船からゾロゾロと降りていくと、随分と賑やかな場所に出ます。
「こらまたえらい賑やかな場所やなぁ。
もし、そこのお方。
ちょっとお尋ねしますがここは何です?」
「おお、あんた新入りか。
ここは六道の辻や。
ほら、道が6つに分かれてるやろ」
「おお、これが有名な六道の辻。
真ん中だけ道が大きいんですなぁ」
「その道は冥土筋っちゅうメインストリートや」
「ほほう。じゃ突き当たりは南海電車?」
「それは御堂筋。
…大阪人しかわからんこと言うな❗️
ここは冥土やから冥土筋や。」
「め、冥土筋…なるほど。
樒(しきび)並木が続いてますなぁ。
んっ?『地獄文化会館』…文芸講演会やて!
凄い顔ぶれやな。
芥川龍之介、有島武郎、太宰治、三島由紀夫、川端康成。
テーマは『自殺について』。なるほど。
こういうことはシャバでは聞けんわ…。
向こうの方はまた一段と賑やかでんなぁ」
「あっちは歓楽街ですわ。
料亭やらお茶屋もあるし、バーにクラブにキャバレーも」
「何でもあるもんやなぁ〜!
グランドキャバレー『火の玉』。
『本日のショー・幽霊のラインダンス』やて。
幽霊どないして足上げるんやろ…?
あっちは…『ガイコツのストリップ』?
ガイコツの何見せるんです⁉️」
「さぁ〜わたいも見たことないけど、ひょっとしたら脱いでいくんやなくて、肉でも付けていくんちゃいますか?」
「怖いわ!😱
あっちの方はなんです?」
「向こうは芝居町。
興行で行列できてるでしょ?」
「こっちでも芝居なんか観るんでっか」
「あのねぇ…そんなこと言ってたら笑われまっせ。
こっちの芝居やら何やらみ〜んな名優が来てるんやから、こっちのもん観たらシャバのもんなんかアホらしいて観てられへんで。
歌舞伎なんかこの前初代から11代目の市川団十郎が揃って忠臣蔵やってましたわ」
「あぁ、なるほど。そりゃ凄いわ。
おっ、寄席もある❗️落語もやってまんがな!
三遊亭圓生、桂米朝、古今亭志ん生、笑福亭松鶴⁉️
さすがやなぁ〜。」
「凄いでしょ?
三遊亭円朝が牡丹灯籠を10日間通しでやってましたわ。
この前柳家小三治が来ましたけど、いくら人間国宝でもこっちやとまだ新人やから前座で出てまっせ。
古今亭志ん生・志ん朝、先代と先々代の桂春団治親子会なんか大盛況でしたわ!」
「へぇ〜っ、歴代の名人ばっかりや。
そら見たいですなぁ。
このシークレットゲストってなんです?」
「ああ、それねぇ。
もうすぐこっちへ来るのがおるらしいんです。
いつもは名前と「近日来演」って書いてるんですけど今回はシークレットや言うてましてね。
この近所みんなで誰が来るんやろなー?
そいつまだ何も知らんとどっかで落語やってるんやなーって笑ってますんや」
「縁起でもない話やな…😓
あっちの並びの店はまた人が集まってますけど、あそこはなんです?」
「あっちは念仏町。
みんな念仏買いにいろいろ見てるんやろ」
「念仏…?
念仏なんか買ってどうするんです?」
「あんた何も知らんのやなぁ。
あそこは肝心なとこやで〜!
閻魔はんの前でお裁きを受ける前にあそこで念仏を買っといたらその功徳で罪が軽くなるんや。」
「そんなことしてええんでっか?」
「まぁシャバでいう弁護士みたいなもんや」
「はぁ〜、確かに目の色変えて選んでる人もおるわ。
そら知らなんだなぁ。」
「ま、地獄の沙汰も金次第っちゅうやつやな。」
「あれはどこで買っても同じでっか?」
「いや、そら宗派によって違うで?
南無阿弥陀仏屋とか南妙法蓮華経屋とか。
キリスト教やったらあそこのアーメン商会。
イスラム教やったら向こうのムハンマド商店。
看板見たらわかるから、行ってきなはれ。」
仏教、キリスト教、イスラム教、創○に天○に統○教会まで。
いろんな店から自分の宗派の店に入ります。
「あの〜すんません。
念仏を貰いたいんですけど」
「はいはい、念仏ですね。
どの辺りのものにしましょ?」
「どの辺り…?
