
「キネマの神様」は山田洋次が”遺作”のつもりで撮った映画だ。
ワタクシ、遅ればせながら、晴れてコロナワクチン接種の目途がつきまして、ホッとしてます。
3連休初日の8月7日土曜日、ワタクシは何故かイオンシネマ大日まで赴きまして、
山田洋次監督の最新作「キネマの神様」を鑑賞。
この作品は、劇場の仕打(興行主)を起源とする白井松次郎&大谷竹次郎兄弟が代表を務める、
松竹(まつたけ)合名会社が1920年に映画事業進出と蒲田撮影所を創設して、100年を迎え、
(1937年に松竹の屋号の読み方が「まつたけ」から「しょうちく」に変更。)
松竹一筋で、「男はつらいよ」シリーズに限らず、様々なジャンルの実写映画を撮ってきた山田洋次監督が、
原田マハの小説「キネマの神様」を原作とし、山田監督と朝原雄三が大胆なアレンジを施し映画化。
2020年3月に志村けん&菅田将暉のW主演でクランクインを迎えるはずでしたが、
前月から新型コロナウイルス(COVID-19)の猛威が日本を直撃し、
3月末に志村けんが新型コロナウイルスに殺され、
それに追い打ちをかけるかのように4月に最初の緊急事態宣言が発令され、長期中断を余儀なくされた。
こんな状況でも、山田監督は世相を反映させようと脚本を再構築し、
沢田研二が(親友である)志村けんの想いに応えたいと主演オファーを快諾し、
感染症対策を万全にして撮影再開し、(一般公開日である)8月6日に日の目を見ることに。
観たら、山田監督の映画への愛情がこもっていたわ。
コロナの猛威が忍び寄る2019年の東京。
雑誌の編集部で契約社員として働いている円山歩(寺島しのぶ)は、
突然、父・円山郷直(沢田研二)の借金の催促に悩まされ、母・円山淑子(宮本信子)と共に、
ギャンブルとアルコールに溺れている郷直を厚生させようと、かつて持っていた映画への情熱を甦らせようとする。
まずは、郷直とは松竹撮影所時代の親友である寺林新太郎(小林稔侍)が経営する名画座・テアトル銀幕へ。
舞台は約半世紀前の松竹撮影所に移る。
助監督として出水宏監督(リリー・フランキー)に師事し汗を流している郷直(菅田将暉)は、
試写室の映写技師・新太郎(RADWIMPS・野田洋次郎)、
看板女優の桂園子(北川景子)、撮影所近くの食堂の看板娘・淑子(永野芽郁)に囲まれ、
ひたすら夢を追いかけ、青春を謳歌していたが、郷直は新太郎、淑子との三角関係に挟まれることに。
晴れて初監督のチャンスを迎えたんですが、緊張から腹痛を連発、細かい画面設定でベテランスタッフと衝突、
そして、転落事故で大けがを負い、絶望的になった郷直は撮影所を辞職し、岡山の実家に帰郷。
淑子は周囲の反対を押し切って郷直を追いかけた。
再び2019年。
歩の息子の勇太(前田旺志郎)が、慎太郎から預かっていた古びた映画の脚本を手に取る。
その作品のタイトルは、「キネマの神様」。
それはゴウが初監督の時、撮影を放棄した作品だった。
勇太はその脚本の面白さに感動し、現代版に書き直して脚本賞に応募しようとゴウに提案することに。
1961年に「二階の他人」で映画監督としてのキャリアをスタートした山田洋次監督が、
監督生活60年間の想いをこれでもかと詰め込み、詰め込み、詰め込んだ、映画への愛情がこもっていた映画で、
これは山田洋次監督が、”遺作”のつもりで撮った気マンマンやなと。
大げさな話かもしれないが、山田洋次監督も御年89歳。
年齢的なこと、映画界を取り巻く環境の変化、そして、止む気配を見せないコロナ禍で、
監督自身の行動力にも限界を感じており、
原田マハの代表作を、コロナ禍を反映させた”原作レイプ”を敢行し、
こんな素晴らしい映画を撮ったことは評価に値する。
この映画を見て、助監督たたき上げが常識だった蒲田撮影所時代の映画製作って、
こんな感じやなとつくづく思ったわ。
沢田研二の演技を見て、亡き志村けんの想いを受け継いでいてて、
山田洋次監督の作品によくみられる落語口調のセリフ回しも手伝って、
無理せず、気取らず、自由奔放に演じていたのがわかるわ。
青年期パートの菅田将暉も、夢をひたすら追い求めた青年の夢と挫折を表現しており、
現代パートの堕落っぷりにつないでいるのがわかるわ。
北川景子は、今回演じた役が、小津安二郎監督のミューズである原節子がモデルで、
これが蒲田撮影所の象徴やなとつくづく思ったわ。
この「キネマの神様」を山田洋次監督の”遺作”にしないでほしい。
チャレンジ精神にあふれた作品を撮り続けてほしい。