門をくぐったところには腕に腕章を巻いた鬼が立っています。
「コラコラ。勝手に入ってはいかん❗️
こっちへ並べ❗️4列になれ❗️
男はこっち、女はあっちや。
おと…オマエは男か、女か?ほなあっちや。
オマエは?…体と心が違う?
ほな向こうへ並べ。
この頃はどっちかようわからんのが増えたなぁ。
静粛にしろ❗️静粛に❗️」
ぞろぞろと門を通って奥へ奥へ。
閻魔庁へ近付くと誰もがその威厳に打たれて口を開かなくなります。
遠くから微かに聞こえるのは罪人を責める声。
大きな部屋の中にキラキラ光っているのは浄玻璃の鏡(じょうはりのかがみ)。
そして来た者の罪を見通す「見る目」「嗅ぐ鼻」「善悪の首」。
さらに奥には血の付いたノコギリや舌を抜く釘抜き、罪の重さを計るハカリなど、見るだけでもゾッとするような拷問器具が置いてあります。
一同が水を打ったように静まり返る。
そこへ閻魔様が出て参ります。
「王」と印のある冠をかぶり、身には道服、手には笏(しゃく)を持って胸のところへ持ち、ガーっと口を開いております。
※落語ではここで噺家が閻魔の顔を真似します
「いかに赤鬼。」
「ははーっ」
「亡者、召し連れましたか」
「お目の前に控えさせましてございます」
「本日の亡者、その数いかほどなるか?」
「その数、モージャモージャと参っております」
「つまらん事は言わんでいい。
帳面を持って参れ。うむ。
男はこのぐらい、女は…これだけか。
この『923号じん抜け』というのは何じゃ?」
「あ、それですね。
え〜と本人は死んだんですけど、腎臓だけ移植されてまだ生きてます」
「あ、腎臓の『じん』か。
世の中が進むとだんだんややこしくなってくるな…。
この1番上の『ちん抜け』というのは何や?」
「『ちん抜け』…?
そんなものありましたか?
ちょっと帳面を拝借…あ、これ前のページから続いてまして船賃払ってないやつのことです。
『ふな→ちん抜け』」
「ややこしい書き方すな❗️
別のもんかと思った…。
あ〜、いかに亡者よく承れ。
ここはこれから厳しく罪の次第を問い正し、地獄極楽の行き先を決めるべきはずのところなれど、本日は先代閻魔の一千年忌に当たる故、格別の憐憫(れんびん)をもって皆、極楽へ通しつかわすぞ❗️
あとから名前を呼ぶ者だけはここへ残れ」
「あらっ?ちょっともし。
今日は一千年忌やから皆極楽って…そんなことおますのか?」
「わかってまんねん、あれ。
選挙が近いんですわ!」
「はぁ〜、政治家みたいなことするんですなぁ。」
「そうそう。まぁただの人気取りですわ。
ちょっと何かするだけで票入れてくれるアホも多いやろうからな」
「ええ時に来たわ。ありがたいなぁ」
「あ〜皆、私語をしてはならんぞ。
今から名前を呼ぶ者はここへ残れ。
この中に医者の山井養仙(やまいようせん)はおるか?
オマエか。前へ出てこい。座れ。
次に山伏の法螺尾福海(ほらおふくかい)。
歯抜き師の松井泉水(まついせんすい)。
あと軽業師(かるわざし=曲芸人)の和屋竹の野良一(わやたけののらいち)という者はおるか?
それぞれ前へ出てここに残るように。
あとの者は極楽へ通ってよろしい❗️」
亡者達はワァ〜っと極楽へ行ってしまいます。
さて残された4人。
「何でワシらだけ残されましたんやろ?」
「さあ〜?
