病クラミジア抗体価は平成12年2月5日および平成12年9月29日、RSV抗体価は平成12年5月31日、HTLV-1および HIV-1,2 抗体価は平成12年2月5日に採血したが、全て基準値以下であった。
症例には糖尿病は無い。上記のウイルス抗体陽転化は『インフルエンザなどウイルス感染を受けやすい時期であったため。』と推測される。
平成12年2月5日の採血に於いて銅 94 ug/dl (基準値;78~131)、フェリチン精密 44 ng/dl(基準値;24~286)。
平成12年7月7日の採血に於いてβ-2 microglobline 1.5(基準値;1.0~1.9)、フェリチン精密 50 ng/ml (基準値;24~286)、マイコプラズマニューモニエ抗体価4以上(基準値;4未満)、シアル酸 48 mg/dl (基準値;46~74)。
平成12年10月18日の採血に於いて、コルチゾール 13.8(基準値;4.0~18.3)、そして今まで基準値より高い価(常に4以上)を示していたマイコプラズマ抗体価が4未満(基準値4未満)に変化していた。
平成12年11月8日採血に於いてT・B細胞100分率に於けるT細胞100分率は 84%(基準値;66~89%), B細胞100分率は 8%(基準値;4~13%)。
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fluvoxamine;平成11年5月より服薬開始。平成11年6月中旬からは一日量300mgに増加する。平成11年11月、服薬中止。
仕事上の信じられないようなミスは平成11年5月より始まっている。
fluoxetine;平成11年9月より服薬開始。 平成12年6月服薬中止。
sertraline;平成11年11月より服薬開始。 平成12年6月服薬中止。
paroxetine;平成12年3月より服薬開始。 平成12年6月服薬中止。
(これらSSRIは併用して服薬していたことが多かった。その量は比較的大量であった。)
RIMA(reversible inhibitory monoamine antagonist)であるmoclobemide ;平成12年6月よりSSRIを一気に中止し、その代用として服薬開始。その服薬量は比較的大量であった。“うつ状態”は不変か、やや軽快を示す。
平成12年7月初旬よりキノコ類(特にマイタケ)の大量摂取開始。“うつ状態”は急激に軽快を示す。しかし軽快のみであり、治癒には至らず。朝の起床困難は続く。
平成12年12月中旬、『希死念慮、自己卑小感、将来への不安』など出現。“うつ状態”に有ることを自覚する。このとき疲労の自覚は朝のみとなっている。朝の起床困難は強くなる。
平成13年1月、自動車事故を起こす。
平成13年2月、再び自動車事故を起こす。
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また症例は次のように主張する。
『キノコ類(とくにマイタケ)の大量摂取で少なくとも自分のうつ病性障害は軽快する。マイタケを2日続けた後、シメジを2日続ける、というように種類を変えながら食した方が効果が高い。これはキノコの種類毎に効果を発揮する多糖体が微妙に異なるためと思われる。自分自身の実感ではマイタケを100とするとエノキダケは90、シメジは85、シイタケは50、という効力を持っている。また少なくともマイタケの有効成分は水煮した汁の中ではなく実本体の中に存在する。大量に食べないと効果は期待できない。夜食はすべてキノコ類(特にマイタケ)の水煮で済ませることも時折有った。』
そして症例はインターネットより購入した抗うつ薬(SSRI)を4種類ほど服薬し、社会恐怖に効果がなく、全身倦怠感が激しく、またインポテンツを起こすことで有名である故に、代わりにRIMA(reversible inhibitory monoamine antagonist)であるmoclobemide をインターネットより購入し服薬。またそのキノコの大量摂取療法も平行して行う。しかしキノコ類の大量摂取はうつ病性障害には効くが社会恐怖には効果がないことに失望し、キノコ類の大量摂取を行わなくなり始めていた。
症例は症例1と高校時代の親友であり、症例1より、アシクロビルの話を聞き、是非自分にもお願いしたいと懇願する。症例1と同じく1000~4000 mg/日随時服薬とし、28000 mg(200 mg錠・140 錠)処方する。 症例も症例1と同じく『3000 mg/日以下では強い抑うつ感が襲ってきていた。』故、最初の2日間は3000 mg/日、あとは4000~5000 mg/日服薬し、7日間で処方したアシクロビルを全て服薬してしまう。これは症例1と症例が連絡を取り合っていたことも関係があると思われる。(彼ら2人は“うつ病性障害”および“アシクロビル”などについてインターネットで検索し、そしてまた電話などで盛んに情報を交換していた。)最初の2日間は症例1と同じく漢方で言うメンゲン反応のようなものを感じたと言う。
1週間後、更にアシクロビル服薬を続けたい、と強く主張するため更にアシクロビルを4000mg/日・3日間随時服薬として処方する。
『アシクロビル服薬中、精神安定化作用を確かに感じていた。この10日間、長年常用していた比較的大量のベンゾジアゼピン系のクスリの服薬の必要性はあまり感じなかったが、仕事上必要性を感じたときにはベンゾジアゼピン系のクスリを随時服薬していた。朝悪く夜良い、という日内変動はアシクロビル服薬中は消失していた。一日中普通、という状態になっていた。しかし2日目まではあまり効果を感じなかった。効果をはっきりと実感できたのは服薬する量を増やした3日目からです。それは服薬量が増えたからか、服薬を始めて3日経過したからか、どちらかは解らない。
できればアシクロビルを抗うつ薬の代わりに服薬し続けたい。夜間の絶好調が確かに無くなり、そのために夜は早めに就寝していた。今までは早朝は非常に体も心も重く、例えトイレに起きても再び床に着くということを繰り返していた。しかし、アシクロビルを服薬している間は午前5時には起床していた。それまでどんなに早く就寝しても早朝は心も体も非常に重く、たとえトイレへ起きても再び床に着くということを繰り返していた。』
この症例もアシクロビル服薬中止後、3日ほどして抗うつ薬を服薬する必要がないことを知る。
症例がうつ病性障害よりも悩んでいた20年来の社会恐怖は軽度軽症化に留まる。
症例1と同じくアシクロビル服薬中止後5日ほどして抑うつ感出現。moclobemide 600 mg/日の服薬を再開する。
症例1と同じくアシクロビルのインターネットよりの個人輸入(400 mg錠・100 錠)を行う。moclobemide の服薬を中止しアシクロビルの随時服薬を再開。しかしその量は最初の時と異なり、アシクロビル2000mg/日で充分であるという。それが何故なのか、ヘルペスウイルス感染の軽症化によるものではないか、と言う。うつ病性障害は服薬翌日より再び寛快状態となる。社会恐怖は軽度軽症化または不変となる。この期間は1ヶ月ほど続く。またこの期間に社会恐怖の寛快を願い、アシクロビルの服薬量を6000mg/日に増量していた時期が有った。しかしこの期間も社会恐怖は軽度軽症化または不変に留まり、副作用と思われる全身倦怠感により、昼間仕事の時間ベットに横になるという以前と全く同じ状態となったため、アシクロビル2000mg/日に戻す。(朝の起床困難はかなり軽くなりながらも続いていた。)
個人輸入したアシクロビルが無くなり、アシクロビル服薬中止後、2週間ほどして再び『朝起きることができない。激しい全身倦怠感。』再燃。また社会恐怖の軽度軽症化状態も消失。
そしてmoclobemide の再服薬を行う。アシクロビル(400 mg錠・100 錠)がインターネットより再び到着し、三度目のアシクロビルの服薬再開。うつ病性障害から早く逃れたいためアシクロビル 4000mg/日で始める。翌日にはうつ病性障害軽快。そして社会恐怖は軽度軽症化状態となる。
症例はアシクロビルのプロドラッグであり一日3回の服薬で充分という新しく開発されたvalacyclovir を輸入し、アシクロビルに変えて服薬し始める。アシクロビルに耐性が附き、そのために効き目が悪くなっっているのではないか、という考えからvalacyclovir の服薬を思い立ち、輸入代行業者に依頼し、500mg錠・42カプセルを26000円で購入。自身の社会恐怖に非常に悩んでいる症例はvalacyclovir が来ると3000mg/日で充分とされているところを4000mg/日のペースで服薬する。アシクロビルを6000mg/日の割合で服薬していたときと同じ副作用と推測される軽度の下痢、全身倦怠感が現れた。
症例は次のように述べる。『アシクロビルおよびvalacyclovir はうつ病性障害には劇的に効果があるが、社会恐怖には軽度軽快のみ感じるだけである。』
『少なくとも自分のうつ病性障害はマイタケを代表とするキノコ類の大量摂取に強い効果が存在する故にウイルス感染を強く疑っていた。そしてそのウイルスが世界中に非常に蔓延している単純ヘルペスウイルス1型感染症であるらしいことが解った。しかし自分の口唇ヘルペスはゾビラックスを多量に服薬しても一時的に軽くなるだけである。また同じように自分の社会恐怖も一時的に軽くなるだけである。社会恐怖は日本に特異的に多く、外国には少ない。しかし社会恐怖の特効薬になるのではないかと思われるクスリが存在するのをインターネットを行っていて知った。それはブスピロン(buspirone)である。自分の社会恐怖はそれで治癒するような気がする。ゾビラックスとvalacyclovir が無くなったらブスピロンに賭けてみようと思う。』
『また自分のこの口唇ヘルペスが一向に治癒しないのは何故なのか? ストレスが常に掛かっており、そのために自分の免疫力が弱まっているからか? しかし自分は小学生の頃から口唇のヘルペス様の発疹に1年のうち半年ほど悩まされていた。母は6年前、帯状ヘルペスに罹患した。それは自分が大学院に通っていたのに00県のある会社からの執拗な誘いに負け、クルマで発作的に出発したあとであった。つまりストレス故の発症と言って良い。あのま�ワ大学院を卒業していたら今頃は教授であったに違いない。家系的にヘルペスウイルス感染症に弱いのかもしれない。HIV-1,2抗体(-) 。また他の免疫上の検査も異常なしであった。何かのストレスか?』
血液検査上、異常値として唯一、血清鉄が検査2回に1回ほど正常下限あるいは低値となる。これは祖父は大腸ガンで死亡し、父親も6年ほど前に悪性化直前の大腸ポリープを偶然発見され摘出手術をした。症例も大腸ポリープを持っており、時折、出血を起こしている故と推測される。
『自分はゾビラックスやvalacyclovir を服薬すると確かに社会恐怖が軽減する。しかし軽減のみである。自分のうつ病性障害は未だ罹患歴2年半である。しかし社会恐怖は20年近くに及ぶ。帯状疱疹罹患時に疼痛を感じさせると疼痛の伝導路ができてしまう。その伝導路を造らせないために帯状疱疹罹患時にできうる限り疼痛を感じさせないことが重要である。そのため抗ウイルス薬投与とともに鎮痛薬の強力な投与や低出力レーザーによる痛覚神経の興奮性を抑える方法が採られる。
太い神経伝導路が自分の社会恐怖には附いてしまっているのか? うつ病性障害と社会恐怖の機序は異なるのか? ヘルペスウイルスは神経節細胞に不顕性感染するとしてうつ病性障害と社会恐怖のウイルスはたとえ同じヘルペスウイルス1型感染症としても亜型の感染か? またはアシクロビルが効能を持つという同じヘルペス属のEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルスなのか、解らない。とにかく明日よりブスピロン服薬を開始しようと思う。』
『五島地方のEpstein-Barr ウイルス抗体価の測定を大規模に行ってはどうかと思う。友人の症例1は自分と全く同じく単純ヘルペス1型陽性、単純ヘルペス2型陰性、帯状ヘルペス陰性である。彼はうつ病性障害には罹患していたが不安障害には大学時代に罹患していたのみである。自分は次第にEpstein-Barr ウイルスまたはサイトメガロウイルス感染が様々な精神疾患の基盤であるような気がする。』
【考察1】
上記の2症例はともに単純ヘルペス1型陽性、単純ヘルペス2型陰性、帯状ヘルペス陰性である。
未だ2症例のみのアシクロビルの投薬であるが2症例ともに遷延化・難治化したうつ病性障害である。少なくともこの2症例からはうつ病性障害は単純ヘルペス1型ウイルスまたはEpstein-Barr ウイルス感染症・サイトメガロウイルスと推測することも可能である。
しかし未だ2症例のみであり、『うつ病性障害は単純ヘルペス1型またはEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルス感染による中枢神経の慢性炎症である』と断定することは今後の追試を待つしかない。
ヘルペスウイルスは全世界に蔓延化しているウイルスであるが、少なくとも筆者の統計上一般に、単純ヘルペス1型抗体陽性の確率は90%、単純ヘルペス2型抗体陽性の確率は30%、帯状ヘルペス抗体陽性の確率は40%である。筆者の病院は顔面神経マヒに鍼を使って治すことで有名であり、80例を越す患者のヘルペス抗体価を測定してある。
幼い頃、水疱瘡に罹患したので帯状ヘルペス抗体は陽性に違いない、という患者の主張は信憑性が非常に低い。血液検査の結果、その幼い頃の水疱瘡は単純ヘルペス1型による水疱であった、ということが極めて多い。
