さて前回の通り、今日は一文笛でございます。
このお話の前半と言っていい部分が前回ですので、お時間のある方はぜひこちらもどうぞ↓
泥棒と一言で言ってもいろいろとありまして、1つに空き巣があります。
これは捕まっても「窃盗」と「住居侵入」という罪になるんだそうですが、一歩間違えるとそこの住人に見つかってしまう🏠
そうするとこれが『強盗』と名を変えます。
もし抵抗されてケガをさせたりしたならば『強盗致傷』🔪
万が一にも殺してしまったら『強盗殺人』となる😱
これは非常に重い罪になるんだそうですねぇ🚔
(無期懲役または死刑)
落語にはそこまで残忍な泥棒は出てきません。
大半はどこか抜けているような泥棒ばかりですが、今回は一味違います
〜ストーリー〜
泥棒を生業とする男。
泥棒の家に生まれ、幼少の頃から欲しいものがあれば『仕事』をしろと言われて育った根っからの泥棒です。
そんな男のもとへ、その兄貴分がやってきます。
この兄貴分は随分と前に足を洗っておりまして、この男にもいつも
「いい加減に泥棒からは足を洗ったらどうや?」
と諭しますが、この男は
「ワシは根っからの泥棒やから」
と聞く耳を持ちません。
「しかしなぁ、お前ほどの男が泥棒では勿体無いで。
一生それでいくわけにいかんやろ」
「いやいや、ワシには他に腕もないからな。
それでも他のやつみたいに金になりゃ何でもするようなことはせえへんで?
これだけはちょっと言いたいくらいのこだわりがあるんや。」
「こだわり?」🙄
「そう。
ワシはこのぐらいの金なら無くなっても困らんやろうという人間か、こんなやつにこんな金は持たさん方が世の中のためやというやつの懐しか狙ったことないからな」
「ほぉ…偉そうに言いよったな。
それなら昨日、なんでウチの長屋の近くであんなことしたんや?」
「何を言うねん。
言い方は悪いけどもあんな貧乏長屋で、しかも兄貴が住んでるとこで仕事なんかするかいな」
「あの角の駄菓子屋で一文笛を盗ったのはお前の仕業やろ?」
「一文笛?
…ああ〜、あれかいな。ハッハッハ。
あれにはちょっと訳があってな」
男が言うには街角の駄菓子屋に子供が集まっております。
いろんなものを選びながら、子供たちの誰かがおもちゃの一文笛をピーピーと吹いている♫
ふと見ると、少し離れてその輪に入れずにいるみすぼらしい服装の男の子が1人。
楽しそうな笛の音に惹かれたその子供が売り物の一文笛を手に取って物欲しげにまじまじと見ているとその駄菓子屋の婆さんがそれをパッと取り上げ、
「銭のない子はあっち行ってんか」
と、心無い一言。
「駄菓子屋っちゅうのは子供の遊び場所やろ?
ワシはずっと前からあの婆は気に食わんなぁと思っとったけど、これにはワシの小さい頃の姿見た気がして余計にムカッと来てな。
婆が目を離した隙に一文笛ひとつ盗ってその子の懐へ入れて帰ってきたんや。」
「やっぱりお前やったか…😞
実はなぁ、今日はそれを話に来たんや。
お前…あの後その子供どうなったか知ってるか?」
「どうって…笛で遊んでたんちゃうんか?」
「その子供からしたら懐から覚えのない笛が出たわけや。
まぁでもそこは子供やな。
不思議に思ってもついついピーっと吹いたわ。
するとそれをあの婆が見つけてパッと笛を取り上げて
『お前に買ってもらった覚えはない。
さては盗んだな⁉️』
泥棒泥棒と騒ぎ出したんや。」
悪いことにその子には今は浪人ですが元は武士・侍であったそれはそれは厳しい親父さんがおります。
今は身体を患っておりますが、それでも何とか親子2人で生活していました。
「泥棒なんぞする子に育てた覚えはない!