今まで見てると心配ないと思いまっせ?」
「機嫌も良さそうやったし、大丈夫や」
「おっ、閻魔はん戻ってきました。
お辞儀せぇ、お辞儀せぇ」
「あ〜医者の山井養仙。
その方は未熟なる医術を使い、助かる病人まで多数殺してしもうた咎がある。
山伏の法螺尾福海。
お前は加持祈祷をするなんぞと称して怪しげなる詐術を使い、金銀を貪り取ったる段、咎は軽からず。
歯抜き師の松井泉水。
お前はちっとも効かぬ歯痛の薬を使って人を騙し、虫歯を抜いてやるなどと称して丈夫な歯までも抜いて金銀を貪った。
その咎も軽くないぞ。
あと軽業師の和屋竹の野良一。
お前は諸人の頭上にてハラハラとする業を演じ、見る者の寿命を縮めて回った。」
「え"っ⁉️
そんなもんが罪になりまんのか?
わての商売…」
「黙れ❗️お前ら4人共地獄行きじゃ‼️
鬼ども、コイツらを釜茹での刑にしろ❗️」
「ははぁーっ❗️
さぁオマエら、この中へ入れーっ‼️」
「え、えらいこっちゃ!
見てみなはれ、あの恐ろしいの❗️
熱湯がグラグラいってるし、あんなとこへ入ったら茹で上がるどころか溶けてまうわ❗️
ど、どどどうしたら…」
「さあっ、入れ❗️」
「ちょちょっ、ちょっとちょっと❗️
なんか大きい突き匙(フォーク)みたいなんで突いてきよるがな❗️
そんなことされても入れますかいな❗️」
「待て待て!ここはワシに任し」
「あんた何やったかいな?」
「ワシは山伏や。
悪い事はしたかもしれんが、これでもちゃんと山にこもって修行もしてきたんじゃ。
ワシが水の印を結んだらこんな熱湯も日向水になるわ!
エェーイっ‼️」
「ほ、ホンマかいな…?
まだ熱そうやで…チョンチョンッ、あれっ?
ホンマや!こりゃええ湯加減やわ!
あ〜、ナンマンダブツ」
「あんたあの念仏買いなはったんでっか?」
「違いまんがな。つい口から出たんや」
「いや〜、わしずっとひとっ風呂浴びたいなと思ってたからちょうどよかったわ〜。
湯灌もせんと棺桶入れられたからな。
あ、すんませんそこの鬼さん。
石鹸持ってまへんか?」
「なんちゅうこっちゃ❗️
閻魔大王❗️閻魔大王様に申し上げます❗️」
「どうした、そんなに慌てて」
「あ、あの亡者連中を熱湯へ放り込んだのですが、あの山伏が何やら水の印とかいうのを結びまして熱湯が日向水になってしまいました❗️
風呂入りながら極楽極楽♫と申しております」
「けしからん奴らじゃ‼️
ならば針の山へ放り上げてしまえ‼️」
「オマエら今度はこっちへ来い‼️」
「あっ、今度は針の山や!」
「せっかくいい湯やったのに」
「一歩進むごとに脚に刺さりそうや」
「ふっふっふ…ここはわしの出番やな」
「あんたは何やったかな?」
「ワシは軽業師や。
ガキの時分から修行してるからな。
足の裏はこの通り、板みたいに丈夫や。
ワシならこの上で踊って見せれるわ」
「あんたはええけど、ワシらはどうにもならんやないか」
「大丈夫や。
ワシの体に乗せていったる。
ワシの言う通りに体に乗れっ❗️」
「3人も乗って大丈夫なんか?」
「大丈夫や!もっと乗せたこともあるわい。
1番小さいの真ん中乗って…そうそう。
2人肩へ上がって真ん中と手ぇ組んでな…そうや。
落ちたら知らんぞ!
あと誰か口上言うてくれ」
「口上〜?言わんと気が乗らんのかいな。
よしよし、ほな言うぞ。
東西ぃ‼️
これより4人の亡者、針の山へと登って参る‼️」
軽業師はとんとんと頂上に上がります!