症例2に於いては20年来の社会恐怖は軽度軽症化に留まっている。インターネットより輸入したアシクロビル400mg 錠を一日3錠と服薬中の現在も同様である。
しかし社会恐怖もヘルペスウイルスまたはEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルス感染症による神経過敏を基盤としている可能性は充分考えられ、未だ一例のみであり、今後の追試を待つしかない。
【考察2】
アシクロビルはヘルペス属である単純ヘルペス1型および2型、帯状ヘルペス、Epstein-Barr ウイルス、サイトメガロウイルスに効果がある。1)
アシクロビルはウイルスに感染した細胞内でウイルス由来のチミジンキナーゼという酵素によりリン酸化されアシクロGMPになる。アシクロGMPは人のキナーゼにより更にリン酸化され、リン酸が3個附いたアシクロビル三リン酸(アシクロGTP)となる。このアシクロビル三リン酸がウイルスDNAポリメラーゼの阻害物質及び基質(d-GTPと競合)として作用し、ウイルスDNA合成を阻害する。このようにして薬効を発揮する。よって正常な細胞は全く害を受けず、ヘルペスウイルスが感染した細胞のみが害を受ける。1)
アシクロビルは副作用が非常に軽度であるため今後、うつ病性障害に抗うつ薬に代わって盛んに用いることができると思われる。
上記の2症例が最初に服薬した4000 mg/日あるいはそれ以上服薬という量は帯状ヘルペス感染すなわち帯状疱疹のときに用いる量とほぼ同じか、やや多い、という量である。単純ヘルペス感染すなわち単純疱疹及び水痘では1000 mg/日を5日間となっている。3)
2症例ともにアシクロビルの説明で『帯状ヘルペスでは4000 mg/日、単純ヘルペスでは1000 mg/日を共に一日5回に分けて服薬することになっている』とのみ伝えておいた。しかし2症例ともに最初は4000 mg/日あるいはそれ以上の比較的大量服薬を行った。
アシクロビル服用中、2症例とも抗うつ薬を全く服薬しなかった。2症例とも、アシクロビルを服薬中は抗うつ薬を服薬する必要性は全く感じなかったからである、という。
アシクロビルには単純ヘルペス1型またはEpstein-Barr ウイルス感染により易興奮性化している神経細胞に作用し、そして興奮性を標準にまで沈静化させる作用が存在すると推測する。
『単純ヘルペス1型ウイルスまたはEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルス感染が神経細胞の易興奮性を惹起する。それが精神疾患の最も大きな素因であり、患者が不安障害、うつ病性障害、精神分裂病になるかは、また別の理由による。』と推測され、これは精神疾患の家族・家系集積性を説明できうる仮説と成り得る。
ストレスが過剰に掛かったときなど、免疫機能が低下し、神経細胞や神経節細胞に潜伏していたある種のウイルスが活性化し、発病に至る。そして神経細胞のある種のウイルス感染による慢性炎症が続き、精神疾患も続く。この神経細胞のある種のウイルス感染による慢性炎症を沈静化あるいは完全正常化させると、精神疾患は軽症化あるいは寛快する。
精神疾患は中枢神経細胞の慢性炎症であり、この慢性炎症を取り除くにはアシクロビルだけでなく、他の薬物や方法も考えられる。
不安障害や恐慌性障害、強迫性障害など抗不安薬で治療する疾患に於いて、鍼・整体などで治癒してゆく症例も存在する9)が、それは鍼・整体により神経の不良な圧迫が取り除かれ、中枢神経細胞の易興奮性が鎮静化する故と推測される。
薬物治療などに反応不良な頑固な三叉神経痛の治療には脳外科的開頭手術が行われ、それは非常に良好な結果を示す。当初は圧迫されている三叉神経の圧迫を取り除いたためと考えられていたが、後に三叉神経の圧迫の方法が変化したためと考えられるようになった。12)
メニエール病にアシクロビルを用いるときの用量は1000~2000 mg/日となっている。1)
症例2は『キノコ類(とくにマイタケ)の大量摂取でうつ病性障害が軽快する。』と言う。少なくとも症例2のうつ病性障害はウイルス感染であり、キノコ類(とくにマイタケ)に存在する免疫力増強作用により軽快していたと思われる。
【最後に】
長崎の五島列島および五島灘に面した島々は精神障害の好発地帯であり、それは筆者の統計上、
全国平均の100倍に相当する。日本全国の単純ヘルペス1型の抗体保有率は90%である故、精神疾患単純ヘルペス1型感染説はこの五島の島々の極めて高い精神疾患発病率をうまく説明できない。しかし『それは単純ヘルペス1型の亜型、またはある種のEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルスの感染による。その単純ヘルペス1型の亜型、またはある種のEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルスは極めて神経細胞の易興奮性を招きやすく同時に精神疾患を極めて起こしやすくする。』とするならば説明可能となる。 また五島列島はATLV(Adult T-cell leukemia virus)が非常に蔓延している地域の一つである。それ故にATLVが五島列島の精神疾患の非常な多発の要因ではないか、と推測していたときがある。
五島列島の島々には黒潮に乗ってインカ帝国の人々が流れてきたとする伝説があり10)、そのインカ帝国の人々が持ち込んできた単純ヘルペス1型亜型ウイルス(またはある種のEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルス)故の精神疾患の非常な多発なのかもしれない。
また単純ヘルペス1型(およびEpstein-Barr ウイルス・サイトメガロウイルス)に様々な亜型が存在すること11)が、世界中で精神疾患の頻度の高い地域、低い地域、および精神疾患の地方特異性が存在する一つの大きな理由になっていると思われる。
【文献】
1)七戸満雄:メニエール病に対するアシクロビルの治療効果;医学の歩み 169: 796, 1994
2)七戸満雄:メニエール病に対するアシクロビルの治療効果(第二報);診療と治療;82:1860,1994
3) ゾビラックス錠添付文書;グラクソ・ウェルカム株式会社;1999
4)Shichinohe,M:Clinical Trials of Meniere's Disease (M.D)
9th International Conference on Antiviral Research. Fukushima, May, 1996
5)Mizuno T., ed:Special issue on mushrooms. bioactive substances and medical utilization. Food Rev.int., 11(1),pp1-236, 1995
6)Mizuno T., ed:Special issue on mushrooms. breeding and cultivation. Food Rev.int., 13(3),pp327-518, 1997
7)Mizuno T., ed:The extraction and development of anti-tumor-active polysaccharides from medical mushroom in japan. Int.J.of Med.Mushrooms, 1(1),pp9-29, 1999
8)Mizuno T., ed:Bioactive substances in yamabushitake, and its medical utilization,Int.J.of Med.Mushrooms, 1(2),ppjl;jk;105-119, 1999
9)心に残る症例;医道の日本社;p618; 1994
10)黒沢和夫:黒潮に乗ってやってきた人々;講談社;p356, 1987
11)Richard T.Jhonson:神経系のウイルス感染症; 訳:金沢光男;西村書店;p363, 1988
12)Acampora D, Mazan S, Avantaggiato V; decompression or neocompression; J neurosurgery 3:218-222; 1996
*Cured by aciclovir 2-case of prolonged depressive disorders*
---- Mental disorder are caused by Herpes simplex type 1 or Epstein-Barr virus----
http://homepage2.nifty.com/mmm23232/2975.html
アシクロビル服用が奏功するうつ病性障害の1例*
【抄録】
アシクロビル服用がうつ病性障害に奏功する症例を経験した。
アシクロビルはヘルペス属ウイルスの単純ヘルペス1型および2型・帯状ヘルペスに特異的に効果を示し,同じヘルペス属ウイルスのヒトヘルペス6型・Epstein-Barr・サイトメガロに対する効果は弱いとされている1)。
ヘルペス属ウイルスは神経親和性ウイルスとして有名である。ヘルペスウイルスは神経節の神経細胞内に遺伝子の形で潜伏する。そして過度の精神疲弊および身体疲弊などにより個体の免疫能が低下したときに潜伏ウイルスが活性化され増殖する1)。
『精神疾患はある種のヘルペス属ウイルスの中枢神経系のある部分への感染を基盤とする。精神疾患の発症および遷延はそのウイルスの神経細胞内での増殖による神経細胞の過敏化に依る。』との仮説が成り立つことを示唆する貴重な症例と考え,ここに呈示する。
【key words】aciclovir,depressive disorders,herpes virus group
【症例】32歳,男性。未婚。
頭部CT:特記すべき所見なし。
神経学的:特記すべき所見なし。
脳波:特記すべき所見なし。
免疫学的所見:単純ヘルペス1型抗体陽性,単純ヘルペス2型抗体陰性,帯状ヘルペス抗体陰性(2000年1月6日採血)。
サイトメガロ抗体価は2000年1月6日採血では4未満(基準値:4未満)であったが2000年5月26日採血では4以上に変化していた。また2000年10月9日採血では8以上に変化していた。
ヒトヘルペス6型・Epstein-barr ウイルスの抗体価は未計測。
HTLV-1(human T-cell leukemia virus type 1)および HIV-1,2 (human immunodeficiency virus type1 and type2)抗体価は基準値以下(2000年7月19日採血)
T・B細胞100分率:T細胞84%(基準値;66~89%)
B細胞 8%(基準値; 4~13%)(2000年4月1日採血)
生化学的所見:フェリチン精密 44 ng/dl(基準値;24~286)(2000年7月19日採血)
β-2 microglobline 1.5 ng/dl(基準値;1.0~1.9)(2000年7月19日採血)
(生育歴)正常分娩にて出生。幼少時より内向的傾向有るも,小学生時代より,成績優秀,性格穏和であり,人気者であった。現役時(18歳時),大学受験に失敗。一浪後,現役時に容易に入れた大学に不本意ながら入学。それ故もあり,大学の授業へあまり出席せず。4年間で卒業できるところを8年懸かって卒業する。
(家族歴)特記すべきことなし。
(性格�j真面目。努力家。勤勉。凝り性。素直。物事を非常に真っ直ぐに考える傾向がある。真面目さ・優しさ・素直さが目立ち,性格の障害はほとんど感じられない。
(既往歴)高校3年時の大学入試2次試験直前,社会恐怖を発症。22歳時,精神科受診。それよりbromazepam を主とした抗不安薬を継続服用。
(現病歴)1999年5月18日本院初診。22歳時より社会恐怖に対し抗不安薬を投与されてきたこと,今まで幾つかの精神科の病院や医院を受診してきたこと,様々な抗不安薬,抗うつ薬,抗精神病薬を試験的に服用してきたことを述べる。bromazepam 20mg/日の投与にて治療開始。症例はインターネットより日本で使用開始になる fluvoxamine が社会恐怖に効果があることを知る。5月30日来院時,実際は抑うつ気分は無いが,筆者に抑うつ気分を訴え fluvoxamine の投与を希望する。
1999年5月30日よりfluvoxamine の追加投与を開始。その頃より強い倦怠感を自覚し始める。fluvoxamine の服用量を減量した翌日は倦怠感が多少軽い故に fluvoxamine の副作用が考えられた。しかし,職場の人間関係に悩み抜いていたこと,fluvoxamine の服用量を減量しても倦怠感の軽減は僅かであること,肝機能障害は僅かしか存在しないこと,それらよりうつ病性障害発症による倦怠感も考えられた。倦怠感の出現とともに口唇ヘルペスも出現する。
症例は fluvoxamine の副作用の可能性を考えながらも社会恐怖で非常に悩み苦しんでいた故,筆者にその強い倦怠感を隠し続け,社会恐怖を治したい一心で fluvoxamine 150mg/日 の服用を続ける。症例は肝機能障害には動物性蛋白が必要と考え,毎晩ステーキを大量に食するなどにより,2ヶ月間ほどで体重が65kgから86kgにまで増加した。
