はじめに
拙ブログ「一旬驕話(す):最終回です + ドイツの特ダネメディア・コレクティヴから 中国テクノロジーで守られるドイツの研究プロジェクト」でブログのシャッターを下ろしました昨24年8月10日以来の更新です。ナニユエに急に「番外編」で更新するかと申しますと、近づいてきたドイツの総選挙で今まで日本ではほとんど報じられていない新しい政党が議席を持つかもしれないので紹介文を書いてみようかという気になったからです。
ドイツの政党と新党BSW
ドイツの総選挙での得票率に関する世論調査に BSW という政党が記載されています。しかもオヤオヤと思う得票率が予測されるポジションで、です。
ドイツの政党は戦後長い間、東方外交で信者的支持者を集めていたのだが女性とのスキャンダルで政治生命を絶たれたヴィリー・ブラントで知られる社会民主党(SPD)、ドイツ統一をまとめた折に東独支援に大盤振る舞いをし、この前まで首相だったメルケルのキャリア・メイキングのチャンスを与えたヘルムート・コールで知られるキリスト教民主同盟+キリスト教社会同盟(Union )、ブラント時代には内相、(ブラント後に政権を担当したSPDの)シュミットとコールの政権でも長いこと外相を務めて重鎮の風格を備えていたハンス=ディトリッヒ・ゲンシャーが長い間党首を務めた自由民主党(FDP)が軸でした。その後、緑の党(Die Grünen、一般的には「緑の党」と呼ばれていますが、正式には「90と緑の党同盟」です)が次第に大きくなり、統一後は左翼党(Die Linke)が一定の支持を得ているうちに「もう一つのドイツ」(AfD)が勢力を伸ばしてきました。今や総選挙の記事では、このAfDがどれくらい支持者を集めるかが焦点になっています。
そして今度の選挙で登場した新しい政党が BSW です。 BSW はBündnis Sahra Wagenknecht – Vernunft und Gerechtigkeit(ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟――理性と正義)の省略形です。「理性と正義の実現を目指すザーラ・ヴァーゲンクネヒトとの同盟」党というわけです。ザーラ・ヴァーゲンクネヒトというのは(共同)党首の個人名です。
BSW の成立と主張の一端
Die Linke のジャーナリストで連邦議員のザーラ・ヴァーゲンクネヒトが中心になって2023年7月に組織的な活動を開始し、昨2024年1月に政党としての届けを出したまったくの新党です。構成員のほとんどはDie Linke の出身で、言わばDie Linke の分派(党)です。その立場は全体的に見ると、その成立から推測されるように、左翼的であり保守的であると評されています。
党の総選挙向けの綱領はつい先日1月12日の総会で採択されたばかりです。綱領全体には(私は)アクセスできません。縮少版は https://www.bundestagswahl-bw.de/wahlprogramm-bsw で読めます。難民、移民政策では、約23万人が難民申請をしているが正真に保護を必要としているのは半数以下であるし亡命の権利があると認められるのは多くても2%にすぎない、難民支援の費用はかさんでいて国内の援助を必要とする層への支援が滞っており厳格な規制が必要である等などを掲げています。
オスカー・ラ・フォンテーヌ
この党の役員のリストを見ていましたら相談役(顧問?)にオスカー・ラ・フォンテーヌの名前がありました。長いこと忘れていた懐かしい名前です。1980年代だったと思うのですが(70年代だったかしら?)、西ベルリンに滞在している時に総選挙があり、その時のSPDの党首が彼でした。友人と彼の選挙演説を聞きに行きました。今と違ってタバコの煙がもうもうと立ち上るホールで参加者が盛んにオスカー! オスカー! と叫んでいました。しかし会場を離れるとSPD左派の彼の人気はさっぱりで、彼の下ではSPDは選挙には勝ちませんでした。私が選挙演説会場に行ったのはこの時だけです。そのこともありラ・フォンテーヌを覚えているのです。
彼はSPD政権で財務相(?)を務めたりしたのですがDie Linke に移り、更にはBSW に移り、この党の24年1月の創立大会では基調報告をしています。
政治的な立場とプライヴェートな事柄がどれくらい関係しているのか分かりませんが、https://de.wikipedia.org/wiki/Oskar_Lafontaine#Privatesによると、ラ・フォンテーヌは2011年にザーラ・ヴァーゲンクネヒトとの関係を公表し、二人は2014年に結婚しています。
世論調査での支持率の例
私が時々クリックしているドイツ、ベルリンの新聞 Tageszeitung には(と言うよりも、でも、と言った方が妥当でしょうか)各種世論調査での得票率予測の結果が掲載されています。2025年2月11日版(https://taz.de/)でのINSAの2月10日調査での得票率予測(対前回総選挙増減)は以下のようです(%は省略)。
Union :30.0(+5.9)
AfD:22.0(+11.6)
SPD:15.5(-10.2)
Die Grünen:13.0(-1.7)
Die Linke:6.0(+1.1)
FDP:4.0(-7.4)
INSA について
INSAは2009年設立の市場調査企業Institut für neue soziale Antworten(英語で言いますと Institut for new social answers、新社会的回答調査研究所)の短縮形です。新社会的回答new social answers という表現は耳慣れません。社会的な諸問題に対する回答、と言いますか立場表明への新型のアプローチという意味かと思います。日本では今はアレコレ論議されているオールド・メディアとニュウ・メディアの対比も間もなく手まみれ感をまとい始めますが、そのうち移り気なマスコミにはカタカナでのソーシアル・アンサーが登場するかもしれません。
BSW の得票率予測――議席確保の瀬戸際
上の数値は予測ではありますが、FDPは約7% 減の約4%ですから5%条項によって国会での議席確保が危うい場所にいます。そして新党のBSWは5.5%と予想されています。増加率は新党ですから、0% からの登場で +5.5です。この予測では5%条項のハードルを越えていますが、他の日の他の世論調査ではBSWは5%以下の数値が多いので、議席が確保出来るか出来ないかの瀬戸際にいると言えます。
ドイツでレフトウイングの政党が生まれて一年で議席を確保するとは新しい風が吹き始めたかの感を持ちます。ライトウイングのAfDの議席が急激に増加するとドイツはその大きな社会的、文化的影響にさらされますし、日本もその影響に無関心でいることはできません。このように、少しドキドキしながら2月23日のドイツの総選挙を見ています。