お前はもううちの子ではない。出て行け!」
当然ながら子供は泣きながら覚えはないと必死に訴えます。
しかし実際に懐から出てきたのではいくら言い訳しても聞いてもらえません。
同じ長屋の住人がまあまあとなだめようとしても取り付く島もありません💦
家を放り出されてワーワーと泣いている声が長屋に響きます。
長屋の住人達が心配していると、しばらくしてその声がピタッと止む…。
「長屋の連中も気になるがな。
1人が様子を見に行ったんや。
ほんならなぁ…聞いて驚くなよ。
あの子供…井戸へ身を投げたんや。」
「なっ、なんやて⁉️」
すぐに長屋連中で子供を引き上げ、医者に診せて息は吹き返しましたが…意識が戻らない。
「この話を聞いた後にお前がウチに来たと聞いたから、さてはお前の仕業かと思って今日ここへ来た。
お前…ひょっとしていいことでもしてやったと思ってたんと違うか?
子供が可哀想に思ったんならあんな安物のおもちゃくらい自分の懐から銭出して買ってやったらどうや⁉️
つまらん盗人根性出しよって…。
あの子供が死んだらお前どう責任取るつもりや⁉️」
「…す、すまん兄貴」
「ワシに謝ったってどうにもならんぞ⁉️」
「すまん…!
これで…これで堪忍してくれ!」
懐から小刀を取り出すと右手の指をズバッと切ってしまいました!
「あっ!おい、何をするんや⁉️」
「ググ…ワシは…今日限りでスリをやめる…!」
慌てて兄貴分がボロ切れを持ってきて傷口をギュッと縛り、血を止めます。
「わ…ワシは盗人以外何にもできん。
兄貴、すまんがこれで今日から真っ当な道で生きれるように万事頼む…!」
「ああ。思い切ったことやりよった…。
わかった。ワシに任せとけ。
どんなことがあっても一人前にしてみせるから、すぐに医者へ行って明日ウチに来い。
それで面倒見てやるから。なっ!」
翌日、手のケガを処置してもらった男が兄貴分の家を訪ねました。
「兄貴…あの子供はどうなった?」
「…まだ意識は戻らん。
隣町にいてる医者知ってるやろ?
あいつは腕利きやからな。
あの医者に診せたけど、あれはひどい医者や。
入院させて手を尽くせばまだ何とかなると言うんやけど、前金で20円(明治の価値で50万円前後)やて。
ここらは5銭のおかず買っただけでケンカになるような家ばっかりの貧乏長屋や。
どこをかけずり回っても20円やなんてそんな金は用意できんわ…」
「その医者まだおるんか?」
「いつも行ってる酒屋で呑んでるわ。
いつもあそこで上等の酒呑んで、酔ってから帰るからな。
話しようったってあかんで、あいつは。
目の前に金を積んでやっと口聞くって有名な医者やからな…って、おっ、おい。
どこ行くんや?おーいっ!」
ダッと外へ駆け出していく男。
しばらくして戻ってきました。
「兄貴…何も言わんとこの金であの子供入院させてくれ!」
「オマエ…4、50円あるやないか。
この金どうしたんや⁉️」
「…あの医者から盗ってきたんや。
約束破ってすまんけど、あの子に死なれたらワシはどうしたらいいかわからん。
あの子が助かったら懲役でも何でも行く!
この金もなぁ…1回こっち通るだけでまたあいつの元へ戻るんや。
なっ、今回だけは見逃してくれ!」
「そら人の命が懸かってるんやから見逃すも見逃さんもないが…。
しかしまぁ名人やなぁ〜、お前は。
指2本飛ばしてまだそんな仕事ができる腕があるんかい?」
「へへ…。
実はワシ、ギッチョ(左利き)やねん」😅
〜終〜
さて、いかがでしたか?
ホントに改心してるのか疑ってしまいますが…🤪笑
まぁ結果的に子供は助かったのでよかったんでしょうかね?
(嘘は泥棒の始まりですよ⚠️笑)
最近は左利きを右利きに直す習慣も無くなったので、左利きの人も昔よりよく見かける気がします。
嘘か本当か左利きは天才が多いといいますが、左手を使うと左脳がよく働くという話があるので、あながち間違いでもないのかもしれませんねぇ🧠
(スポーツ選手は得することが多いですが)
ちなみに前回の「盗れない煙草入れ」というのは恐縮ながら僕が勝手に名付けたものです。
あのお話と今回のお話で一つの演目となります。
寄せなどで聞く機会があればご注意下さい。
落語では人気のあるお馴染みの人情噺。
あの桂米朝が作ったお話。
「一文笛」でした。
ではまた(^^)