fluvoxamine の服用を3ヶ月間続ける。倦怠感は不変。また社会恐怖に対する効果も判然とせず。fluvoxamine 中止後,trazodone の投与を開始。しかし,trazodone は最初の数日間服用したのみで,その後は処方されるも服用せず。1999年8月より筆者には内緒にインターネットより fluoxetine を個人輸入し,その服用を開始していた。しかしこれにても症例の社会恐怖は軽症化の傾向を見せず。倦怠感もほぼ不変。更に本院よりsetiptiline,milnacipran などを処方するも,それらはあまり服用せず。社会恐怖に効果が有るというインターネットよりの情報を頼りにsertraline およびparoxetine をインターネットを介し個人輸入し,その服用を行う。しかし,これにても社会恐怖は軽症化の傾向を見せず。また倦怠感も不変。
社長は症例に対し特別扱い状態であり,症例は出社すると自室のベットにて臥床するという毎日を繰り返していた。外国人客の来たときのみベットより起き出しネクタイを締め,その外国人客の応対をするという毎日を行っていた。他の部署に症例が顔を出すと厄介者扱いされる状態であった。外国人客が来たときに応対をするのみで充分という社長の方針のため会社を休むことを社長は許さなかったが,そのように仕事は非常に楽であった。
また,強い倦怠感のため,通訳の仕事に於いて,および書類作成に於いて,ミスが重なる。
抑うつ気分,希死念慮,罪業観念,物事への興味の減弱など,うつ病性障害に相当するものは存在せず,朝の起床困難と強い倦怠感が存在しているのみであった。微熱は存在せず,慢性疲労症候群の診断基準は満たさないことを症例自身も理解していた。しかし症例は慢性疲労症候群の一亜型と考え,盛んにインターネットより慢性疲労症候群およびそれに類する文献を読破し,慢性疲労症候群およびそれに関連するものの知識は豊富であった。
1999年10月,症例は社会恐怖を癒したいためにインターネットを介してsertraline,paroxetine など社会恐怖に強い効能が有るとされる抗うつ薬を個人輸入して服用していることを筆者に告白。以後,本院からは抗不安薬のみ処方することとなる。
強い倦怠感のため,休日はほとんど臥床状態であった。また,週末に大学の研究室へ行き,研究を重ねていたが,その研究も休止せざるを得なくなる。
症例は社会恐怖の治癒を願いSSRIに代わり2000年6月より服用していたmoclobemide を自身の社会恐怖に無効と判断し,2000年10月,服用中止する。
2000年12月中旬,希死念慮,悲哀感を自覚。うつ状態に有ることを認める。moclobemideの服用を再開する。
2001年1月,正月休暇で故郷に帰省した帰り,自動車事故を起こす。症例は真面目な性格である故,自動車運転に於いて安全運転であり,毎日のように自動車の運転を行っていたが少なくとも過去10年間無事故であった。
2001年2月,再び自動車事故を起こす。
この頃より朝の起床困難は更に強くなる。ほぼ毎日の遅刻は30分程度であったのが1時間程度となる。
trazodone を眠前に服用した翌朝は起床が比較的容易であり,trazodone を服用しない翌朝は起床が困難であることを繰り返し経験している。
症例はSSRIを代表とする抗うつ薬を服用すると性機能障害および倦怠感が惹起されるため,その服用を好まない。
三環形抗うつ薬のamoxapine に朝の起床困難だけでなく倦怠感に対する効果も弱いながら存在することを自覚するが,症例は抗コリン作用に敏感であり,また当院来院前,社会恐怖に対し imipramine の投与を長期間受け,前立腺肥大を起こし,前立腺肥大による排尿障害が重篤化するということで服用を好まない。
症例は現在もmoclobemide が自身に最も合うとしてmoclobemide の服用を続けている。
【アシクロビル服用】
1999年5月,うつ病性障害発症と時を同じくして口唇ヘルペス発症。vidarabine の軟膏およびアシクロビルの軟膏を塗布することにて対処する。しかし口唇ヘルペスはvidarabine の軟膏塗布にて極く軽度軽症化するのみであり,アシクロビルの軟膏を塗布にて軽度軽症化していた。
1999年7月より単純疱疹の保健病名の下,月5日間のみアシクロビル錠(200mg) 一日5錠処方を開始。アシクロビルの軟膏塗布と併用するが口唇ヘルペスは軽度軽症化するのみに留まる。また,強い倦怠感はアシクロビル服用にても不変。
2001年3月,帯状疱疹の保健病名の下,アシクロビル(200mg) 一日20錠を7日分処方。症例はこの一日20錠服用を7日間続ける。服用2日目より強い倦怠感の劇的な軽症化が起こる。服用6日目に口唇ヘルペスの消失が起こる。そしてこの強い倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失は服用終了後,7日間ほど持続する。しかし服用終了後8日目ほどより倦怠感および口唇ヘルペスは再燃する。
症例はアシクロビル錠(200mg) 一日20錠服用している7日間,“朝悪く夜良い”という日内変動が消失し“一日中普通”という状態になる。それまで有った“夜間の絶好調”が無くなり,夜,早めに就寝する。これは「出勤中の半分以上は,いつも会社の自室のベットで横になっていたが,アシクロビルを服用中は,それを行わなかったためかもしれない」と言う。
それまでどんなに早く就寝しても早朝は心も体も非常に重く,たとえトイレへ起きても再び床に着くということを繰り返していた。ところがこの7日間は午前6時に起床する。
2001年6月,アシクロビルのインターネット�謔閧フ個人輸入(400 mg錠・100 錠)を行う。最初,3000 mg/日 服用を行い,その量では不充分に反応する。4000 mg/日 服用を行い2001年3月のときのように充分な反応を示した。うつ病性障害は再び寛快状態となる。社会恐怖の寛解を願い,6000mg/日 ほどの服用をも行う。しかしこれにても社会恐怖は不変に留まる。
個人輸入したアシクロビルを服用し尽くし,アシクロビル服用中止後,10日ほどして再び『朝の起床困難と強い倦怠感を主としたうつ病性障害』再燃。
2001年10月,症例はアシクロビルのプロドラッグであり一日3回の服用で充分という新しく開発された塩酸バラシクロビル 500mg錠・42錠をインターネットより個人輸入する。アシクロビルよりも塩酸バラシクロビルが僅かであるが安価であること,および塩酸バラシクロビルの方が効果が高いのではないか,という考えからであった。症例は塩酸バラシクロビルが到着すると3000mg/日 で充分とされているところを社会恐怖の治癒を願い4000mg/日 のペースで服用。服用2日目より全身倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失が起こる。そしてこの倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失は服用終了後,8日間ほど持続する。しかし服用終了後9日目頃より倦怠感および口唇ヘルペスは再燃する。また,社会恐怖は不変に留まる。
【考察】
うつ病性障害は精神的また肉体的疲弊を基盤として発症することが知られている2,3)。この症例のうつ病性障害発症には職場の人間関係不良という精神的疲弊があった。また,週末は大学の研究室で研究を行ない,週日は夜遅くまでインターネットや書籍で研究を行うという肉体的疲弊があった。
症例はfluvoxamine による倦怠感を疑いながらも社会恐怖を治したい一心でfluvoxamine の服用を3ヶ月間行った。そしてインターネットより抗うつ薬が個人輸入できることを知ると fluoxetine,sertraline,paroxetine などを輸入し,これも社会恐怖を治したい一心で,その比較的大量服用を行う。しかし症例の社会恐怖は軽快せず。また倦怠感も不変。
症例は「自分の倦怠感は悪性腫瘍,またはウイルス感染のような内科的疾患から由来していると思う。」と頑迷に主張する。私費も含め上記の多数の検査を行う。
症例は自身の社会恐怖のため精神医学に関する書籍を大学時代より多量に読破し,うつ病性障害の概念が出来上がっており,自身の病態がうつ病性障害の病態と異なるという考えは不変であった。
症例には倦怠感を早く治し,大学での研究を再開したい,という焦燥が強く存在していた。
症例は一民間企業に通訳のような存在として勤務していることに強い不満を持っており,論文を書き,大学教授に成るという野心を持っていた。また症例の性格特性として「頑固,執着性」というものが存在する。
ヘルペス属ウイルスは全世界に蔓延しているウイルスである。筆者の勤務する病院は顔面神経マヒに鍼を使って治すことで有名であり,120例を越す患者のヘルペス抗体価を測定してある。筆者の統計上,単純ヘルペス1型抗体陽性の確率は90%,単純ヘルペス2型抗体陽性の確率は30%,帯状ヘルペス抗体陽性の確率は40%である。他のヘルペス属ウイルスの抗体価は測定していない。
アシクロビルはウイルスの持つthymidine kinase の存在下で活性型aciclo-ATP に変換され,これが chain terminator としてDNA合成を止める。正常な細胞のthymidine kinase ではこの変換は進行せず,また感染した細胞の薬剤取り込み増大,感受性亢進などもあり,選択的抗ウイルス作用が期待できる。従ってこのthymidine kinase を有するウイルスとしてHSV(1型,2型),VZVなどに有効であるが,なかにはthymidine kinase が欠損しているためにアシクロビルに耐性のウイルスも分離されている。正常な細胞は全く害を受けず,ヘルペス属ウイルスが感染した細胞のみが害を受ける1)。
帯状ヘルペスウイルスと単純ヘルペスウイルスのアシクロビル薬剤感受性は異なり,帯状ヘルペスウイルスの場合は4000 mg/日 服用であるが,単純ヘルペスウイルスの場合は1000 mg/日 服用となっている。
1000 mg/日 服用では反応を示さず,3000 mg/日 服用で不充分に反応し,4000 mg/日 服用で充分に反応したことより単純ヘルペスウイルス感染による倦怠感は考え難い。また発症より7ヶ月を経過した2000年1月6日採血の検査結果は帯状ヘルペスウイルス抗体(-)であり帯状ヘルペスウイルス感染も考え難い。帯状ヘルペスウイルスと同じ程度のアシクロビル薬剤感受性を持つ他のヘルペス属ウイルスによるものと推測される。
ストレスが過剰に掛かったとき,免疫機能が低下し,神経細胞内に潜伏していたある種のウイルスが増殖し,神経細胞は過敏状態となる。そこにある因子が加わり,発病に至る。そして神経細胞のある種のウイルスによる過敏状態が続き,精神疾患も続く。この神経細胞のある種のウイルス感染による過敏状態を軽症化あるいは沈静化させると,精神疾患は軽症化あるいは寛快する,と考えられる。
塩酸バラシクロビルはアシクロビルのプロドラッグであり,生物学的作用が高く,一日3回の服用で充分とされている。塩酸バラシクロビルがアシクロビルに代わり今後は主流になってゆくと思われる。
アシクロビル・塩酸バラシクロビルはヘルペス属ウイルスの増殖を阻止するのみであり,ヘルペス属ウイルスに罹患した神経細胞からヘルペス属ウイルスを駆逐することは不可能である。つまり神経細胞に潜伏しているヘルペス属ウイルスにはアシクロビル・塩酸バラシクロビルは効果が無いとされている1)。
神経細胞に潜伏しているヘルペス属ウイルスに対しても効果のある新薬の出現を待つしかないか,それともアシクロビル・塩酸バラシクロビルで充分であるか,未だ1症例であり,今後の症例の蓄積を待つ。
【最後に】
アシクロビル服用が社会恐怖には効果が無かったことは社会恐怖はウイルス感染ではないことを示唆していると単純には考えることができる。しかし,症例の社会恐怖が高校3年時(大学入試2次試験直前)からのものであり,うつ病性障害とは比較できないほど慢性化している。症例の社会恐怖はある領域の中枢神経細胞のウイルス感染に由来するものであるならば,その神経細胞は最低18年ウイルスに感染されており,長い年月のうちに大きな変性を起こしていると推察される。
ストレス過剰状態(大学入試2次試験直前)に置かれたとき,免疫力が低下し,ある領域の中枢神経細胞内に遺伝子の形で潜伏感染していたウイルスが活性化され増殖し,その領域の神経細胞が過敏状態となり,そして社会恐怖が発症したと考えられる。そしてその過敏状態が18年間続いていると考えられる。
【文献】
1)Tilson HH:Monitoring the safety of antiviral--the example of the aciclovir experience.Am J Med 116:187-189,1998
2)赤穂理絵,佐々木司:気分障害の遺伝.最新精神医学 11:324-329,1999
3)Anisman H:Vulnerability to depression: Contribution of stress.Neurology of mood disorders Vol 1,Williams & Wilkins,Baltimore,1984
----------------------------------------------------
*A case of taking aciclovir effected depressive disorders.
