映画「犬神家の一族」をブログに書いていた際、偶然ネット上で見かけた上の画像。
桜吹雪の中を走る狂気。
あ~、なんかある意味、美しさすら感じます(文学的には)。
そうそう、これは「八つ墓村」の登場人物、多治見要蔵による32人殺しのワンシーン。凄惨なエピソードなので不謹慎と言われそうですが、このシーンだけはそう思えてしまうのだから仕方がないです。
そこでこのカットを見たいがために、今まで断片的にしか観た事のなかった1977年版映画「八つ墓村」を折角なのできちんと観てみる事にしました。

原作の方は未読なので細かい所までは言えませんが、この「八つ墓村」は故・横溝正史氏の代表作の一つに挙げられる作品なので、昭和20年代の農村の因習や伝奇に彩られながらも、古典的本格ミステリーの枠を踏み外さない作品のはずです。しかしこの映画はそんな原作の趣きを映像化するに当たって、大きな変更の決断をしたようです。映画「犬神家の一族」ですら、しっかり推理物の範疇に入っているのですが、この1977年版「八つ墓村」は推理物の要素を大幅に切り落とし、ほとんど「祟り」「因縁」を前面に押し出したホラーミステリーとして仕上がっています。
これをどうとるかは人それぞれでしょうね。
多分、金田一耕助ファンの人にとっては不本意な映画でしょう。金田一による謎解きの醍醐味はかなり乏しく、最終的に彼がこの事件でやった事は登場人物らの先祖を調べて「戦慄すべき因縁」を明らかにした事、それくらいです。
しかし、それは無理もないでしょう。
「八つ墓村」に限らず、原作者の長編作品を2時間の尺に納める事は実際的になかなか困難な仕事です。詰め込み過ぎると視聴者が付いていけず、きれいにまとめようとすると設定を変更・簡略化するしかなく、それでは謎解きの魅力が半減します。これまでの監督や脚本家らは常にその二律背反と闘ってきたのでしょう。
この映画の故・野村芳太郎監督は「伝奇ホラーミステリー」とする事で、その課題に挑んだのだと思われます。
それもありかな、と梅之助は思いますね。そういう点で眺めてみれば、それなりにまとまった作品だと思います。もっと謎解きに力点を置けば、恐らく上に掲げたシーンなどは誕生しなかったと思うし。

で、画像の多治見要蔵役は山崎努さん。凄いとしか言いようがありません。
主役の萩原健一さんら他の出演者もよかったし、特に小川真由美さんがなかなか大人の女性を演じていたのは個人的にいい発見でした(ラストの演出はちょっと・・・と思うけれど、それ自体は彼女のせいではないし)。
残念なのが、金田一役の故・渥美清さんがやっぱり「寅さん」にしか見えなかった事、磯川警部役の人にイマイチ馴染めなかった事などですね。

DVDのジャケット、引用画像のシーンなんだけれど、やっぱりすごく綺麗な構図だな。
 

 

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