「東西ぃ❗️
首尾よく頂上まで登り詰めたる上からはぁ❗️
いよいよここより千番の一番の兼ね合い❗️
千尋の谷底へ獅子の蹴落としじゃぁ〜っ‼️」
「だっ、大王様‼️」
「今度はなんじゃ?」
「かっ、軽業師が3人を肩に乗せて針の山へ登りまして…。
それはいいのですが、針をポンポン蹴っていきよるんです。
てっぺんに上がったら『獅子の蹴落としじゃ』と言って上から蹴りながら降りてきまして。
あの針、下から上がってくるやつには強いんですけど、反対やと弱いんですわ。
バキボキ折ってしまいよりました。
この予算のない時にえらい物入りです」
「なんちゅうやつらじゃ…
よしっ、それなら人呑鬼(じんどんき)を呼べ❗️
あいつに食わしてしまえ‼️」
「大王様、お呼びでございますかぁ?」
「おお、人呑鬼。久しぶりじゃな。
シャバから来たての亡者4人をお前にくれてやる。
お前が呑んでしまえい‼️」
「かぁしこまりましたぁ。
ほぅ、こら活きのいい、脂の乗って美味そうなやつらじゃ。」👹
「なんか凄いのが来よりましたで⁉️」
「えらい歯や。
石臼みたいな歯が並んでまっせ」
「あれ、ワシが抜いてしもたろか」
「お、あんた歯抜き師やったな!」
「そうや!ワシに任しとけ!
おーい、鬼さん。
あんた虫歯があるなぁ。
いい機会や。ちょっと見せてみい!」
「虫歯なんかそんな下から見てわかるのか?」
「わしゃ商売やってたんやで?
そんなもん口元見たらすぐわかるわ。
わしらもそんな虫歯で噛まれたら敵わんがな。
歯の洞(うろ)へ挟まったりしたらえらいこっちゃ。
どうせならええ歯で一思いに噛んでもらいたいんや!」
「そうか。ならば見てもらおか。
どうしたらええんや?」
「とりあえず手に乗せて口元に持ってってくれ。
そうそう。
はい、口開けて。大きく開けぇよ❗️
うわぁ…なんちゅう恐ろしい口や…。
ちょっと中へ入るけど、口下ろしたらあかんで。
うわっ!鬼さん、こりゃ虫歯だいぶ多いで!」
「あいたっ❗️」
「なっ、痛んだやろ?薬塗るからな。
よしよし…じゃあ一回下ろしてくれ。
あんた手拭い持ってるか?
じゃそれグッと噛んでジッとして。
しばらくしたら熱い唾が出てくるから…出てきた?
ほなワシがひぃふの三つでポンと手を叩いたら手拭いパッと吐き出したら虫歯だけ抜けて出るから。
ええな?いくで!
ひぃ、ふの、みっつ!」👏
「うっ、うわぁ〜っ!
は、歯が全部抜けてしもた❗️
こ、コイツら歯抜けにしよったな⁉️
おのれ〜っ、こうしてくれるわ‼️」
4人をガッと掴むと人呑鬼はそのまま全員を呑み込んでしまいました。
「わぁ〜っ!…おっ?
あんたが歯を抜いたおかげで無事に下に落ちたか。
皆、無事やな…あれっ、軽業師がおらん。
おおーい、軽業師ーっ⁉️」
「こ、ここや、ここ〜っ!」
「ノドチンコにぶら下がってるわ。
早よ降りてこいよぉ〜っ!」
「トントンっ…はぁ〜えらい目に遭った。
ここは鬼の腹か。」
「ここは医者のわしの出番やな」
「医者とは言うても、ヤブ医者なんやろ?」
「ヤブ医者でも一通りのことは勉強してあるわい。
鬼も人間も腹の中はそう変わらん。
とにかくここにおったら胃の中やさかい溶かされる。
ここを出るぞ」
懐から取り出したメス。
胃袋を切って4人で出て行きます。
「うわぁ〜…なんやえらい広いとこへ出たなぁ。
いろんなもんがあるで?」
「いろいろあるやろ?
ちょっと面白いことしよか。
ここにヒモがぶら下がっとるやろ。
引っ張ってみろ。
鬼がクシャミするから」
「クシャミ?ホンマかいな?
よっと!」
「へ…へぇ〜っくしょん‼️」🤧
「ホンマにクシャミが!」
「今度はそのテコみたいなの。
それ持ってグ〜っとこっちへ上げてみ」
「これを?こういう風に…!」
「!…アイタタタタ…❗️」
「鬼が腹痛起こしとる。
面白いなーっ」🤣
「今度はそっちや。
そこに丸いもんがあるやろ?