http://homepage2.nifty.com/mmm23232/2975.html
【抄録】
アシクロビル服用がうつ病性障害に奏功する症例を経験した。
アシクロビルはヘルペス属ウイルスの単純ヘルペス1型および2型・帯状ヘルペスに特異的に効果を示し,同じヘルペス属ウイルスのヒトヘルペス6型・Epstein-Barr・サイトメガロに対する効果は弱いとされている1)。
ヘルペス属ウイルスは神経親和性ウイルスとして有名である。ヘルペスウイルスは神経節の神経細胞内に遺伝子の形で潜伏する。そして過度の精神疲弊および身体疲弊などにより個体の免疫能が低下したときに潜伏ウイルスが活性化され増殖する1)。
『精神疾患はある種のヘルペス属ウイルスの中枢神経系のある部分への感染を基盤とする。精神疾患の発症および遷延はそのウイルスの神経細胞内での増殖による神経細胞の過敏化に依る。』との仮説が成り立つことを示唆する貴重な症例と考え,ここに呈示する。
【key words】aciclovir,depressive disorders,herpes virus group
【症例】32歳,男性。未婚。
頭部CT:特記すべき所見なし。
神経学的:特記すべき所見なし。
脳波:特記すべき所見なし。
免疫学的所見:単純ヘルペス1型抗体陽性,単純ヘルペス2型抗体陰性,帯状ヘルペス抗体陰性(2000年1月6日採血)。
サイトメガロ抗体価は2000年1月6日採血では4未満(基準値:4未満)であったが2000年5月26日採血では4以上に変化していた。また2000年10月9日採血では8以上に変化していた。
ヒトヘルペス6型・Epstein-barr ウイルスの抗体価は未計測。
HTLV-1(human T-cell leukemia virus type 1)および HIV-1,2 (human immunodeficiency virus type1 and type2)抗体価は基準値以下(2000年7月19日採血)
T・B細胞100分率:T細胞84%(基準値;66~89%)
B細胞 8%(基準値; 4~13%)(2000年4月1日採血)
生化学的所見:フェリチン精密 44 ng/dl(基準値;24~286)(2000年7月19日採血)
β-2 microglobline 1.5 ng/dl(基準値;1.0~1.9)(2000年7月19日採血)
(生育歴)正常分娩にて出生。幼少時より内向的傾向有るも,小学生時代より,成績優秀,性格穏和であり,人気者であった。現役時(18歳時),大学受験に失敗。一浪後,現役時に容易に入れた大学に不本意ながら入学。それ故もあり,大学の授業へあまり出席せず。4年間で卒業できるところを8年懸かって卒業する。
(家族歴)特記すべきことなし。
(性格�j真面目。努力家。勤勉。凝り性。素直。物事を非常に真っ直ぐに考える傾向がある。真面目さ・優しさ・素直さが目立ち,性格の障害はほとんど感じられない。
(既往歴)高校3年時の大学入試2次試験直前,社会恐怖を発症。22歳時,精神科受診。それよりbromazepam を主とした抗不安薬を継続服用。
(現病歴)1999年5月18日本院初診。22歳時より社会恐怖に対し抗不安薬を投与されてきたこと,今まで幾つかの精神科の病院や医院を受診してきたこと,様々な抗不安薬,抗うつ薬,抗精神病薬を試験的に服用してきたことを述べる。bromazepam 20mg/日の投与にて治療開始。症例はインターネットより日本で使用開始になる fluvoxamine が社会恐怖に効果があることを知る。5月30日来院時,実際は抑うつ気分は無いが,筆者に抑うつ気分を訴え fluvoxamine の投与を希望する。
1999年5月30日よりfluvoxamine の追加投与を開始。その頃より強い倦怠感を自覚し始める。fluvoxamine の服用量を減量した翌日は倦怠感が多少軽い故に fluvoxamine の副作用が考えられた。しかし,職場の人間関係に悩み抜いていたこと,fluvoxamine の服用量を減量しても倦怠感の軽減は僅かであること,肝機能障害は僅かしか存在しないこと,それらよりうつ病性障害発症による倦怠感も考えられた。倦怠感の出現とともに口唇ヘルペスも出現する。
症例は fluvoxamine の副作用の可能性を考えながらも社会恐怖で非常に悩み苦しんでいた故,筆者にその強い倦怠感を隠し続け,社会恐怖を治したい一心で fluvoxamine 150mg/日 の服用を続ける。症例は肝機能障害には動物性蛋白が必要と考え,毎晩ステーキを大量に食するなどにより,2ヶ月間ほどで体重が65kgから86kgにまで増加した。
fluvoxamine の服用を3ヶ月間続ける。倦怠感は不変。また社会恐怖に対する効果も判然とせず。fluvoxamine 中止後,trazodone の投与を開始。しかし,trazodone は最初の数日間服用したのみで,その後は処方されるも服用せず。1999年8月より筆者には内緒にインターネットより fluoxetine を個人輸入し,その服用を開始していた。しかしこれにても症例の社会恐怖は軽症化の傾向を見せず。倦怠感もほぼ不変。更に本院よりsetiptiline,milnacipran などを処方するも,それらはあまり服用せず。社会恐怖に効果が有るというインターネットよりの情報を頼りにsertraline およびparoxetine をインターネットを介し個人輸入し,その服用を行う。しかし,これにても社会恐怖は軽症化の傾向を見せず。また倦怠感も不変。
社長は症例に対し特別扱い状態であり,症例は出社すると自室のベットにて臥床するという毎日を繰り返していた。外国人客の来たときのみベットより起き出しネクタイを締め,その外国人客の応対をするという毎日を行っていた。他の部署に症例が顔を出すと厄介者扱いされる状態であった。外国人客が来たときに応対をするのみで充分という社長の方針のため会社を休むことを社長は許さなかったが,そのように仕事は非常に楽であった。
また,強い倦怠感のため,通訳の仕事に於いて,および書類作成に於いて,ミスが重なる。
抑うつ気分,希死念慮,罪業観念,物事への興味の減弱など,うつ病性障害に相当するものは存在せず,朝の起床困難と強い倦怠感が存在しているのみであった。微熱は存在せず,慢性疲労症候群の診断基準は満たさないことを症例自身も理解していた。しかし症例は慢性疲労症候群の一亜型と考え,盛んにインターネットより慢性疲労症候群およびそれに類する文献を読破し,慢性疲労症候群およびそれに関連するものの知識は豊富であった。
1999年10月,症例は社会恐怖を癒したいためにインターネットを介してsertraline,paroxetine など社会恐怖に強い効能が有るとされる抗うつ薬を個人輸入して服用していることを筆者に告白。以後,本院からは抗不安薬のみ処方することとなる。
強い倦怠感のため,休日はほとんど臥床状態であった。また,週末に大学の研究室へ行き,研究を重ねていたが,その研究も休止せざるを得なくなる。
症例は社会恐怖の治癒を願いSSRIに代わり2000年6月より服用していたmoclobemide を自身の社会恐怖に無効と判断し,2000年10月,服用中止する。
2000年12月中旬,希死念慮,悲哀感を自覚。うつ状態に有ることを認める。moclobemideの服用を再開する。
2001年1月,正月休暇で故郷に帰省した帰り,自動車事故を起こす。症例は真面目な性格である故,自動車運転に於いて安全運転であり,毎日のように自動車の運転を行っていたが少なくとも過去10年間無事故であった。
2001年2月,再び自動車事故を起こす。
この頃より朝の起床困難は更に強くなる。ほぼ毎日の遅刻は30分程度であったのが1時間程度となる。
trazodone を眠前に服用した翌朝は起床が比較的容易であり,trazodone を服用しない翌朝は起床が困難であることを繰り返し経験している。
症例はSSRIを代表とする抗うつ薬を服用すると性機能障害および倦怠感が惹起されるため,その服用を好まない。
三環形抗うつ薬のamoxapine に朝の起床困難だけでなく倦怠感に対する効果も弱いながら存在することを自覚するが,症例は抗コリン作用に敏感であり,また当院来院前,社会恐怖に対し imipramine の投与を長期間受け,前立腺肥大を起こし,前立腺肥大による排尿障害が重篤化するということで服用を好まない。
症例は現在もmoclobemide が自身に最も合うとしてmoclobemide の服用を続けている。
【アシクロビル服用】
1999年5月,うつ病性障害発症と時を同じくして口唇ヘルペス発症。vidarabine の軟膏およびアシクロビルの軟膏を塗布することにて対処する。しかし口唇ヘルペスはvidarabine の軟膏塗布にて極く軽度軽症化するのみであり,アシクロビルの軟膏を塗布にて軽度軽症化していた。
1999年7月より単純疱疹の保健病名の下,月5日間のみアシクロビル錠(200mg) 一日5錠処方を開始。アシクロビルの軟膏塗布と併用するが口唇ヘルペスは軽度軽症化するのみに留まる。また,強い倦怠感はアシクロビル服用にても不変。
2001年3月,帯状疱疹の保健病名の下,アシクロビル(200mg) 一日20錠を7日分処方。症例はこの一日20錠服用を7日間続ける。服用2日目より強い倦怠感の劇的な軽症化が起こる。服用6日目に口唇ヘルペスの消失が起こる。そしてこの強い倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失は服用終了後,7日間ほど持続する。しかし服用終了後8日目ほどより倦怠感および口唇ヘルペスは再燃する。
症例はアシクロビル錠(200mg) 一日20錠服用している7日間,“朝悪く夜良い”という日内変動が消失し“一日中普通”という状態になる。それまで有った“夜間の絶好調”が無くなり,夜,早めに就寝する。これは「出勤中の半分以上は,いつも会社の自室のベットで横になっていたが,アシクロビルを服用中は,それを行わなかったためかもしれない」と言う。
それまでどんなに早く就寝しても早朝は心も体も非常に重く,たとえトイレへ起きても再び床に着くということを繰り返していた。ところがこの7日間は午前6時に起床する。
2001年6月,アシクロビルのインターネット�謔閧フ個人輸入(400 mg錠・100 錠)を行う。最初,3000 mg/日 服用を行い,その量では不充分に反応する。4000 mg/日 服用を行い2001年3月のときのように充分な反応を示した。うつ病性障害は再び寛快状態となる。社会恐怖の寛解を願い,6000mg/日 ほどの服用をも行う。しかしこれにても社会恐怖は不変に留まる。
個人輸入したアシクロビルを服用し尽くし,アシクロビル服用中止後,10日ほどして再び『朝の起床困難と強い倦怠感を主としたうつ病性障害』再燃。
2001年10月,症例はアシクロビルのプロドラッグであり一日3回の服用で充分という新しく開発された塩酸バラシクロビル 500mg錠・42錠をインターネットより個人輸入する。アシクロビルよりも塩酸バラシクロビルが僅かであるが安価であること,および塩酸バラシクロビルの方が効果が高いのではないか,という考えからであった。症例は塩酸バラシクロビルが到着すると3000mg/日 で充分とされているところを社会恐怖の治癒を願い4000mg/日 のペースで服用。服用2日目より全身倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失が起こる。そしてこの倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失は服用終了後,8日間ほど持続する。しかし服用終了後9日目頃より倦怠感および口唇ヘルペスは再燃する。また,社会恐怖は不変に留まる。
【考察】
うつ病性障害は精神的また肉体的疲弊を基盤として発症することが知られている2,3)。この症例のうつ病性障害発症には職場の人間関係不良という精神的疲弊があった。また,週末は大学の研究室で研究を行ない,週日は夜遅くまでインターネットや書籍で研究を行うという肉体的疲弊があった。
症例はfluvoxamine による倦怠感を疑いながらも社会恐怖を治したい一心でfluvoxamine の服用を3ヶ月間行った。そしてインターネットより抗うつ薬が個人輸入できることを知ると fluoxetine,sertraline,paroxetine などを輸入し,これも社会恐怖を治したい一心で,その比較的大量服用を行う。しかし症例の社会恐怖は軽快せず。また倦怠感も不変。
症例は「自分の倦怠感は悪性腫瘍,またはウイルス感染のような内科的疾患から由来していると思う。」と頑迷に主張する。私費も含め上記の多数の検査を行う。
症例は自身の社会恐怖のため精神医学に関する書籍を大学時代より多量に読破し,うつ病性障害の概念が出来上がっており,自身の病態がうつ病性障害の病態と異なるという考えは不変であった。
症例には倦怠感を早く治し,大学での研究を再開したい,という焦燥が強く存在していた。
症例は一民間企業に通訳のような存在として勤務していることに強い不満を持っており,論文を書き,大学教授に成るという野心を持っていた。また症例の性格特性として「頑固,執着性」というものが存在する。
