20代までに出会えれば幸運、30代では不幸、結婚してから出会ってしまえば目も当てられない。
これが本書に対する感想ってところ。
著者が20代後半の1970年代前半頃の旅行体験をもとに書かれているようです。その割には執筆発表は遅く、最終的には1992年に最終章が発表されています。文庫本は全6冊ですが、分量は各章多いものではないのでスラスラ読めます。
内容は、著者の友人との賭けである「インドのデリーからロンドンまで乗合バスで行く事が出来るか?」がメインテーマとなりながら、その前段階の香港、マカオ、マレー編なども書かれ、バックパッカーのバイブル的な本と言えます。

この本が何故に旅本のバイブルなのか、今なお多くの人の心をとらえて離さないのかは、単なる紀行文の範疇を出て「旅と人生の相似性」や「旅が内包する危険性(物理的な意味ではない)」など、旅(特に自分探しの長旅など)そのものが持つ深い本質的な内容を説得力のある言葉で主人公である旅人(著者)に語らせているからでしょう。ここまで踏み込んだ「旅本」はなかなかお目にかかれません。ただの紀行文ならばそんな感情も起きないでしょうけれど、こういった+α(むしろこの部分がこの本の本質)が読者の心に麻薬のように働きかけるものですから、無性に一人長旅にあこがれてしまいます。
梅之助などは、著者が旅の幕引きを決断したポルトガルのサグレス海岸へ行ってみたい、とさえ思うようになりました。

あなたが学生なら思い切ってやって見るのもいい。
あなたがまだ20代の社会人ならば、仕事をやめて・・・という選択肢もあるかもしれない。
しかし30を越えて結婚し家庭を持ってからこの本に出会ってしまった梅之助には、方策がありません。とんでもない毒書を読んでしまい、憧れと現実に悶々とするしか。。。。。

約15年ほど前に、大沢たかおさんを主演に確か3年くらいにわたってTV化された事があります。実はこれをきっかけに本書を読んでみたのですが、TV版もなかなか良かったですよ。特に挿入歌の井上陽水さんの「積荷のない船」がとてもマッチしていました。

 


余談ですがこの曲、サックスがとても哀愁を帯びていて印象深いですが、この部分シンセサイザーで演奏しているのだそうです。信じられない!

 

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