一旬驕話(ひ):セミたちのパンタメロン(7) 九木さんの見た日録:運動家の感性
カフェ「モクレン」のチーフはセミ語を解するので、時々カフェの敷地の木々に集まるセミの会話を日本語に訳してくれます。先6月に原稿を送ってくれました。6月といえばまだセミは鳴いていませんから、昨年か一昨年か、またはそれ以上前の会話を読解したものと思われます。とは言いましてもセミたちの会話のあらすじは覚えているかもしれませんが、会話のくわしい様子までは記憶しがたいものです。チーフはまるで今聞いているような文章を書いているのですが、ヴォイスレコーダーで録音していて、それをユックリ読解しているのでしょうか。
さらにチーフはセミに名前、と言いますか、姓を付けています。(大声で分かり易い、華奢に聞こえる等の)声で区別しているのでしょうか。ともあれチーフの特技です。
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セミには人間のやることは理解できないようです
十木(トウキ):朝は気持ちがいいね。
九木(クキ):朝夕ですね、夏は。
一木(イチキ):昨夜、夜中に鳴いていたのは九木さん?
九木:私じゃないわ。私は昨夜ここにはいなかった。屋敷の門に「出入り口の門扉のノブは壊れています。ここから出入りしないでください」と張り紙をしている家があるでしょう。あそこにいたわ。
十木:知っているよ。でもあの門から出入りしないで、どこから出入りするのかしら、人間は。
一木:そうね。私たちは門の上を飛んで入れるけれどね。
九木:人間には私たちには理解できない人間の工夫があるんじゃないかしら。
十木:それにしても人間の考えていることはわからないネ~。
九木:ほんとにそう思うわ。
一木:九木さんの声には実感がこもっているわ。何かあったの?
九木:屋敷の女の人が日録を書いていて……
十木:日録って何?
九木:日記のことよ。この人は日記帳に大きく「日録」って書いてあるのよ。
十木:人間って分からないことをするからナ~。デ、その日録がどうしたの?
九木:暑いので人間は窓を開けるのよ。それで少しだけ日録が目に入ったというわけ。でも日記だからとても短いので、覚えてる。
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理事長の二重人格
…… が済んで少し遅れて事務所に着いた。ヴォランティアだから今日はいかなくてもよかったのだけど、名簿の整理が残っていたので行った。理事長と吉田さんがいた。名簿に切り貼りをするので、理事長の机の上の文具入れに入っているハサミを「すみませんが……」と言ったら理事長が渡してくれた。間もなく吉田さんは協賛団体回りに出かけた。お茶を買いに出かけて帰ってみたら、ハサミはまた理事長の机の上に戻っていた。名簿の切り貼りは済んでいないので、またハサミが必要になった。度々頼むのは気の毒なので「失礼します」と言って理事長の机の方に手を伸ばすと理事長が「これ? 」と言ってハサミの刃の方を私に向けて渡してくれた。今日も礼儀知らずだった。吉田さんがいると刃を自分に向けて私に渡してくれる。二人だけになるとこのような礼儀知らずに振舞う。これで理事長とヴォランティアというポジションの違いを満足させている。
4時ごろ吉田さんは帰って来た。今度の福祉バザーには市の福祉協会からは協賛はするけれども経済的な支援は難しいとのこと。4時半ごろ名簿整理は終わった。福祉バザーのチラシのカットを清書して今日の仕事は終わった。
どの社会運動もこのように外見だけの見栄っ張りな構成員が多いのだろうか。紀夫は今日も遅くなるとラインが来た。
理事長の使い込み
紀夫が遅くなりそうなので、先日副理事長が指摘したけれども結論が出ないままになっている理事長の使い込みについて整理しておく。ハサミ一つを手渡すときも周りの人目を気にして礼儀通りに振舞うけれど、人目がないと上下関係をしぐさ一つに示すほど注意深い理事長がまさか福祉団体の会費を……
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十木:終わり?
九木:終わりじゃないのだけれど、ここで日録のページが変わり窓の桟の都合で見えなくなったのよ。
一木:こちらの方が面白そう。もうちょっと見えてくれるといいのに、残念。
九木:それにだんだん暗くなってきていてね、鳥目って言うでしょう、見えなくなってきていたのよ。
十木:五木さんはセミでしょう、鳥じゃなくて。
九木:地上に出てきて今日で6日目。元気に鳴いたり飛んだリ出来なくなってきて、目も見えなくなって来たのよ。
一木:それは大変ね。
九木:見聞きしたことをみんなに報告できるのもこれが最後かもしれない。でも、もう一鳴きしてくるね。
十木:明日また会いましょう。
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「モクレン」さんの報告はこれで終わっています。九木さんの報告の続きがあったのかどうかは分かりません。