ヘルペス属ウイルスは全世界に蔓延しているウイルスである。筆者の勤務する病院は顔面神経マヒに鍼を使って治すことで有名であり,120例を越す患者のヘルペス抗体価を測定してある。筆者の統計上,単純ヘルペス1型抗体陽性の確率は90%,単純ヘルペス2型抗体陽性の確率は30%,帯状ヘルペス抗体陽性の確率は40%である。他のヘルペス属ウイルスの抗体価は測定していない。
アシクロビルはウイルスの持つthymidine kinase の存在下で活性型aciclo-ATP に変換され,これが chain terminator としてDNA合成を止める。正常な細胞のthymidine kinase ではこの変換は進行せず,また感染した細胞の薬剤取り込み増大,感受性亢進などもあり,選択的抗ウイルス作用が期待できる。従ってこのthymidine kinase を有するウイルスとしてHSV(1型,2型),VZVなどに有効であるが,なかにはthymidine kinase が欠損しているためにアシクロビルに耐性のウイルスも分離されている。正常な細胞は全く害を受けず,ヘルペス属ウイルスが感染した細胞のみが害を受ける1)。
帯状ヘルペスウイルスと単純ヘルペスウイルスのアシクロビル薬剤感受性は異なり,帯状ヘルペスウイルスの場合は4000 mg/日 服用であるが,単純ヘルペスウイルスの場合は1000 mg/日 服用となっている。
1000 mg/日 服用では反応を示さず,3000 mg/日 服用で不充分に反応し,4000 mg/日 服用で充分に反応したことより単純ヘルペスウイルス感染による倦怠感は考え難い。また発症より7ヶ月を経過した2000年1月6日採血の検査結果は帯状ヘルペスウイルス抗体(-)であり帯状ヘルペスウイルス感染も考え難い。帯状ヘルペスウイルスと同じ程度のアシクロビル薬剤感受性を持つ他のヘルペス属ウイルスによるものと推測される。
ストレスが過剰に掛かったとき,免疫機能が低下し,神経細胞内に潜伏していたある種のウイルスが増殖し,神経細胞は過敏状態となる。そこにある因子が加わり,発病に至る。そして神経細胞のある種のウイルスによる過敏状態が続き,精神疾患も続く。この神経細胞のある種のウイルス感染による過敏状態を軽症化あるいは沈静化させると,精神疾患は軽症化あるいは寛快する,と考えられる。
塩酸バラシクロビルはアシクロビルのプロドラッグであり,生物学的作用が高く,一日3回の服用で充分とされている。塩酸バラシクロビルがアシクロビルに代わり今後は主流になってゆくと思われる。
アシクロビル・塩酸バラシクロビルはヘルペス属ウイルスの増殖を阻止するのみであり,ヘルペス属ウイルスに罹患した神経細胞からヘルペス属ウイルスを駆逐することは不可能である。つまり神経細胞に潜伏しているヘルペス属ウイルスにはアシクロビル・塩酸バラシクロビルは効果が無いとされている1)。
神経細胞に潜伏しているヘルペス属ウイルスに対しても効果のある新薬の出現を待つしかないか,それともアシクロビル・塩酸バラシクロビルで充分であるか,未だ1症例であり,今後の症例の蓄積を待つ。
【最後に】
アシクロビル服用が社会恐怖には効果が無かったことは社会恐怖はウイルス感染ではないことを示唆していると単純には考えることができる。しかし,症例の社会恐怖が高校3年時(大学入試2次試験直前)からのものであり,うつ病性障害とは比較できないほど慢性化している。症例の社会恐怖はある領域の中枢神経細胞のウイルス感染に由来するものであるならば,その神経細胞は最低18年ウイルスに感染されており,長い年月のうちに大きな変性を起こしていると推察される。
ストレス過剰状態(大学入試2次試験直前)に置かれたとき,免疫力が低下し,ある領域の中枢神経細胞内に遺伝子の形で潜伏感染していたウイルスが活性化され増殖し,その領域の神経細胞が過敏状態となり,そして社会恐怖が発症したと考えられる。そしてその過敏状態が18年間続いていると考えられる。
【文献】
1)Tilson HH:Monitoring the safety of antiviral--the example of the aciclovir experience.Am J Med 116:187-189,1998
2)赤穂理絵,佐々木司:気分障害の遺伝.最新精神医学 11:324-329,1999
3)Anisman H:Vulnerability to depression: Contribution of stress.Neurology of mood disorders Vol 1,Williams & Wilkins,Baltimore,1984
----------------------------------------------------
*A case of taking aciclovir effected depressive disorders.
http://homepage2.nifty.com/mmm23232/2975.html
【臨床経験】
aciclovir・valacyclovir 服用が奏功するうつ病性障害の1例
*
【抄録】
aciclovir・valacyclovir 服用がうつ病性障害に奏功する症例を経験した。
aciclovir・valacyclovir はヘルペス属ウイルスの単純ヘルペス1型および2型・帯状ヘルペスに特異的に効果を示し、同じヘルペス属ウイルスのヒトヘルペス6型・Epstein-Barr・サイトメガロに対する効果は弱いとされている18)。
ヘルペス属ウイルスは神経親和性ウイルスとして有名である。ヘルペス属ウイルスは神経節の神経細胞内に遺伝子の型で潜伏する。そして過度の精神疲弊および身体疲弊などにより個体の免疫能が低下したときに潜伏ウイルスが活性化され神経細胞内で増殖する。aciclovir・valacyclovir はヘルペス属ウイルスの神経細胞内での増殖を阻止するのみの効力しか持たない18)。一時的軽症化のみであったことは、この症例のうつ病性障害はヘルペス属ウイルス感染症であったことを支持する。
「うつ病性障害は様々な要因により起こる。ヘルペス属ウイルスのある領域の中枢神経細胞の感染を基盤とすることもある。またはaciclovir ・valacyclovir に抗うつ作用が存在する可能性がある」と結論する。
【key words】aciclovir、valacyclovir、depressive disorders、herpes virus group
【症例】32歳、男性。未婚。
頭部CT:特記すべき所見なし。
神経学的:特記すべき所見なし。
脳波:特記すべき所見なし。
免疫学的所見:単純ヘルペス1型抗体陽性、単純ヘルペス2型抗体陰性、帯状ヘルペス抗体陰性(2000年1月6日採血)。
サイトメガロウイルス抗体価は2000年2月5日採血では4未満(基準値:4未満)であったが2000年5月26日採血では4以上に変化していた。また2000年10月9日採血では8以上に変化していた。
ヒトヘルペス6型・Epstein-barr ウイルスの抗体価は未計測。
HTLV-1(human T-cell leukemia virus type 1)および HIV-1,2 (human immunodeficiency virus type1 and type2)抗体価は基準値以下(2000年7月19日採血)
T・B細胞100分率:T細胞84%(基準値;66~89%)
B細胞 8%(基準値; 4~13%)(2000年4月1日採血)
生化学的所見:フェリチン精密 44 ng/dl(基準値;24~286)(2000年7月19日採血)
β-2 microglobline 1.5 ng/dl(基準値;1.0~1.9)(2000年7月19日採血)
(生育歴)正常分娩にて出生。幼少時より内向的傾向有るも、小学生時代より、成績優秀、性格穏和であり、人気者であった。現役時(18歳時)、大学受験に失敗。一浪後、現役時に容易に入れた大学に不本意ながら入学。それ故もあり、大学の授業へあまり出席せず。4年間で卒業できるところを8年懸かって卒業する。
000200000DE600000993DE0,(家族歴)特記すべきことなし。
(性格)真面目。努力家。勤勉。凝り性。素直。優しい。物事を非常に真っ直ぐに考える傾向がある。素直さ・優しさが目立ち、性格の障害はほとんど感じられない。
(既往歴)高校1年時、吃音を自覚。家人に依ると小学校時代より吃音が有ったと言う。しかし本人は気付かず。高校1年時、国語の授業中、国語の本を読むことが出来ないことに気付き、始めて自身が吃音であることに気付く。
高校3年時の大学入試2次試験直前、社会不安障害を発症。しかしスポーツに没頭していたためかこれが病気であることに気付かず。22歳時、運動部の退部と時を同じくして、吃音を苦にして精神科受診。このとき自身が社会不安障害であることに気付く。それよりbromazepam、 cloxazolam などのベンゾジアゼピン系抗不安薬を継続服用。
(現病歴)1999年5月18日本院初診。22歳時より社会不安障害と吃音に対し抗不安薬を投与されてきたこと、今まで幾つかの精神科の病院や医院を受診してきたこと、様々な抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬を試験的に服用してきたこと、社会不安障害が主な悩みで吃音は従であること、吃音は bromazepam、cloxazolam など筋弛緩作用の強いベンゾジアゼピン系抗不安薬に非常に良く反応すること、しかし社会不安障害は bromazepam などのベンゾジアゼピン系抗不安薬を服用しても不充分にしか反応しないこと、社会不安障害を抑えるには催眠鎮静薬に分類されている同じベンゾジアゼピン系薬剤であるロヒプノールの服用が必要であること、ロヒプノールを仕事中など対人緊張を抑える必要があるときには服用していることなどを述べる。bromazepam 20mg/日、 cloxazolam 12mg/日、 etizolam 3mg/日、ロヒプノール 4mg/日の投与にて治療開始。
症例はインターネットより日本で使用開始になる fluvoxamine が社会不安障害に効果が有ることを知る。5月30日来院時「インターネットより fluvoxamine が社会不安障害に効果が有るという文献を読みました」と fluvoxamine の投与を希望する。
1999年5月30日よりfluvoxamine の追加投与を開始。その頃より朝の起床困難と倦怠感出現。fluvoxamine の服用を中止した翌日は朝の起床困難と倦怠感が僅かながら軽い故に fluvoxamine の副作用が考えられた。しかし、職場の人間関係に悩み抜いていたこと、fluvoxamine の服用を中止すると倦怠感が僅かながら軽減すること、肝機能障害は極めて僅かしか存在しないこと、週末の大学での研究に行き詰まり悩み抜いていたこと、朝の強い起床困難と夜間は倦怠感がほとんど存在しないという日内変動が存在すること、症例が幼い頃より信仰してきた宗教団体の会合に出席すると朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化が5日間ほど続いた経験があること、それらよりうつ病性障害発症と fluvoxamine の副作用による朝の起床困難と倦怠感と症例は考えた。
しかし、朝の起床困難と倦怠感の出現とともに口唇ヘルペスも出現する。
症例は fluvoxamine の副作用の可能性を考えながらも社会不安障害で非常に悩み苦しんでいた故、筆者に朝の起床困難と倦怠感を隠し続け、社会不安障害を治したい一心で fluvoxamine 150mg/日 の服用を続ける。症例は肝機能障害には動物性蛋白が必要と考え、毎晩ステーキを大量に食するなどにより、2ヶ月間ほどで体重が65kgから86kgにまで増加した。
fluvoxamine の服用を3ヶ月間続ける。朝の起床困難と倦怠感は不変。また社会不安障害に対する効果も判然とせず。fluvoxamine 中止後、trazodone の投与を開始。しかし、trazodone は最初の数日間服用したのみで、その後は処方されるも服用せず。1999年8月より筆者には内緒にインターネットより fluoxetine を個人輸入し、その服用を開始していた。しかしこれにても症例の社会不安障害は軽症化の傾向を見せず。朝の起床困難と倦怠感もほぼ不変。更に本院よりsetiptiline、milnacipran などを処方するも、それらはあまり服用せず。社会不安障害に効果が有るというインターネットよりの情報を頼りにsertraline およびparoxetine をインターネットを介し個人輸入し、その服用を行う。しかし、これにても社会不安障害は軽症化の傾向を見せず。また朝の起床困難と倦怠感も不変。
0002000004DB000017734D5, 社長は症例に対し特別扱い状態であり、症例は出社すると自室のベットにて臥床するという毎日を繰り返していた。外国人客の来たときのみベットより起き出しネクタイを締め、その外国人客の応対をするという毎日を行っていた。他の部署に症例が顔を出すと厄介者扱いされる状態であった。外国人客が来たときに応対をするのみで充分という社長の方針のため会社を休むことを社長は許さなかったが、そのように仕事は非常に楽であった。
また、倦怠感のため、通訳の仕事に於いて、および書類作成に於いて、ミスが重なる。