いろいろあるなぁ〜。
あの1番上の金ピカの箱のやつはどんなんです?」
「あれでしたら大きい方が80万。
小さい方が70万ですね」
「高ーっ‼️
御念仏ってそんな高いもんですか?」
「いえいえ、そらいろいろございますけどね。
あの辺のやつ買っといてもろたらもう大概の罪は帳消しになって、極楽から車で迎えが参りますわ。」
「いやいや、それほどの罪は無いと思います、私。
じゃあその下の漆のやつは?」
「あれでしたら大は65万で小が60万です」
「それもそんな値段…⁉️
御念仏って全部そんな値段でっか?」
「ここのところ宗教同士で揉めたりして値段上がりましてねぇ…。
お気の毒やと思いますけど」
「グーッと格安なのんって無いです?」
「あの隅っこの方にあるワゴンに時期遅れとか半端もんが置いてますけど、見てみます?
一万円くらいでありますよ」
「は、半端もん…😭
それでも一万円かぁ〜。
おっ?ここにドラえもんとかポケモンの瓶がありますけど…」
「そら子供用です。
五千円くらいのもんですけど、まぁ子供なんてほとんど罪もないし、おもちゃみたいなもんですわ。
あんた、予算はいくらぐらいで?」
「千円とか二千円なら…」😅
「千円???
そらこんなとこの店来たらあかんわ。
裏の通りにこの念仏作る職人が住んでましてね。
その作った時の裁ちクズとかを安く売ってますから、そこへ行ってみなはれ」
「わかりました!
念仏から裁ちクズが出るとはなぁ…」
言われた通りに行ってみると職人街。
表には1,200円とか1,500円なんて値段が書かれてあります。
「おっ!あるある!これやな。
あのーちょっとお邪魔します。」
「はい、どうぞ。」
「この表に値札貼って置いてあるのは御念仏ですか?
えらい安いですけど、どういう念仏なんです?」
「ええ、まぁこんな値で買って頂いとります。
これがビックリ念仏で、こっちが湯念仏。
で、こっちが…」
「ちょっといいですか?
『ビックリ念仏』ってのはなんです?」
「これは夜とか暗いとこ歩いてましてな。
角をまわる時に向こうからも人が来て行き当たった時に
『ハッ!ナンマンダブツっ!』
っていうやつです」
「…。
こっちの湯念仏は?」
「それはちょうどいい加減の湯に入った時にグ〜っと伸びでもしながら
『はぁ〜ぁ、ナンマンダブツ〜」
っていうやつですね」
「…あんまりありがたそうなのは無いなぁ。
こんなんでもやっぱり極楽へ行けますのか?」
「さぁ〜?」
「さぁ〜では困るなぁ、おい…。
やっぱり向こうへ回って時期遅れでも何でも買おうか」😓
仕方なく銘々の懐に合ったものを買いまして、閻魔のいる庁へと歩いて行きます。
そこにはまたたくさんの行列!
「あの〜、えらく人が集まってますが…」
「へぇ。今日は閻魔の庁が開かれてお裁きがあるそうなんで、皆こうして集まってまんねん」
「『今日は』…ってことはこれ毎日ありまへんのか?」
「そうですよ?知りまへんでしたか?
こんなもんたまにしかやってまへん。」
「私、いつでもやってるもんなんやとばっかり…」😅
「向こうはお役所仕事やからねぇ。
ある程度溜まってからやないとやってくれまへんのや。
普段は門を開けもせん。
あんた今日来て今日開いてるのはよっぽど運がええんでっせ!」
「はぁ、そうなんですね。
で、いつ開くんです?」
「それがわからんから困るんや。
どっかにでもちょっと書いといてくれたらええのに…」
「どけどけっ!ワシが掛け合うたる!」
「…なんやえらい酔った人が来ましたで」
「コラーッ❗️開けさらさんかい❗️
エンマーっ❗️エン公ーっ❗️エン的ーっ‼️
ホンマにバカにしやがって❗️」
「おい、赤鬼、青鬼、茶鬼に紫。
なんか恐そうなやつが騒いでるで」
「…ホンマやな。
ええ加減に開けた方がよかろう」
「ほんなら開けぇ」
鬼が閂(かんぬき)を開けると大きな鉄の門がギギギギ…と音を立てながら開いていきます。
裁きを受けるのを待ち望んでいた亡者たちは我先にと雪崩を打って中へと入っていきます。
〜続く〜