【番外編】秋本治が描いた”トキワ荘”時代。
1月4日に発売済みのジャンプスクエア2月号で、「こち亀」の秋本治氏が読切「時は・・・」を発表した。
ぶっちゃけ、この読切は、心と胃袋にズシンと重くのしかかりました。
本当に漫画を愛している人間、
メディアミックス化戦略により日本の漫画が商業主義に走りすぎていることに危惧を唱える人間は
必読の作品でした。
【文責注】ここから先は物語の核心に触れる部分が書かれていますので、
未読の方は閲覧をご遠慮ください!
物語は2008年1月4日(金)の夜から始まる。
新宿の高層ビルにスタジオを構える売れっ子漫画家・天野翔(25)は、
原稿を取りに来た担当編集の”ハゲ山”こと影山建次(27)を招いて昭和漫画談義に花を咲かせた。
※天野翔は昭和漫画マニアで毎週古書店で300冊購入している。
深夜になり、ハゲ山は同行してきた天野と共に原稿を入稿する為、
豊島区椎名町の常盤社(天野が連載している漫画雑誌の出版元)に向かう途中、
始発にしては早い(と言うか深夜には珍しく)都バスが到着し、
2人が乗車したバスは中落合方面に向かった。
目を覚ましたら・・・
40年前に廃線になった14系の都電が?!
1月なのに異常に暑い。
博物館の展示物になっている車が走っている?!
新宿の高層ビル街も、東京タワーもない?!
そう、天野とハゲ山は昭和31年(1956年)7月の豊島区椎名町にタイムスリップしていたのです。
ってことは・・・
トキワ荘があったかも・・・!
好奇心旺盛な天野と、タイムスリップした事実を受け入れてくれないハゲ山はトキワ荘へと向かった。
その前に これは夢かも知れない
夢なら覚めないでくれ
現代の漫画が生まれる瞬間を
オレはこの眼で見てみたい
このころのトキワ荘は、当時26歳の手塚治虫が売れっ子漫画家になり、
収入も安定したことから近くの並木ハイツに引っ越したあとであったが、
(売れっ子漫画家になっても時折トキワ荘を訪ねている。)
この後、トキワ荘で成功した手塚治虫の後を追って若者が次々とトキワ荘に入居した。
”藤子不二雄”の藤本弘(21)と安孫子素雄(21)、赤塚不二夫(21)、寺田ヒロオ(24)、
つのだじろう(19)、石森章太郎(18)・・・
日本の漫画界を支えた人間は、みんなトキワ荘から始まった。
24時間限定のタイムスリップは意外な形で幕を閉じた。
そして、天野とハゲ山にとって、想像を絶する結末が・・・
これはまさに衝撃的でした。
昭和漫画マニアの売れっ子漫画家がトキワ荘時代にタイムスリップし、
後の大物漫画家になる若者と語ったことで、
先人たちが築き上げた道を今、歩いていることを実感している。
そして、巻き込まれる形で付き合わされたハゲ山は・・・
天野の寝ている隙にバスから飛び降り、意を決して昭和31年に残ることに。
タイムスリップを経験したことで、ある思いが込みあがってきたのだ。
過去を変えると
未来も変わってしまうのが
時間旅行の定説だ
過去に係わっていいのか?
未来を知っているから、株で財産を築き、豊島区椎名町に常盤社を設立した。
そして、52年後、78歳になった影山は、常盤社会長という立場で天野と”再会”した。
発行する漫画雑誌は読者からの葉書やアンケートを一切やらない。
週刊少年ジャンプでも読者からの意見は真摯に受け止めているが、これは逆行になるのでは?
それには影山の思いが背景にあった。
資金的に体力があるから売れなくてもいい。
いい作品を世に残したい。
絵がヘタでも大事なのは情熱。
戦前戦後に出版された漫画は出版社の枠を超えてデータベース化。
この作品は、商業主義に魂を売った日本の漫画界に一石を投じた問題作。
秋本治は「こち亀」を連載している週刊少年ジャンプに身を置く立場でありながら、
週刊少年ジャンプの色と空気に逆らった内容を書くのは、相当な覚悟が必要だっただろう。
利益を求めるより、質を高める。
将来のメディアミックス化前提は、編集部からの恫喝。
アニメ化やドラマ化される作品には、作品の持つ質の高さがあってこそである。
昨年目だった一連の”食品偽装”で、多くの消費者から反発反感を招いたことを考えたら、
メディアミックス化前提の作品は、僅かな震度でも崩れ落ちる耐震偽装のマンションと同じ。
お偉いさんがアホやから、漫画家がやる気になれないっちゅうねん!
ジャンプスクエアも、創刊してもう3号目。
そこには熱い漫画がそろっている。
追記:同じく2月号に掲載された「帰ってきた変態仮面」はトラウマを(いい意味で)呼び起こしてくれました。
久々に効きましたよ・・・
「それは私のおいなりさんだ」に。
「スクールランブル」を連載している週刊少年マガジンに身を置いている身分ながら、
集英社に堂々と乗り込んできた小林尽に感謝したい。
これは武内直子、藤沢とおる、玉越博幸に続く”事件”である。
外部引き抜き攻勢のあおりを受け、作品を発表する場を求めた結果、
集英社に流れてきたといっても過言ではない。
CLAMPも、PEACH-PITも、ぢたま某も所詮、金の亡者。