抑うつ気分、物事への興味の減弱、罪業観念、希死念慮は存在せず、朝の起床困難と倦怠感が存在するのみであった。微熱は存在せず、慢性疲労症候群の診断基準は満たさないことを症例自身も理解していた。症例は慢性疲労症候群の一亜型と考え、インターネットより慢性疲労症候群およびそれに類する文献を比較的多量に読破し、慢性疲労症候群およびそれに関連するものの知識は比較的豊富であった。
1999年10月、症例は社会不安障害を癒したいためにインターネットを介してsertraline、paroxetine など社会不安障害に強い効能が有るとされる抗うつ薬を個人輸入して服用していることを筆者に告白。以後、本院からは抗不安薬のみ処方することとなる。
起床困難と倦怠感のため、休日はほとんど臥床状態であった。また、週末に大学の研究室へ行き、研究を重ねていたが、その研究も休止せざるを得なくなる。
000200000CB700001C48CB1, 症例は社会不安障害の治癒を願いSSRIに代わり2000年6月より服用していたmoclobemide を自身の社会不安障害に無効と判断し、2000年10月、服用中止する。同時にキノコ類大量摂取も、社会不安障害に無効であること、水煮を行うことの億劫さ、主にその2つの理由で中止する。また、この頃、吃音はベンゾジアゼピン系抗不安薬服用を必要としないほど軽症化していることを自覚する。
2000年12月中旬、希死念慮、悲哀感を自覚。自身がうつ病性障害であることを認める。moclobemideの服用およびキノコ類大量摂取を再開する。しかし、キノコ類大量摂取は、社会不安障害に効果がないこと、水煮を行うことが億劫であること、数回実施して以前経験した強い効果が感じられなかったこと、それらの理由で数回実施するのみで中止する。
2001年1月、正月休暇で故郷に帰省した帰り、自動車事故を起こす。症例は真面目な性格である故、自動車運転に於いて安全運転であり、毎日のように自動車の運転を行っていたが少なくとも過去10年間無事故であった。
2001年2月、再び自動車事故を起こす。
この頃より朝の起床困難は更に強くなる。ほぼ毎日の遅刻は30分程度であったのが1時間程度と強くなる。
trazodone を眠前に服用した翌朝は起床が比較的容易であり、trazodone を服用しない翌朝は起床が困難であることを繰り返し経験する。しかし、trazodone は朝の起床困難にのみ効果が有るだけであり、倦怠感は却って重症化すると言う。
症例はSSRI(serotonine selective reuptake inhibitor) を服用すると倦怠感だけでなく、性機能障害が惹起されることをインターネットより知り、そのため、その服用を好まなくなる。
amoxapine に朝の起床困難だけでなく倦怠感に対する効果も存在することを自覚するが、症例は抗コリン作用に敏感であり、また当院来院前、社会不安障害に対し imipramine の投与を長期間受け、前立腺肥大を起こし、前立腺肥大による排尿障害が重篤化する故、服用を好まない。
四環形抗うつ薬も弱いながら抗コリン作用が存在することと効果をほとんど自覚しない故、服用を好まない。
SNRI(serotonine noradrenarin reuptake inhibitor) も効果をほとんど自覚しないことと倦怠感が強くなるとして服用を好まない。
症例は現在もmoclobemide が自身に最も合うとしてmoclobemide の服用を続けている。
【aciclovir 服用】
1999年5月、うつ病性障害発症と時を同じくして口唇ヘルペス発症。vidarabine の軟膏およびaciclovir の軟膏を塗布することにて対処する。しかし口唇ヘルペスは vidarabine の軟膏塗布にて極く軽度軽症化するのみであり、aciclovir の軟膏塗布にて軽度軽症化していたのみであった。
1999年7月より単純疱疹の保健病名の下、月5日間のみ aciclovir 錠(200mg) 1日5錠処方を開始。aciclovir の軟膏塗布と併用するが口唇ヘルペスは軽度軽症化するのみに留まる。また、朝の起床困難と倦怠感はaciclovir 服用にても不変。
2001年3月、帯状疱疹の保健病名の下、aciclovir (200mg) 1日20錠を7日分処方。症例はこの1日20錠服用を7日間続ける。服用2日目より朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化が起こる。服用6日目に口唇ヘルペスの消失が起こる。そしてこの朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失は服用終了後、7日間ほど持続する。しかし服用終了後8日目ほどより朝の起床困難と倦怠感および口唇ヘルペスは再燃する。
症例はaciclovir 錠(200mg) 1日20錠服用している7日間、“朝悪く夜良い”という日内変動が消失し“1日中普通”という状態になる。それまで有った“夜間の絶好調”が無くなり、夜、早めに就寝する。これは「出勤中の半分以上は、いつも会社の自室のベットで横になっていたが、aciclovir を服用中は、それを行わなかったためだと思う」と言う。
00020000066D000028F9667, それまでどんなに早く就寝しても早朝は心も体も非常に重く、たとえトイレへ起きても再び床に着くということを繰り返していた。ところがこの7日間は午前6時に起床する。
2001年6月、aciclovir のインターネットよりの個人輸入(400 mg錠・100 錠)を行う。最初、3000 mg/日 服用を行い、その量では不充分に反応する。4000 mg/日 服用を行い2001年3月と同じように充分な反応を示した。うつ病性障害は再び寛快状態となる。社会不安障害の寛解を願い、6000mg/日 ほどの服用をも行う。しかしこれにても社会不安障害は不変に留まる。うつ病性障害は寛解状態を続ける。
個人輸入したaciclovir を服用し尽くし、aciclovir 服用中止後、10日ほどして再び「朝の起床困難と倦怠感を主としたうつ病性障害」再燃。
2001年10月、症例はaciclovir のプロドラッグであり1日3回の服用で充分という新しく開発されたvalacyclovir 500mg錠・42錠をインターネットより個人輸入する。aciclovir よりもvalacyclovir が僅かであるが安価であること、およびvalacyclovir の方が効果が高いのではないか、という考えからであった。症例は valacyclovir が到着すると3000mg/日 で充分とされているところを4000mg/日 のペースで服用。服用2日目より朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失が起こる。そして朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失は服用終了後、8日間ほど持続する。しかし服用終了後9日目頃より朝の起床困難と倦怠感および口唇ヘルペスは再燃する。また、社会不安障害は不変に留まる。
【考察】
うつ病性障害は精神的また肉体的疲弊などを基盤として発症することが知られている2,3)。この症例のうつ病性障害発症には職場の人間関係不良という精神的疲弊があった。また、週末は大学の研究室で研究を行ない、週日は夜遅くまでインターネットや書籍で研究を行うという肉体的疲弊があった。
症例は fluvoxamine による倦怠感を最も疑いながらも社会不安障害を治したい一心でfluvoxamine の服用を3ヶ月間行った。そしてインターネットより抗うつ薬が個人輸入できることを知ると fluoxetine、sertraline、paroxetine などを輸入し、これも社会不安障害を治したい一心で、その比較的大量服用を行う。しかし症例の社会不安障害は軽快せず。また朝の起床困難と倦怠感も不変。
症例は「自分の倦怠感はウイルス感染または悪性腫瘍のような内科的疾患から由来していると思う。」と頑迷に主張する。症例には抑うつ感は全く存在していなかった。私費も含め上記の検査を行う。
症例は自身の社会不安障害のため精神医学に関する書籍を大学時代の後半、多量に読破し、うつ病性障害の概念が出来上がっており、自身の病態がうつ病性障害の病態と異なるという考えは不変であった。症例のうつ病性障害の概念には仮面うつ病が欠如していた。
症例には倦怠感を早く治し、大学での研究を再開したい、という焦燥が強く存在していた。
症例は一民間企業に通訳のような存在として勤務していることに強い不満を持っており、論文を書き、大学教授に成るという野心を持っていた。また症例の性格特性として「頑固、執着性」というものが存在する。
ヘルペス属ウイルスは全世界に蔓延しているウイルスである。筆者の勤務する病院は顔面神経マヒ、帯状疱疹後神経痛を鍼にて治すことで有名であり、120例を越す患者のヘルペス抗体価を測定してある。
少なくとも筆者の統計上、単純ヘルペス1型抗体陽性の確率は90%、単純ヘルペス2型抗体陽性の確率は30%、帯状ヘルペス抗体陽性の確率は40%である。他のヘルペス属ウイルスの抗体価は未測定。
aciclovir はヘルペス属ウイルス、とくに単純ヘルペス、帯状ヘルペスに効果がある。他のヘルペス属ウイルスには効果はほとんどない。aciclovir・valacyclovir はウイルスの持つthymidine kinase の存在下で活性型aciclo-ATPに変換され、これがchain terminator としてDNA 合成を止める。正常細胞のthymidine kinase ではこの変換は進行せず、また感染細胞の薬剤取り込み増大、感受性亢進などもあり、選択的抗ウイルス作用が期待される。したがってこのthymidine kinase を有するウイルスとして単純ヘルペス1型および2型、帯状ヘルペスに特異的に効果を発揮する。つまり正常な細胞は全く害を受けず、thymidine kinase を持つウイルスが感染した細胞のみが害を受ける18)。
帯状ヘルペスウイルスと単純ヘルペスウイルスのaciclovir 薬剤感受性は異なり、帯状ヘルペスウイルスの場合は4000 mg/日 服用であるが、単純ヘルペスウイルスの場合は1000 mg/日 服用とされている18)。
1000 mg/日 服用では反応を示さず、3000 mg/日 服用で不充分に反応し、4000 mg/日 服用で充分に反応したことより単純ヘルペスウイルス感染による倦怠感は考え難く、帯状ヘルペスウイルスが考え易い。しかし発症より7ヶ月を経過した2000年1月6日採血の検査結果は帯状ヘルペスウイルス抗体(-)であり帯状ヘルペスウイルス感染は考え難い。帯状ヘルペスウイルスと同じ程度のaciclovir 薬剤感受性を持つ他のヘルペス属ウイルスによるものと考えることができる18)。
サイトメガロウイルス抗体価の上昇が起こっているが「2000年2月5日採血では4未満(基準値:4未満)。2000年5月26日採血では4以上。2000年10月9日採血では8以上」であり、うつ病性障害の発症が1999年5月末と推定されることと、サイトメガロウイルスはaciclovir・valacyclovir にほとんど反応しないことになっている故18)、考え難い。
ストレスが過剰に掛かったとき、免疫機能が低下し、神経細胞内に遺伝子の型として潜伏していたある種のウイルスが増殖し、神経細胞が過敏状態となり、発病に至る。そして神経細胞のある種のウイルスによる過敏状態が続き、精神疾患も続く。この神経細胞のある種のウイルス感染による過敏状態を軽症化あるいは沈静化させると、精神疾患は軽症化あるいは寛快する、と考えることができる。
aciclovir・valacyclovir はヘルペス属ウイルスの増殖を阻止するのみであり、ヘルペス属ウイルスに罹患した神経細胞からヘルペス属ウイルスを駆逐することは不可能である。つまり神経細胞に遺伝子の型で潜伏しているヘルペス属ウイルスにはaciclovir・valacyclovir は効果が無いとされている17)。
aciclovir・valacyclovir 服用中、症例は抗うつ薬を全く服用していない。aciclovir・valacyclovir を充分量服用中は抗うつ薬を服用する必要性は全く感じなかったからである、と言う。
aciclovir・valacyclovir に抗うつ作用があるのか、この症例のうつ病性障害にはヘルペス属ウイルス感染が深く関わっていたのか、判別は付かない。
【最後に】
抗うつ薬の副作用に過敏に反応し、sulpiride以外は服用できず遷延化しているうつ病性障害の患者がしばしば存在する。このような患者にaciclovir・valacyclovir を試みに服用させるべきと考える。
【文献】
1)赤穂理絵、佐々木司:気分障害の遺伝.最新精神医学 11:324-329、1999
2)Anisman H:Vulnerability to depression, Contribution of stress.Neurology of mood disorders Vol.1、Williams & Wilkins、Baltimore、1984