それちょっとこそばしてみ」
「これかいな?
コチョコチョコチョコチョ。」
「ハーッハッハッハッハ…‼️」🤣
「笑っとるやろ?
今度はその袋になってるやつ、グッと押せ」
「なんやこれ?グーっと!」
ブーっ💨
「鬼が屁をしとる!
なんやこれ、屁袋かいな!
ハーッハッハッハ🤣
…これ、いっぺんにやったらどうなんねや?」
「えらいこと言い出したなぁ。
そんなもんいっぺんにやったら鬼のやつ、クシャミして腹痛起こして笑って屁ぇこきよるわ!」
「ほな、いっぺんにやってこましたろか」
「ほな、鬼を苦しめたろか」
「よっしゃ。軽業師!
オマエもう一回上へ上がれ。
で、あの喉のところをガッと掻きむしれ。
ほんなら鬼、えづき出して苦しみよる」
「あ、そうなんか?
ひょいひょいっと…ここを?
こうか?ガーっと」
「オエーッ❗️」
「さぁこれが1番じゃ!次はクシャミ!」
「ハーックション❗️」🤧
「次はこれじゃぁ❗️」
「アイタタタタタ…‼️」
「これはどうじゃ⁉️」
「アッハッハッハッハ」🤣
ブーっ💨
こりゃ面白いなーっ!
みんないっぺんにしよ、いっぺんに❗️」
「よっしゃ、いくで❗️
ひい、ふの、みっ❗️」
「グェーッ❗️へーっくしょん❗️🤧
イタタタタタタ…❗️ワッハッハッハ❗️🤣
ブーっ💨
グェーッ❗️へーっくしょん❗️🤧
イタタタタタタ…❗️ワッハッハッハ❗️🤣
ブーっ💨
グェーッ❗️へーっくしょん❗️🤧
イタタタタタタ…❗️ワッハッハッハ❗️🤣
ブーっ💨
グェーッ❗️へーっくしょん❗️🤧
…❗️
あっ、ああ、なんという亡者どもじゃ…!
こりゃ早く便所に行って出してしまわなえらいこっちゃ…❗️」
「な、なんか便所行って出すとか言うてるで…⁉️」
「出されたらあかん❗️
まだまだ腹の中で苦しめたるんやからな!
下へ降りぃ、下へ❗️」
「出すって言うてるのに下へ降りてどうするんや?」
「いやいや、上より下の方が安全や。」
「なんかあっちにチラチラ明るいもんが見えてきたで❗️」
「あれは鬼の肛門や!
あそこへ落ちたらいかんぞ!
よし、この辺りでええやろ。
全員で腕と脚組むで!
井桁(いげた=井戸の上に乗せる木の枠組)になれ、井桁に。
こうしてたら落ちんから、あとは踏ん張って離すなよ❗️」
「グヌヌゥ〜っ❗️
こいつら出てきたらどんな目に遭わすか、う〜んっ❗️」
「落ちるなーっ!」
「んぐぅ〜っ❗️このクソッタレめ‼️」
「オマエや、それは‼️」
「みんな踏ん張れーっ❗️」
「う〜っ、ググ〜っ!
トホホ…こいつらどうしても出よらんがな…❗️
だ、大王様、大王様ぁ〜っ‼️」
「人呑鬼、いかがいたした⁉️」
「はぁはぁ…。
もうこうなったらアンタを呑まんとしょうがない❗️」
「わしを呑んで何とする⁉️」
「ダイオウ(大黄)飲んで、下してしまうんやがな」
〜終〜
さぁ〜〜…いかがでしたか?
地獄八景亡者戯。
相変わらず長いお話ですねぇ。笑
本当に関西の笑いっぽ〜い、馬鹿らし〜い、アホらし〜いお話でした。
地獄さえも笑ってしまおうという昔の人の明るさがよく出てる気がします(^^)
地獄のお話は他にもありますが、落語の地獄はどこかほのぼのしております。笑
地獄には行きたくありませんが、何か身に覚えのある方は80万円持っていきましょう✨
お盆初日、笑って頂けましたでしょうか?
連休の方もそうでない方も良いお盆をお過ごしください♫
ではまた(^^)