3)Chrousos GP, Gold PW:The concepts of stress and stress system disorders. Overview of physical and behavioral homeostasis.JAMA:1244-1252、1992
4)Deresiewicz RL, Thaler SJ, Hsu L et al:Clinical and neuroradiographic manifestations of eastern equine encephalitis.N Engl J Med:1867-1874、1997
0002000009D4000041B89CE,5)Dunn V, Bale JF, Zimmerman RA:MRI in children with post-infectious disseminated encephalomyelitis.Magn Reson Imaging:25-32、1986
6)Johnson RT:The pathogeneses of acute viral encephalitis and postinfectious encephalitis.J Infect Dis:359-364、1987
7)McCullers JA, Lakeman FD, Whitley RJ:Human herpes virus 6 is associated with focal encephalitis.Clin Infect Dis:571-576、1995
8)Merikangas KR, Kupfer DJ:Mood disorders, generic aspect.In:HI Kaplan, BJ Sadock (eds) Comprehensive Textbook of Psychiatry-Ⅵ、Williams &Wilkins、Baltimore、1995
9)Mizuno T et al:Special issue on mushrooms, bioactive substances and medical utilization.Food Rev.11(1):1-236、1995
10)Mizuno T et al:Special issue on mushrooms, breeding and cultivation.Food Rev.13(3):327-518、1997
11)Mizuno T et al:The extraction and development of anti-tumor-active polysaccharides from medical mushroom in japan.J of Med Mushrooms.1(1):9-29、1999
12)Mizuno T et al:Bioactive substances in yamabushitake, and its medical utilization.J of Med Mushrooms.1(2):105-119、1999
13)小田垣雄二:塩酸amantadine 投与により劇的な改善を示した難治性うつ病の1症例.臨床精神医学:465-469、1999
14)Richard T Johnson:植木幸明訳、金沢光男監訳:神経系のウイルス感染症.西村書店、東京、1987
15)Robert HA:Enteroviral infections of the central nervous system.Clin Infect Dis:971-981、1998
16)七戸満雄:メニエール病に対するaciclovir の治療効果.医学の歩み 169:796、1994
17)七戸満雄:メニエール病に対するaciclovir の治療効果(第二報).診療と治療 82:1860、1994
18)Tilson HH:Monitoring the safety of antiviral--the example of the aciclovir experience.Am J Med:116-122、1996
19)William LL:Evidence of persistent viral infection on Meniere's disease.Arch Otolaryngol Head Neck Surg 113:397、1987
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aciclovir・valacyclovir 服用が奏功するうつ病性障害の1例
A case of depressive disorders, which was very efficacious taking of aciclovir and valacyclovir.
http://homepage2.nifty.com/mmm23232/2975.html
aciclovir・valacyclovir 服用が奏功するうつ病性障害の1例
*
【抄録】
aciclovir・valacyclovir 服用がうつ病性障害に奏功する症例を経験した。
aciclovir・valacyclovir はヘルペス属ウイルスの単純ヘルペス1型および2型・帯状ヘルペスに特異的に効果を示し、同じヘルペス属ウイルスのヒトヘルペス6型・Epstein-Barr・サイトメガロに対する効果は弱いとされている18)。
ヘルペス属ウイルスは神経親和性ウイルスとして有名である。ヘルペス属ウイルスは神経節の神経細胞内に遺伝子の型で潜伏する。そして過度の精神疲弊および身体疲弊などにより個体の免疫能が低下したときに潜伏ウイルスが活性化され神経細胞内で増殖する。aciclovir・valacyclovir はヘルペス属ウイルスの神経細胞内での増殖を阻止するのみの効力しか持たない18)。一時的軽症化のみであったことは、この症例のうつ病性障害はヘルペス属ウイルス感染症であったことを支持する。
「うつ病性障害は様々な要因により起こる。ヘルペス属ウイルスのある領域の中枢神経細胞の感染を基盤とすることもある。またはaciclovir ・valacyclovir に抗うつ作用が存在する可能性がある」と結論する。
【key words】aciclovir、valacyclovir、depressive disorders、herpes virus group
【症例】32歳、男性。未婚。
頭部CT:特記すべき所見なし。
神経学的:特記すべき所見なし。
脳波:特記すべき所見なし。
免疫学的所見:単純ヘルペス1型抗体陽性、単純ヘルペス2型抗体陰性、帯状ヘルペス抗体陰性(2000年1月6日採血)。
サイトメガロウイルス抗体価は2000年2月5日採血では4未満(基準値:4未満)であったが2000年5月26日採血では4以上に変化していた。また2000年10月9日採血では8以上に変化していた。
ヒトヘルペス6型・Epstein-barr ウイルスの抗体価は未計測。
HTLV-1(human T-cell leukemia virus type 1)および HIV-1,2 (human immunodeficiency virus type1 and type2)抗体価は基準値以下(2000年7月19日採血)
T・B細胞100分率:T細胞84%(基準値;66~89%)
B細胞 8%(基準値; 4~13%)(2000年4月1日採血)
生化学的所見:フェリチン精密 44 ng/dl(基準値;24~286)(2000年7月19日採血)
β-2 microglobline 1.5 ng/dl(基準値;1.0~1.9)(2000年7月19日採血)
(生育歴)正常分娩にて出生。幼少時より内向的傾向有るも、小学生時代より、成績優秀、性格穏和であり、人気者であった。現役時(18歳時)、大学受験に失敗。一浪後、現役時に容易に入れた大学に不本意ながら入学。それ故もあり、大学の授業へあまり出席せず。4年間で卒業できるところを8年懸かって卒業する。
000200000DE600000993DE0,(家族歴)特記すべきことなし。
(性格)真面目。努力家。勤勉。凝り性。素直。優しい。物事を非常に真っ直ぐに考える傾向がある。素直さ・優しさが目立ち、性格の障害はほとんど感じられない。
(既往歴)高校1年時、吃音を自覚。家人に依ると小学校時代より吃音が有ったと言う。しかし本人は気付かず。高校1年時、国語の授業中、国語の本を読むことが出来ないことに気付き、始めて自身が吃音であることに気付く。
高校3年時の大学入試2次試験直前、社会不安障害を発症。しかしスポーツに没頭していたためかこれが病気であることに気付かず。22歳時、運動部の退部と時を同じくして、吃音を苦にして精神科受診。このとき自身が社会不安障害であることに気付く。それよりbromazepam、 cloxazolam などのベンゾジアゼピン系抗不安薬を継続服用。
(現病歴)1999年5月18日本院初診。22歳時より社会不安障害と吃音に対し抗不安薬を投与されてきたこと、今まで幾つかの精神科の病院や医院を受診してきたこと、様々な抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬を試験的に服用してきたこと、社会不安障害が主な悩みで吃音は従であること、吃音は bromazepam、cloxazolam など筋弛緩作用の強いベンゾジアゼピン系抗不安薬に非常に良く反応すること、しかし社会不安障害は bromazepam などのベンゾジアゼピン系抗不安薬を服用しても不充分にしか反応しないこと、社会不安障害を抑えるには催眠鎮静薬に分類されている同じベンゾジアゼピン系薬剤であるロヒプノールの服用が必要であること、ロヒプノールを仕事中など対人緊張を抑える必要があるときには服用していることなどを述べる。bromazepam 20mg/日、 cloxazolam 12mg/日、 etizolam 3mg/日、ロヒプノール 4mg/日の投与にて治療開始。
症例はインターネットより日本で使用開始になる fluvoxamine が社会不安障害に効果が有ることを知る。5月30日来院時「インターネットより fluvoxamine が社会不安障害に効果が有るという文献を読みました」と fluvoxamine の投与を希望する。
1999年5月30日よりfluvoxamine の追加投与を開始。その頃より朝の起床困難と倦怠感出現。fluvoxamine の服用を中止した翌日は朝の起床困難と倦怠感が僅かながら軽い故に fluvoxamine の副作用が考えられた。しかし、職場の人間関係に悩み抜いていたこと、fluvoxamine の服用を中止すると倦怠感が僅かながら軽減すること、肝機能障害は極めて僅かしか存在しないこと、週末の大学での研究に行き詰まり悩み抜いていたこと、朝の強い起床困難と夜間は倦怠感がほとんど存在しないという日内変動が存在すること、症例が幼い頃より信仰してきた宗教団体の会合に出席すると朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化が5日間ほど続いた経験があること、それらよりうつ病性障害発症と fluvoxamine の副作用による朝の起床困難と倦怠感と症例は考えた。
しかし、朝の起床困難と倦怠感の出現とともに口唇ヘルペスも出現する。
症例は fluvoxamine の副作用の可能性を考えながらも社会不安障害で非常に悩み苦しんでいた故、筆者に朝の起床困難と倦怠感を隠し続け、社会不安障害を治したい一心で fluvoxamine 150mg/日 の服用を続ける。症例は肝機能障害には動物性蛋白が必要と考え、毎晩ステーキを大量に食するなどにより、2ヶ月間ほどで体重が65kgから86kgにまで増加した。
fluvoxamine の服用を3ヶ月間続ける。朝の起床困難と倦怠感は不変。また社会不安障害に対する効果も判然とせず。fluvoxamine 中止後、trazodone の投与を開始。しかし、trazodone は最初の数日間服用したのみで、その後は処方されるも服用せず。1999年8月より筆者には内緒にインターネットより fluoxetine を個人輸入し、その服用を開始していた。しかしこれにても症例の社会不安障害は軽症化の傾向を見せず。朝の起床困難と倦怠感もほぼ不変。更に本院よりsetiptiline、milnacipran などを処方するも、それらはあまり服用せず。社会不安障害に効果が有るというインターネットよりの情報を頼りにsertraline およびparoxetine をインターネットを介し個人輸入し、その服用を行う。しかし、これにても社会不安障害は軽症化の傾向を見せず。また朝の起床困難と倦怠感も不変。
0002000004DB000017734D5, 社長は症例に対し特別扱い状態であり、症例は出社すると自室のベットにて臥床するという毎日を繰り返していた。外国人客の来たときのみベットより起き出しネクタイを締め、その外国人客の応対をするという毎日を行っていた。他の部署に症例が顔を出すと厄介者扱いされる状態であった。外国人客が来たときに応対をするのみで充分という社長の方針のため会社を休むことを社長は許さなかったが、そのように仕事は非常に楽であった。
また、倦怠感のため、通訳の仕事に於いて、および書類作成に於いて、ミスが重なる。
抑うつ気分、物事への興味の減弱、罪業観念、希死念慮は存在せず、朝の起床困難と倦怠感が存在するのみであった。微熱は存在せず、慢性疲労症候群の診断基準は満たさないことを症例自身も理解していた。症例は慢性疲労症候群の一亜型と考え、インターネットより慢性疲労症候群およびそれに類する文献を比較的多量に読破し、慢性疲労症候群およびそれに関連するものの知識は比較的豊富であった。
1999年10月、症例は社会不安障害を癒したいためにインターネットを介してsertraline、paroxetine など社会不安障害に強い効能が有るとされる抗うつ薬を個人輸入して服用していることを筆者に告白。以後、本院からは抗不安薬のみ処方することとなる。
起床困難と倦怠感のため、休日はほとんど臥床状態であった。また、週末に大学の研究室へ行き、研究を重ねていたが、その研究も休止せざるを得なくなる。
000200000CB700001C48CB1, 症例は社会不安障害の治癒を願いSSRIに代わり2000年6月より服用していたmoclobemide を自身の社会不安障害に無効と判断し、2000年10月、服用中止する。同時にキノコ類大量摂取も、社会不安障害に無効であること、水煮を行うことの億劫さ、主にその2つの理由で中止する。また、この頃、吃音はベンゾジアゼピン系抗不安薬服用を必要としないほど軽症化していることを自覚する。
2000年12月中旬、希死念慮、悲哀感を自覚。自身がうつ病性障害であることを認める。moclobemideの服用およびキノコ類大量摂取を再開する。しかし、キノコ類大量摂取は、社会不安障害に効果がないこと、水煮を行うことが億劫であること、数回実施して以前経験した強い効果が感じられなかったこと、それらの理由で数回実施するのみで中止する。
2001年1月、正月休暇で故郷に帰省した帰り、自動車事故を起こす。症例は真面目な性格である故、自動車運転に於いて安全運転であり、毎日のように自動車の運転を行っていたが少なくとも過去10年間無事故であった。
2001年2月、再び自動車事故を起こす。
この頃より朝の起床困難は更に強くなる。ほぼ毎日の遅刻は30分程度であったのが1時間程度と強くなる。
trazodone を眠前に服用した翌朝は起床が比較的容易であり、trazodone を服用しない翌朝は起床が困難であることを繰り返し経験する。しかし、trazodone は朝の起床困難にのみ効果が有るだけであり、倦怠感は却って重症化すると言う。
症例はSSRI(serotonine selective reuptake inhibitor) を服用すると倦怠感だけでなく、性機能障害が惹起されることをインターネットより知り、そのため、その服用を好まなくなる。
amoxapine に朝の起床困難だけでなく倦怠感に対する効果も存在することを自覚するが、症例は抗コリン作用に敏感であり、また当院来院前、社会不安障害に対し imipramine の投与を長期間受け、前立腺肥大を起こし、前立腺肥大による排尿障害が重篤化する故、服用を好まない。
四環形抗うつ薬も弱いながら抗コリン作用が存在することと効果をほとんど自覚しない故、服用を好まない。
SNRI(serotonine noradrenarin reuptake inhibitor) も効果をほとんど自覚しないことと倦怠感が強くなるとして服用を好まない。
症例は現在もmoclobemide が自身に最も合うとしてmoclobemide の服用を続けている。
【aciclovir 服用】
1999年5月、うつ病性障害発症と時を同じくして口唇ヘルペス発症。vidarabine の軟膏およびaciclovir の軟膏を塗布することにて対処する。しかし口唇ヘルペスは vidarabine の軟膏塗布にて極く軽度軽症化するのみであり、aciclovir の軟膏塗布にて軽度軽症化していたのみであった。
1999年7月より単純疱疹の保健病名の下、月5日間のみ aciclovir 錠(200mg) 1日5錠処方を開始。aciclovir の軟膏塗布と併用するが口唇ヘルペスは軽度軽症化するのみに留まる。また、朝の起床困難と倦怠感はaciclovir 服用にても不変。
2001年3月、帯状疱疹の保健病名の下、aciclovir (200mg) 1日20錠を7日分処方。症例はこの1日20錠服用を7日間続ける。服用2日目より朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化が起こる。服用6日目に口唇ヘルペスの消失が起こる。そしてこの朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失は服用終了後、7日間ほど持続する。しかし服用終了後8日目ほどより朝の起床困難と倦怠感および口唇ヘルペスは再燃する。
症例はaciclovir 錠(200mg) 1日20錠服用している7日間、“朝悪く夜良い”という日内変動が消失し“1日中普通”という状態になる。それまで有った“夜間の絶好調”が無くなり、夜、早めに就寝する。これは「出勤中の半分以上は、いつも会社の自室のベットで横になっていたが、aciclovir を服用中は、それを行わなかったためだと思う」と言う。
00020000066D000028F9667, それまでどんなに早く就寝しても早朝は心も体も非常に重く、たとえトイレへ起きても再び床に着くということを繰り返していた。ところがこの7日間は午前6時に起床する。
2001年6月、aciclovir のインターネットよりの個人輸入(400 mg錠・100 錠)を行う。最初、3000 mg/日 服用を行い、その量では不充分に反応する。4000 mg/日 服用を行い2001年3月と同じように充分な反応を示した。うつ病性障害は再び寛快状態となる。社会不安障害の寛解を願い、6000mg/日 ほどの服用をも行う。しかしこれにても社会不安障害は不変に留まる。うつ病性障害は寛解状態を続ける。
個人輸入したaciclovir を服用し尽くし、aciclovir 服用中止後、10日ほどして再び「朝の起床困難と倦怠感を主としたうつ病性障害」再燃。
2001年10月、症例はaciclovir のプロドラッグであり1日3回の服用で充分という新しく開発されたvalacyclovir 500mg錠・42錠をインターネットより個人輸入する。aciclovir よりもvalacyclovir が僅かであるが安価であること、およびvalacyclovir の方が効果が高いのではないか、という考えからであった。症例は valacyclovir が到着すると3000mg/日 で充分とされているところを4000mg/日 のペースで服用。服用2日目より朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失が起こる。そして朝の起床困難と倦怠感の劇的な軽症化および口唇ヘルペスの消失は服用終了後、8日間ほど持続する。しかし服用終了後9日目頃より朝の起床困難と倦怠感および口唇ヘルペスは再燃する。また、社会不安障害は不変に留まる。
【考察】
うつ病性障害は精神的また肉体的疲弊などを基盤として発症することが知られている2,3)。この症例のうつ病性障害発症には職場の人間関係不良という精神的疲弊があった。また、週末は大学の研究室で研究を行ない、週日は夜遅くまでインターネットや書籍で研究を行うという肉体的疲弊があった。
症例は fluvoxamine による倦怠感を最も疑いながらも社会不安障害を治したい一心でfluvoxamine の服用を3ヶ月間行った。そしてインターネットより抗うつ薬が個人輸入できることを知ると fluoxetine、sertraline、paroxetine などを輸入し、これも社会不安障害を治したい一心で、その比較的大量服用を行う。しかし症例の社会不安障害は軽快せず。また朝の起床困難と倦怠感も不変。
症例は「自分の倦怠感はウイルス感染または悪性腫瘍のような内科的疾患から由来していると思う。」と頑迷に主張する。症例には抑うつ感は全く存在していなかった。私費も含め上記の検査を行う。
症例は自身の社会不安障害のため精神医学に関する書籍を大学時代の後半、多量に読破し、うつ病性障害の概念が出来上がっており、自身の病態がうつ病性障害の病態と異なるという考えは不変であった。症例のうつ病性障害の概念には仮面うつ病が欠如していた。
症例には倦怠感を早く治し、大学での研究を再開したい、という焦燥が強く存在していた。
症例は一民間企業に通訳のような存在として勤務していることに強い不満を持っており、論文を書き、大学教授に成るという野心を持っていた。また症例の性格特性として「頑固、執着性」というものが存在する。
ヘルペス属ウイルスは全世界に蔓延しているウイルスである。筆者の勤務する病院は顔面神経マヒ、帯状疱疹後神経痛を鍼にて治すことで有名であり、120例を越す患者のヘルペス抗体価を測定してある。
少なくとも筆者の統計上、単純ヘルペス1型抗体陽性の確率は90%、単純ヘルペス2型抗体陽性の確率は30%、帯状ヘルペス抗体陽性の確率は40%である。他のヘルペス属ウイルスの抗体価は未測定。
aciclovir はヘルペス属ウイルス、とくに単純ヘルペス、帯状ヘルペスに効果がある。他のヘルペス属ウイルスには効果はほとんどない。aciclovir・valacyclovir はウイルスの持つthymidine kinase の存在下で活性型aciclo-ATPに変換され、これがchain terminator としてDNA 合成を止める。正常細胞のthymidine kinase ではこの変換は進行せず、また感染細胞の薬剤取り込み増大、感受性亢進などもあり、選択的抗ウイルス作用が期待される。したがってこのthymidine kinase を有するウイルスとして単純ヘルペス1型および2型、帯状ヘルペスに特異的に効果を発揮する。つまり正常な細胞は全く害を受けず、thymidine kinase を持つウイルスが感染した細胞のみが害を受ける18)。
帯状ヘルペスウイルスと単純ヘルペスウイルスのaciclovir 薬剤感受性は異なり、帯状ヘルペスウイルスの場合は4000 mg/日 服用であるが、単純ヘルペスウイルスの場合は1000 mg/日 服用とされている18)。
1000 mg/日 服用では反応を示さず、3000 mg/日 服用で不充分に反応し、4000 mg/日 服用で充分に反応したことより単純ヘルペスウイルス感染による倦怠感は考え難く、帯状ヘルペスウイルスが考え易い。しかし発症より7ヶ月を経過した2000年1月6日採血の検査結果は帯状ヘルペスウイルス抗体(-)であり帯状ヘルペスウイルス感染は考え難い。帯状ヘルペスウイルスと同じ程度のaciclovir 薬剤感受性を持つ他のヘルペス属ウイルスによるものと考えることができる18)。
サイトメガロウイルス抗体価の上昇が起こっているが「2000年2月5日採血では4未満(基準値:4未満)。2000年5月26日採血では4以上。2000年10月9日採血では8以上」であり、うつ病性障害の発症が1999年5月末と推定されることと、サイトメガロウイルスはaciclovir・valacyclovir にほとんど反応しないことになっている故18)、考え難い。
ストレスが過剰に掛かったとき、免疫機能が低下し、神経細胞内に遺伝子の型として潜伏していたある種のウイルスが増殖し、神経細胞が過敏状態となり、発病に至る。そして神経細胞のある種のウイルスによる過敏状態が続き、精神疾患も続く。この神経細胞のある種のウイルス感染による過敏状態を軽症化あるいは沈静化させると、精神疾患は軽症化あるいは寛快する、と考えることができる。
aciclovir・valacyclovir はヘルペス属ウイルスの増殖を阻止するのみであり、ヘルペス属ウイルスに罹患した神経細胞からヘルペス属ウイルスを駆逐することは不可能である。つまり神経細胞に遺伝子の型で潜伏しているヘルペス属ウイルスにはaciclovir・valacyclovir は効果が無いとされている17)。
aciclovir・valacyclovir 服用中、症例は抗うつ薬を全く服用していない。aciclovir・valacyclovir を充分量服用中は抗うつ薬を服用する必要性は全く感じなかったからである、と言う。
aciclovir・valacyclovir に抗うつ作用があるのか、この症例のうつ病性障害にはヘルペス属ウイルス感染が深く関わっていたのか、判別は付かない。
【最後に】
抗うつ薬の副作用に過敏に反応し、sulpiride以外は服用できず遷延化しているうつ病性障害の患者がしばしば存在する。このような患者にaciclovir・valacyclovir を試みに服用させるべきと考える。
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aciclovir・valacyclovir 服用が奏功するうつ病性障害の1例
A case of depressive disorders, which was very efficacious taking of aciclovir and valacyclovir.
http://homepage2.nifty.com/mmm23232/2975.html